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WD#63 シアトルアドベンチャー4

十一日目〜己との戦い〜

 残るはあと二日。ただ、最終日は帰国するだけなので実質この日が最終日といってもいい。そんなラストのイベントが、シアトル・マリナーズの野球観戦。私自身あらゆるスポーツと縁がないのでそこまで興味はなかったが、結果的にはめちゃくちゃ盛り上がったし、スポーツっていいなあ、となんとなく思った。別にその気持ちが「なんかスポーツやりたいな」という気持ちに繋がったわけではないけれど。
 しかし、その日は個人的に大前提としてとある問題があった。それは、「うっすら体調が悪かった」ということ。朝起きた時にまず喉が少し痛くて、でも別にそれはこの日に限らず前も何日かあって結局大丈夫だったのでスルー。そしたら自分の声が少し変なことに気づいた。なんかいつもより声がこもった感じになっていた。でもまあ、全然動ける元気はあったのでスルー。こうして、とりあえず今日も頑張りますかという気持ちでこの日を迎えたわけだが、「なんか朝体調微妙だったけどお昼くらいにはめっちゃ元気だったわ!あはは!」なんてことは基本ない。
 野球観戦の前にスターバックス一号店がある付近をウロウロする時間があったのだが、その時に私の頭の中にあったのはほぼ自分の体調のこと一色で、「このままぶっ倒れて寮に強制返還されたらどうしようかな…」などとただただいろんなケースを想像することに徹していた。
 ただ、そんなことをしていても仕方がないのでとりあえず誰かに相談してみるか、と思い近くにいた友人に話したらめちゃくちゃ心配してくれて、その勢いでやっぱり寮に強制返還されそうになったのでそれは断った。すると別の友人がそれを聞いてたまたまトローチをくれて、その後はそのトローチのほろ苦さを噛みしめながら活動することとなった。トローチってあんまり舐めたことなかったんだけど、のど飴みたいなノリじゃないんだね。苦いね。でも、それもトローチによるのかな?まあいいや。とにかく、今思い返しても、この時がこの日の体調の悪さのピークだった。
 そこから1〜2キロくらい歩いてスタジアムへ。そこはちょうど数日前にオールスターゲームが行われていた場所だ。タッチの差で大谷翔平に会えなかった。スポーツゼロ興味人間の私でも流石に大谷翔平に会いたいという浅い気持ちはある。スタジアムに入るとそのまま流されるように座席に座り、流れるようにプレイボールとなり、後ろにいた野球知識陣から色々ルールを聞いたりしていた。
 スタジアムで野球観戦をして思ったことは、やっぱりアメリカの人は愉快。そう判断した標本がだいぶ偏ってることは十分承知のうえで、アメリカの人たちのノリの良さに感動した。ビートが鳴り響くとそれに合わせて踊り出し、それがモニターに抜かれるとますます踊り出す。それは老若男女において同じだ。ちなみに自分たちも少し映った。米国人の仲間入りだ。日本よ、さらば。
 その後も自分のうっすらずっと悪い体調と闘いながら野球を観戦してた。とっても楽しかったけど、体調がもっと良かったらもっと楽しかったんだろうなあ、と思うと悔しい。そして結局マリナーズは勝った。ホームランも見れた。しかも私たちが見た試合が偶然マリナーズ1000勝目だったらしく、すごく花火が打ち上げられてた。ああいうことを日本でやったら近くの無駄に高い家に住んでる人から「うるさい」ってクレームが来るんだろうな。やな国。
 こうして無事ぶっ倒れることなく十一日目を終えることができたが、結局起きた時から、試合を観てるときも、そこからリンクライトレールで帰るときも、寝るときまでずっと体調が芳しくなかった。この十二日間で、多分一番不調な日だったと思う。それがよりにもよって帰国前日だったので、かなり不安な状態で寝ることになった。あと、気づいたこととして、体調がずっとうっすら悪いと素直に笑えなくなる。



