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98 教師のたまり場

生徒が職員室に来ました。先生を探しているようです。近くにいた先生が「ちゃんこ部屋にいるんじゃないか」と言いました。「ちゃんこ部屋」というのは技術科準備室の別名で、校舎の端にある渡り廊下を進んだ先にあります。そこにはプレハブ校舎があり技術科室があります。その一角にある技術科準備室が「ちゃんこ部屋」と呼ばれる部屋です。

15畳ほどの広さの部屋に技術科の備品や教材などが置かれ、担当教師の机と椅子も置かれています。他にも生徒用の机が2つと椅子が数個雑然と置かれています。ポットやコーヒーカップなどもあります。入り口には相撲文字で力士の名前が書かれた暖簾がかけられているので生徒や教師の間で「ちゃんこ部屋」と呼ばれているのです。当時は教師の校内での喫煙が許されていたので別名「たばこ部屋」とも呼ばれていました。暖簾で中がよく見えませんでしたが、おそらく紫煙が立ち込めていたのでしょう。

技術科を担当するのは40代の男性教師でバレーボール部の顧問をしていました。根っからの体育会系です。相撲も好きで朝青龍を応援していました。「ちゃんこ部屋」には彼と気の合う教師が集まっては雑談をしたり、いっしょに仕事をしたりしていました。集まるのはほとんどが男性教師で運動部の顧問です。たまに女性教師が訪れることがありました。中年のお局様のような女性です。他の女性は寄り付きません。先の生徒のように職員室に教師の姿が見えないと自動的にちゃんこ部屋に足を運ぶ生徒もいました。

体育準備室がたまり場になることも多かったように思います。準備室と名の付く場所は「たまり場」になりやすいのかもしれません。「たまり場」は教師の息抜きの場としてよい面もあります。職員室では話しにくいことも気軽に話せます。

その一方で問題もあります。まず、たばこです。今でこそ学校での喫煙は禁止されていますが、当時は教師があちこちで煙草を吸っていました。研究会でも灰皿が準備された時代です。そんな中で「たばこ部屋」は健康にも悪く、生徒のたばこ指導にも影響がありました。

ちなみに煙草に関しては2019年に改正された健康増進法により学校の敷地内は全面禁煙とされています。通勤で使う自家用車の中であっても敷地内での喫煙は禁止です。校外に出て吸う教師もいますが校外は地域住民の目があります。校門の外で喫煙している教師がいるという電話がかかってくることもあると聞きます。生徒の喫煙が通報されるのではなく、教師の喫煙が通報されるとは時代も変わったなと思います。いずれにしても愛煙家の先生は今どうしているのでしょうか。

次に、「派閥」ができたりします。「たまり場」があるとそこに入れる教師と入れない教師が出てきます。入りたくない教師もいますが、入りたいけど入れない教師や入れてもらえない教師もいます、いつしか教師集団の中に「仲良しグループ」ができ、派閥となって力を持つようになります。ニュースとなった教師のいじめ事件もそんな派閥から生じたものではないでしょうか。「たまり場」が特定の教師だけの閉ざされた場になるのは決してよいことではないと思います。

さらに、「たまり場」に入り浸りの教師は職員室にいる教員との交流が少なくなります。職員室の教員は何か話したくても遠くまで足を運ばねばなりません。教員間の情報交換が少なくなり教育活動に支障が出ることがあります。

「たまり場」は今もあるのでしょうか。


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