かつての「学年だより」に載せたフィクション仕立ての学校の様子です。今回は修学旅行をレポートしました。１９９０年代のことです。

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一日目。待ちに待った修学旅行だ。当日は駅の北口に朝６時４５分に集合。６時３０分より前に来てはいけないと言われていたんだけどぼくは６時２０分駅に行った。すでにたくさんの生徒が集まっていた。ぼくと同じでみんな待ちきれないんだ。

６時３０分。実行委員長のハマダくんが「並んでー」と言ったらみんな素早く並んだ。前日指導で「集合の仕方が悪い」と注意されたのでみんな気をつけているみたいだ。出欠確認のあと出発式。校長先生のお話や添乗員さんの紹介などがあり、修学旅行担当のヤギ先生がこのあとの流れを説明した。１，２年の先生や野球部の生徒たちも見送りに来ている。何だか出征兵士みたいだ。でも剣道部の僕としてはあんなにたくさんの後輩が来てくれる野球部がちょっとうらやましかった。ただあの場所で校歌を歌い出すんじゃないかとちょっと心配した。野球部は何かというと校歌を歌うからだ。練習のときもいつも歌っている。

７時過ぎ、みんなでぞろぞろとホームに向かった。７時２０分の電車に乗って新幹線の駅まで移動した。新幹線に乗ったらいよいよ修学旅行だという実感がわいてきた。９時にはおやつもゲームも解禁なのでみんな大はしゃぎだ。カメラのシャッター音があちこちで聞こえ、みんなあっちに行ったりこっちに来たりと大忙しだ。大貧民をやっていたらシマさんが「私もやる」と言って加わって来た。「自慢じゃないけど私やり方知らないんだ！」とシマさん。やり方を知らないのに参加するところがシマさんらしい。浜名湖が見えてきた。誰かが「琵琶湖だ！」と叫んだ。１０時４５分、かなり早いがもう昼食だ。時間が早いうえにお菓子を食べ過ぎたのでおなかは空いていなかったけど、お弁当のふたを開けたらいつもよりずーっと豪華でびっくりした。「お母さん気合いが入ってる」と思わず感激した！ 「高いからまだ買わない」って言ってたメロンまで入ってる。

１２時前に京都に到着。京都駅は修学旅行生でごった返していた。すごい格好の中学生もいて、ぼくたちがすごくまじめな中学生に見えた。奈良行きの近鉄はビスタカーだった。ちょっと冷房がききすぎていたけど乗り心地はよかった。電車を降りて近鉄奈良駅から興福寺まで歩き、五重塔の前で記念撮影。すごく暑い！　A組はフルカワ先生の周りに集まってみんな神妙な顔をしている。後で聞くと駅や道路でのマナーが悪いと先生に注意されたそうだ。確かに混雑している中で団体のぼくたちはちょっと配慮が足りなかったかもしれない。

奈良公園は班別行動だ。 僕たちの班は最初に大仏殿に向かった。鹿がいっぱいいた。 ぼくが鹿せんべいを買っていると鹿がたくさん集まってきた。ミユさんはせんべいを自分で食べていた。おいしくないらしい。トモコさんが人力車のお兄さんに「おっ、姫、人力車乗らへんか！」と声をかけられている。トモコさんは「いりまへん」と関西弁で答えていた。環境にすぐ順応するトモコさんだけのことはある。あまり暑いのでみんなでジュースを買った。フユトくんは自動販売機に手を挟まれて痛がっていた。二月堂、三月堂、春日大社をまわって最後は興福寺の国宝館に行った。でも時間がなくなってしまいゆっくり見られなかった。阿修羅像もちらっと見ただけだ。３時３０分自主行動終了。奈良をあとにして京都に向かった。