十二日目〜帰国〜

 起床。気になる体調の方だが、ずっと良くなっている。さすが前夜に友人たちとのボードゲームを早めに切り上げさせてもらっただけはある。とどのつまり大事なのは睡眠だ。皆さん、ちゃんと寝てますか?ちゃんと寝ないとうっすら体調悪い中知らない選手がホームラン打ってるのを見ることになりますよ。
 食堂へ行って最後の食堂での食事を済ませた。今となってはもうちょっといっぱい相席したかったなあ、と思うが、それにしてもたくさんの経験をこの食堂ですることができた。最後は友人らと一緒に食べた。いつまで経っても注文はぎこちないままだった。
 部屋に戻り、机の上に散らかった旅の思い出をスーツケースに無理やり詰める。とりあえず入ったが、閉まらない。小さめの象に乗ってもらわないと閉まらないくらい、閉まらない。色々試行錯誤した(日本への帰国がかかっているので、この試行錯誤には相当焦りが含まれている)結果、中に入ってたものを少しずらしたらしまった。3次元テトリスみたいなものだ。しばらくして荷物の重さを量りにいった。前夜にお土産など含めずに量ったら14キロ(20キロ越えるとアウト)だったので流石に大丈夫だろうと思いながら寮の廊下をゴロゴロいわせながら量るとこまで行って量ったら、19.6キロだった。危うい。もうここまできたらはかりの精度次第みたいなところはあるが、それを信じて寮を去った。いろいろありがとう。12日も家として機能していた場所を離れるとなると流石にかなり寂しい。記念に自分の部屋の一角の写真を撮って部屋を出た。
 空港着。12日ぶりにここにきたわけだが、入国時とは全く違うところから入ったため、「うわ!ここ2週間前に来たわ!懐かしいなあ…」となることはなかった。でも、着実に、確実に、シアトル研修が終わっていくのを感じて少しずつ悲しくなってきた。
 色々手続きを済ませ、もうあとは飛行機に乗るだけという段階まできたときにしばらく自由時間があったのだが、みんな空港内でアメリカ最後の食事をとっていたので、私もみんなが並んでいたハンバーガーの店に並び、20ドルのハンバーガーを食べた。もうアメリカを去るんだから、ここにきて値段なんてどうでもいい。たとえ100ドルでも食ってやるよ(ちなみにめちゃ美味しかった)。
 こうしてアメリカに別れを告げ、飛行機に搭乗。ここから行きより少し長い9時間程度の空の旅が始まる。まず映画のRRRを観た。アツかったねえ。メッセージ性とか一回捨てて、ただただアツい映画だった。あんまりバトル系とか好きじゃないんだけど、そんな自分でも、3時間あっても、かなり面白かった。みんなも一回観よう。ちなみに途中で機内食が運ばれてきたのだが、そこで12日ぶりのご飯を食べた。牛丼みたいになってた。泣きそうになった。やっぱり自分は日本の人間なんだと気づいた。
 RRRを観終わった後はただただ音楽を聴いたりしていたらほとんど寝ることなく9時間が過ぎ、成田に到着。久々の日本はサウナのようで、飛行機から出た瞬間にムワッとした空気が自分の身を纏っていく。シアトルにはなかった不快感に襲われた。そうだ。日本はこんな場所だったんだ。
 まあこんな感じで帰国できました。よかったよかった。荷物受け取りコーナーでいろんな荷物がコンベアを通過していくのを見つめたりしたりして、久々に母親に会った。こうして長いようで短かったシアトル研修は、幕を閉じたのである。



その後

 母親と合流したあと、思いの外あっけなく解散となり、まだ整理しきれない中で色々シアトルの感想を述べながら駐車場に向かい、スーツケースをトランク入れて帰路についた。母親はあんまり道をわかってなかったので、前をゆく友人の車っぽい車をロックオンし、多分途中くらいまでは同じだろうと思って軽く尾行しながら帰った(すぐに分岐したのでその後は自力で帰った)。
 日本での最初の食事については、ここでなんか高級なラーメンとかを食べに行くというのも一手だが、個人的には普通の家のご飯を食べたいな、というのがあったのでそれをオーダーした。結局あれが一番美味しかったなあ。
 帰国した時はそこまで疲弊し切ってはなかったんだけど、家で久々に浴槽に浸かったら信じられないくらい疲れて、まるでこのシアトルで感じた“疲労”が全て乗っかってきたくらいに疲れて、倒れるように寝た。10時間は寝た。目が覚めた時の蒸し暑い感じは、ここがシアトルではないということを私に改めて教えてくれているようだった。そして、つい先日まで友人とワイワイ楽しく過ごしていたので「なんか寂しいな…」と思った。結果的にその日はずっと家でダラダラしてたな。普段ならそれは「結局何もできなかった日」なのだが、この日は、シアトルでの日々の日本での日々の合流地点というか、まるで海水と淡水が混ざり合う「汽水域」みたいな日だったように感じる。良いように言えば、そんな感じ。
 さらにその翌日、シアトルにいる間もずっと観たいと思っていた「君たちはどう生きるか」を観た。これだけ言っておくと、めちゃくちゃです。観終わった直後に「あれはこうで、あそこはこういう意味だな。」と簡潔に処理できる人はこの世にはいない。時間が経つにつれて、自分なりの解釈ができるようになってくるものだから。私も直後はいろんな感情がごちゃごちゃになってレビューを書くことをやめよう、書いても無駄だと思ったのだが、帰宅する電車の中くらいでだんだん整理がついてきて、自分なりに「こうやって感じました」ということを書きたい、と思うようになってきたので、近くにレビューを出します。あくまで自分なりの解釈なので、ぜひ一度ご覧ください。
 ただ、この映画を観た人のなかで本当にやめてほしいのは、「わからなかった」と一蹴して 低い評価をすることだ。以前に世にも奇妙な物語でひとつ難しい話があって、なかなか考えさせられたのでTwitterでみんなのリアクションを見たら「意味わからんかった」「よく分かんない。がっかり。」とかいう意見が散見されて、かなり腹が立った。お前たちはインプットとアウトプットしかできないパソコン人間なんですか?考えることを放棄した筒人間なんですか?違いますよね!!脳がありますよね!!インプットした情報を、自分なりに考えて、「こういうことかな」とイメージを膨らますのが楽しいんでしょうが。まったく。最近の人たちは「考えること」を放棄して良し悪しを判断する人が多いように感じるので、分からない、という理由で面白くなかった、と判断するのはやめよう。それは作品へ対する冒涜だ。
 まあこんな感じでシアトル後の余暇を自分なりに満喫していた。また、そんな中でシアトルの総括を書かなきゃいけないのだが、週一で日記をこうして書かせていただいているので、すいません。楽でした。すいません。



振り返り

 シアトル研修を振り返って、ということだが、ここでうだうだ書いてても仕方がないように思うので、一言だけいわせてください。

すっっっっっごく楽しい旅でした!!!!!


(おわり)




【今週の素人星座占い】

一位 天秤座

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