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先生がサンドバッグに?

こんなこともありました。明るい話題ではありませんが問題提起の意味もあり再掲します。

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朝の学活が始まる前でした。職員室を出た私はS先生と話しながら教室に向かいました。S先生は3年生のクラス担任です。私はその年は担任をしておらず、年休を取った先生の代わりにS先生の隣のクラスに行くところでした。

教室が近づくと男子生徒たちが廊下で騒いでいるのが目に入りました。「教室にはいれ」S先生が生徒たち声をかけました。「学活が始まるから教室に入りなさい」私も言いました。学校ではよくある場面です。生徒はしぶしぶ教室に入っていきます。

でもその日は違いました。一人の生徒が突然「キレた」のです。彼は何も言わず突然S先生を蹴り上げました。S先生は後ろにのけぞり、そのまま廊下にうずくまりました。生徒はうずくまるS先生をなおも蹴り続けます。「やめなさい」私は彼を後ろから引っ張りS先生から引き離そうとしました。「うるせえ!」生徒は私を押しのけました。私は彼に殺気のようなものを感じました。中学3年生ともなれば力はあります。私などとても叶いません。次は私がやられるかもしれないと思いました。そばにいた生徒たちも唖然としています。「みんなも止めて」私は周囲の男子に言いました。 

「もうやめとけ」一人の男子がそう言いました。すると掴んでいた生徒の力が突然緩みました。そして私の手を払い除けると彼はそのまま教室に入って行きました。廊下にいた生徒たちも無言でぞろぞろと続きます。廊下にはS先生と私、そして声をかけた生徒が残りました。その生徒に私は職員室に連絡するよう頼みました。S先生はゆがんだ顔をしてわき腹を抑えています。かなり苦しそうです。数名の教師が飛んできてS先生を保健室に連れて行きました。S先生のクラスの学活は他の教師が行い、私は隣のクラスの学活を行いました。教室から一部始終を見ていた生徒たちは凍り付いたようにシーンとしていました。

S先生はすぐに救急車で病院に運ばれました。診断の結果、肋骨のひびが入っていることがわかり、その後2か月の療養休暇を取りました。公務災害にもなりませんでした。

加害生徒は別室に呼ばれ指導を受けました。放課後は生徒の親も呼ばれ、本人同席のもと学年主任と生徒指導主任から一部始終が伝えまられました。けがを負わせたことについて親は謝罪したそうですが、生徒が反抗したのはS先生の日ごろの指導に不満を持っていたからだと主張し、原因はS先生にあると言いました。穏やかなS先生は生徒にも慕われており、指導に問題があるように私には思えませんでしたが、生徒との間に個人的に何かあったのかもしれません。でも暴力は許されません。

その後S先生が警察に被害届を出すかどうかで教師の話し合いが行われました。意見は分かれました。生徒であっても暴力は許されないから被害届を出すべきだとする教師と、学校内のことを警察に委ねるのは教育を放棄することになるから出すべきではないという教師に分かれ、話し合いは紛糾しました。結局S先生の意向を聞くということになり、被害届は出したくないというS先生の気持ちを尊重して届は出されませんでした。それがS先生の本心だったかどうかはわかりません。結局、暴力をふるった生徒は学校長から注意を受けただけでその後は普通に登校しました。

私の中には割り切れない思いが残りました。教師の暴力により生徒がけがをしたら教師は処分を受けます。もちろん体罰は許されません。一方、生徒の暴力で教師がけがをした場合の対応はまちまちです。謹慎を受ける場合もあれば口頭注意に留まることもあります。「生徒の将来を考えて」とか「教育的配慮から」などという声がありますが、先の生徒のように咎めを受けないというのであれば理不尽としか思えません。たとえ教師の指導がまずかったとしても暴力は許されないはずです。一人の教師がポツリと言いました。「俺たちはサンドバックみたいなものなんだよ」と。

近年、生徒による教師への暴力はかつてのようには多くありません。でもまったくないというわけでもないようです。S先生のように怪我をしても泣き寝入りする教師はいるのでしょうか。適切に対応されていることを願うばかりです。


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