京都行きの電車は一般の人と一緒だったのでみんな疲れていたけど席を譲っていた。お年寄りが乗ってきたときウエノさんが「私立つ」と言って立ち上がったら横から来た元気な小学生がちゃっかり座っていた。ウエノさんは苦笑いをしていた。ホテルに着くとみんなその豪華さに「すげー」と驚きの声をあげた。僕もあまりホテルに泊まったことがなかったのでちょっと興奮した。部屋はカワノくんと一緒なんだけどカワノくんは廊下に靴を脱いでいた。彼もホテルには慣れていないらしい。食事もおいしくてぼくは何杯もご飯をお代わりした。 メニューはエビフライとシーフードグラタン、ハンバーグにスパゲッティ、サラダにミネストローネ。デザートはチーズケーキだ。大食いのオオヤくんは先生からもいろいろ分けてもらっていた。

夜の自由時間は最高に楽しかった。女子の部屋に行ってカードゲームをしたあとあちこちの部屋を渡り歩いた。イトウくんの部屋に行ったら男しかいなかった。ベッドの上に男子が５，６人寝そべっている姿はちょっと異様だった。モリくんの部屋で「筋肉番付」を見たけど家で見るよりずっと楽しかった。８時半からは班別会議や班長会議があり、１１時に消灯。先生たちが見回りに来たあとカワノくんとしゃべっていたら「おい、いつまでしゃべってるんだ」とドスの効いたタカベ先生の声がした。思わず昼間見た大仏を思い出した。タカベ先生の体形はまるで大仏だもんな。　　
 

二日目。今日は京都市内で班ごとに体験学習をする日だが、午前中は全員で大徳寺に行き座禅を体験する。座禅の前にお坊さんの話を聞いたが、タレントのようなお坊さんが「今やれることをやらずしていつやる！今でしょ！」とどこかで聞いたセリフを言っていた。座禅は３０分くらいだったが正座は辛かった。目を閉じて座っていると警策を持ったお坊さんがあちこちでビシバシ背中を叩いている音が聞こえた。誰が叩かれたのだろうと片目を開けるとやんちゃなタクマだった。ヒロやシンスケも叩かれていた。そのあとキタヤマ先生が叩かれた。お坊さんは先生も容赦しないのだ。キタヤマ先生、彼女のことでも考えてたのかな？。そんなことを思っていたら突然背中に衝撃を感じた。ぼくが叩かれたのだ。お坊さんはぼくの雑念をちゃんと見抜いていた。すごいと思った。でも叩かれるのは意外と快感だった。お坊さんが前に来たとき手を合わせて頭を下げるとたたいてくれるというので自分からお願いしている人もいた。座禅は すごく面白かった。

座禅のあとは班ごとに分かれ、それぞれのコースを回った。
ぼくたちは八つ橋づくりを体験しにバスで西京極の八つ橋の店に行った。あんこを入れて包むだけなんだけど意外に難しい。お土産に八つ橋を一箱ずつもらった。そのあと北野天満宮に行った。キタヤマ先生のチェックを受けたあと本殿でお参りをし、受験がうまくいくことを願っておみくじを引いた。なんと凶だった。神に頼ってはいけないということなのだろうか。キタヤマ先生は４クラス分の勧学札を買っていた。生徒のための神頼みだろうか。お昼になったので天満宮近くの蕎麦屋でニシンそばを食べた。お昼は好きなところで食べることになっていたんだけど、結局安い蕎麦屋で食べることになった。

午後は金閣寺に行った。チェック係はシオリン先生だった。金閣寺は観光客でいっぱいで、修学旅行生もわんさかいた。外国人もたくさんいてショウくんは英語で何か聞かれていた。でもすらすら答えていた。すごいなーと感心した。金閣寺のあとは龍安寺まで歩き、龍安寺の石庭を見学した。

ホテルに戻ったのは５時ちょっと前だった。部屋に行くと先に戻っていたカワノくんはシャワーを浴びていた。カワノくんのあとぼくもシャワーを浴びてさっぱりした。少し休んでいると夕食の時間になった、その日のメニューはロースカツに焼き魚、カニのグラタン、わんこそば、卵豆腐に炊き合わせ。デザートは和菓子だった。

