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シューゲイズ定点観測③ 4/19、20 [RIDE「Nowhere」「Going Blank Again」再現ライブ]

「シューゲイズ定点観測」とぶち上げながらも、観測する高台がグラグラでは天体観測もなにもどうにもならないのと一緒で、就活やらサークルの年度末と年度始まりやらでバタバタし過ぎてbandcampやサブスクで新しい音楽をゆっくり見つける時間が無い。なんもない時間がどれだけ貴重だったのかを思い知った、という定型文が身に染みる。ただ、なんとか喫緊の課題は終わりそうなのでほっとはしていて、またぼちぼち更新したいです。

最近聞いているのはミレニアム周辺のエレクトロニカ~IDMで、オウテカ、Aphex Twinを筆頭としたWarpレコーズの面々やLusine、Matmos、Pub、Electric Company、Funkstorung、初期Caribou等で、今映画「マトリックス」を見返したら感じるようなレトロフューチャーなサウンドが妙にしっくり来る。空気と部屋の鳴りと鼓膜の振動が同期するような心地よさにうっとりしてしまう。と思ってたらオウテカがソニマニで日本に来るという。チケット買いました。


というのをRIDE「Nowhere」「Going Blank Again」再現ライブを観終えて書いているが、正直上の空だ。何回も聞いて、レコードも買って、バンドでもコピーしたあのバンドを見てしまった。2日間に渡るRIDEの名盤再現ライブについてあれこれ書く。

・アルバム再現ライブの意味とライブの楽しみ方
ライブを見る上で「どの曲をやってくれるのか」という期待は楽しさの一部になっている。先日足を運んだArctic Monkeysのライブでもやはり思い入れのある1st、2ndアルバムの曲の演奏(と、それをいかに美味しく料理するのか)を期待している自分がいたし、実際に中期から後期にかけてのBPMを落とした曲のなかに差し込まれた「I Bet You Look Good On Dancefloor」などは前後の曲との雰囲気の違いや、今のArctic Monkeysがやるからこそしっくりくるなといった意外性の実感を超え、単純にイントロが鳴った瞬間の「やってくれるのか」という感慨が勝った。そういった感慨は今回のようなアルバム順で曲を披露する再現ライブでは生まれないだろうと邪推していたが、杞憂であった。馴染みのあるイントロが流れるたびにやはり歓声や拍手で身体が応えてしまうし、曲順を変えないことで生まれる「裏切らない裏切り」が終盤まで作用し、陶酔感が支配する会場の中で、むしろ集中力を持続させる要因になっていた。また、1日目、2日目とも当時のボーナストラックである曲を追加して披露していて、終始サービス精神に溢れたマークガードナーの振る舞いもあり、非常にファンファーストなライブだったと振り返ると思う。

・サウンドについて(「シューゲイザー」なのか?)
RIDEはシューゲイザーなのか。いかにもナード的な問いかけが過ぎていて口にするのも恥ずかしいな、という自意識が働いてしまう。ただ、率直に今回のRIDEのサウンドを例えるなら「jesus and mary chain+初期blur +oasis『Dig Out Your Soul』の数曲」だった。ギターノイズの混じるひたすら大きな音を奏でて会場を満たすのではなく、アルバムにおいて主役であったマークガードナーとアンディベルの声がよく通るような音響。昨年見たAstrobriteのライブにおけるギター1本で大音量のギターサウンドを奏でることで会場中の鼓膜を傷つけるようなサウンドとは対照的だった。そしてそのサウンドだからこそJesus and Mary Chain直系の人懐っこく、甘いと形容してしまえるメロディーラインが際立っていた。また、80年代後期のマッドチェスターシーンの陶酔感と大衆に膾炙できたブリットポップの架け橋である初期blur、疾走感とトリッピーさとダイナミックなプレイが融合した後期oasisを感じる瞬間も多々あった。すなわちシューゲイザーというよりはどこまでも純然な90年代UKロックのスタイルの一つの完成系のように聞こえた。メロディーのわかりやすさとトリップ感をバンド形態で表現しようとするトライの果てにいわゆるシューゲイザーと呼ばれるサウンドに近づいたのだろう。ここにRIDEフォロワーと云われるバンドが(御三家と呼ばれるマイブラ、スロウダイブと比べて)少ない理由があるのだろう。あの頃のUKサウンドの土壌でしか生まれないサウンドを2023年に体感できたことはあの頃のUKロックで音楽に目覚めたひとりとして非常にありがたい機会だったと言える。