夜は班ごとに体験学習のまとめをした。最後の晩なので自由時間は昨日以上に盛り上がった。でも女子一人が具合が悪くなり養護の先生と一緒に病院に行った。せっかく京都に来たのにかわいそうだなと思った。夜の自由時間はあっという間に終わってしまった。消灯の１１時がとても恨めしかった。先生が回ってきたあとカワノくんと怖い話をしていたら本当に怖くなってしまった。 遅くまで起きているつもりだったのに不覚にも寝てしまった。　

三日目。とうとう最終日だ。朝食のあとはあまり時間が無いので起きたらすぐ荷物の片付けをした。ホテルの食事もこれが最後だ。今朝のメニューは洋食で、大好きなスクランブルエッグが出た。 ７時５０分に廊下にずらーっと並び、そのままバスに直行。堀川通りにバスが４台並んでいた。やっぱりみんなガイドさんに目がいく。みんな若いガイドさんだ。キタヤマ先生もうれしそうだった。その横でマツモト先生が「私だって負けてないわよ」という顔をしていた。

１０分ほどで三十三間堂に着いた。 まず写真撮影をし、そのあとお堂に入って１００１体の仏様を見た。 あれだけたくさんいると迫力がある。みんな自分の顔を探したけどなかなか見つからないようだった。 三十三間堂ではたっぷり時間があったので「通し矢」が行われる裏の方にも行ってみた。サワコさんとナミんが２人で砂利の上を歩いていたが、妙に絵になっていた。バスに戻ろうとしたら男子が何人かで「かわいい女の子がいる！」と騒いでいた。カワノくんは「なんだ、女か！」と冷ややかで興味なさそうだったが僕は興味があったので見に行ってみた。でもふつうの女の子だった。　

そのあとバスで霊山観音の駐車場へ行き、そこから三年坂、二年坂を歩いて清水寺に向かった。この坂で転ぶと寿命が縮まるとシオリン先生が教えてくれたので転ばないように注意して歩いた。道は人がいっぱいでなかなか前に進めなかった。

清水寺はガイドさんの案内で仏足石、鉄下駄などを見てから舞台に行った。仏足石を触った手で自分の体に触れると御利益があると言われたのでみんな自分の体のあちこちを触っていた。やっぱり頭が多い。触るのは一カ所だけと言われたのにトックンくんは体中さわりまくっていた。欲張りな奴だ。音羽の滝には人がたくさん並んでいたので僕たちは滝の水を飲むのをあきらめ地主神社へ行った。ここも修学旅行生でごった返していた。ぼくたちの学校の生徒もたくさんいた。やっぱりみんな彼氏や彼女がほしいんだ。僕も今年こそ彼女を作りたいと思ったので祈りながらおみくじを引いた。最悪なことに大凶。次にタクマくんが引いたらなんと大吉だった。タクマくんはすごく喜んでいた。北野天満宮と言い清水寺と言いぼくは神が信じられなくなった

昼食は湯豆腐の店で食べた。 全員が一つの部屋にぎゅうぎゅうづめだったけど湯豆腐はとてもおいしかった。 昼食後がお土産タイムでみんな買い物に大忙しだった。マコトくんは野球部の後輩に買っていた。 野球部は朝早く見送りにきてたもんなあ。僕も剣道部の後輩に八つ橋を買った。バスに戻るときはみんなおみやげの袋をたくさん抱えていた。

京都駅に着くと来たときと同じ団体にたくさん出会った。みんな二泊三日だからスケジュールが同じになるんだな。新幹線の時間まで間があるのでずっとしゃがんで待っていた。みんな整然としていた。僕はしゃがんでいるのがつらかったので、近くにいた添乗員さんにちょっかいを出しに行った。添乗員さんの携帯電話に貼ってあるプリクラを見ようとがんばったけど成功しなかった。添乗員さんは女子にとても人気があり、プリクラがうわさになっていたのだ。

帰りの新幹線は行き以上に盛り上がった。タカベ先生が「うるさくて寝られやしない」とこぼしていた。でも最後なのでみんな疲れを忘れて楽しんだ。５時４０分予定通り地元の駅に到着。流れ解散なので三々五々家路に着いた。疲れたけど最高に楽しい修学旅行だった。

そして…  明日は…  朝から部活だ。 　　　完