・アンディベルとマークガードナー
優れたシューゲイズ/アンビエント/インディーフォーク作品のリリース、oasisの活動で目立つアンディベルと一時期は音楽から離れるもプロデューサーやエンジニアとして活躍するアンディベル。二人のフロントマン/
ギタリストの存在がRIDEの魅力の主要素だ。まず、貫禄のあるマークガードナーとソリッドで眼光鋭いアンディベルという対比からしてバンドの美しさを保証しているよう。そして歌声。時折アンディベルがメインボーカルとなりながらも殆どの曲でメインを取るマークガードナーの褪せない伸びやかな声は忘れ難い。消え入りそうなフィメールボイスが主軸にあるジャンルにありながらThe La's、Pulp、The verveといったUKロック勢と比肩する存在感だった。また、ボーカルに対してディレイやリバーブの処理がかなり強くなされており、ギターのサウンドの残響と混ざり合うことで万華鏡のようなサイケデリックな音が会場中に広がり、「大きい音」だけではないシューゲイザーの魅力の一端が拡張され会場内に満ちていた。sus4やadd9といったメジャー/マイナーの境目にあるコードをかき鳴らしながらフェイザーやコーラスでサイケデリアを作り出すギタープレイもライブ映像で見た通りで、ハコモノのギターによるソリッドすぎないサウンドと混ざり、アルバム再現に留まらないギターロックの真骨頂を浴びた。

・リズム隊
先ほど「アンディベルとマークガードナーはRIDEの魅力の主要素」と書いたが、RIDEの演奏の骨子はローレンス、スティーブ両氏によるドラム隊だった。ギター2人が曲の色を決めるギタープレイをするからこそベースがコード進行とリフを司る。「Seagull」「Twisterella」など両日とも序盤でベースが曲展開を引っ張る曲がライブの推進力となっていた。ドラミングに関してもアメリカンでダイナミックなプレイがバンドのスケール感の演出にひたすら貢献していた。


・ハイライト
1日目の本編のハイライトは「Dream Burn Down」でした。歌→轟音パートというジャンルの雛形のような構成美が光る一曲ですが、ライブで見ると意外とスムーズに切り替わっていてドカーンとこないのが心地よかったです。この曲のアンディのギターフレーズはメジャーペンタトニックをなぞってるだけなのに神々しくて、ライブ映像をひたすら見返していたのですが、生で聞いてきっと私も恍惚とした表情を浮かべていたことだろう。1日目のアンコールの「Leave All Them Behind」はイントロの電子音?単音のギターフレーズをショートディレイで発振させた音?が流れてからの怒涛の展開で、10分間で曲の持つ構成美を最大限楽しむことが出来ました。声とギターの残響が混ざり合うサウンドがリキッドルームという箱の大きさだからこそ生まれたように感じました。

2日目は「Chrome waves」などメロディーをしっかり聴かせる歌モノも印象深いのですが、やはり本編最後に演奏されたインスト楽曲「Grasshopper」はMogwaiさえ思い出すような演奏でした。特にかなり荒々しく歪んだギターからは最後の最後にバンドの持つ肉体性を感じ、バンドの底力が存分に発揮されているようでした。「Vapor trail」「Chellsea Girl」と最後は代表曲で締めるのも粋だったし、メランコリックな佇まいとメロディーが美しいUKギターロックバンドというイメージを改めて持ったまま2日間の公演が幕を閉じました。

・雑感
前日にみたGEZANのライブがアルバムの世界観をリアルに持ち込むために演奏以外の要素をふんだんに取り込んでいたのに対して、RIDEはただ本人たちが当時の曲順で演奏するだけで過去と現在のUKサウンドが会場内に満ちていて、バンドとしての地肩の強さを窺い知ることが出来ました。来年も来日するとMCで言っていたが、新曲「Monaco」のようなPrimal Scream「XTRMNT」もびっくりのデジタルロックが展開されるのだろうか。なんにせよ過去に拘泥するだけのレジェンドバンドじゃない事実が嬉しいです。


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