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2022年上半期 良かったシューゲイザー/ドリームポップ 20選

Parannoul「To See the Next Part of the Dream」という名作が発表され、ディスクガイドが刷新して発売され、「Loveless」から30年が経ちサブスク解禁とレコード再発がなされた2021年はシューゲイザーイヤーといって良かったのではないでしょうか。そんな2021年も終わり2022年になり半年が過ぎ、私個人は結構忙しくて新譜はあまり聞けてません。学校も急に全部対面授業にするし、インターンやらなんやらはやらないとだし、サークルも月20曲くらいコピーしないといけない曲が溜まるし…。とはいえ振り返ると「逃避」の先として自然とシューゲイザーのアルバムやEPに手を伸ばしていた自分がいました。

今回のnoteでは備忘録として短い感想とともに20枚を挙げます。順番に全く意図はありません。


1.Zyr Della /비타민과 우려 Vitamins and Apprehension

インターネットレーベル・LonginusRecordingsより発表。bandcampの紹介文にもあるように、希死念慮の先で辿り着いた光に縋るような切実さが全編に渡って展開されている。風景に覆い被さるようなギターノイズにピアノのメロディーと環境音が重なる瞬間に彼岸に連れて行かれ、アコースティックギターとボーカルのみになった瞬間に此岸だと気付かされる。「To Go Forward Despite the Terror of Living in This World, Clinging to a Tiny Speck of Hope (この世界に生きる恐怖をよそに小さな希望に縋りながら進む)」という最終曲のタイトルがアルバム自体を表している。


2.宇宙ネコ子/日の当たる場所にきてよ

Stone Rosesのようなリフレインと跳ねるドラミングから始まる宇宙ネコ子のアルバムは、シューゲイザー・ドリームポップのイデアかと思えるような神聖さと清涼感を持ってスピーカーやイヤホンから体の中を突き抜ける。ともすればジェネリックな音楽になってしまいそうなギリギリのラインで知らないはずなのに知っている風景を描き、ノスタルジーで聴く人は悶える。


3.Oh Hiroshima/Myriad

北欧はスウェーデンのブラックゲイズ/ポストロックバンド。こうエクストリームに振って緩急をつけながら最後に溶け合ってもう何がなんやら、、みたいな音楽をたまに聴きたくなる。


4.UTERO/For you on sleepless nights

アイドル・Yumegiwa Last Girlのメンバーのソロアルバム。アイドルがニッチな音楽ジャンルに手を伸ばすこと、あるいは有名アーティストが楽曲提供することを称揚してしまうような欲望を一定数の音楽ファンが持ち合わせていることは間違いない。エレクトロニカ×ポエトリーリーディング、轟音ポストロック×J-POPなど先程の欲望を所持する者に取っては垂涎の曲が並ぶ。Parannoulが提供したM4「Space」は打ち込みのドラムによる人間離れ加減、デスクトップで生まれたグリッチノイズ、軽やかさを纏うボーカリゼーションが合わさった極上の「ポップ」ミュージックだ。


5.Endless Dive/A Brief History of A Kind Human

マスロックと轟音ギターを掛け合わせた、と言ってしまえば多くのバンドがすでに行なったフォーマットに近いかもしれない。私感だが、シューゲイザーにはどこか達観した視点が存在し、この世界からの解放の悦びが湛えていると思う。一方マスロックはどうにもならないモヤモヤを、ギターが作る響きとギターが生む刹那的なメロディーを持ったフレージングでもって昇華させている。つまりマスロックは「青」く、シューゲイザーは老練している。Endless Driveはその間を縫うように、達観と刹那を行ったり来たりしながら最高のギターロックを鳴らしている。


6.Bolywool/Dead Reckoning

シューゲイザーの型に嵌まりながらも型を拡大しようとしている作品。ボーカルの歌い方はThe KILLERSなどスタジアムロックのように延びる。このバンドらしさを付与しているのがドラムで、4つ打ちで推進力を作ったりマスロック的な手数の多いアプローチを行ったりと「耽溺」がキーワードであるシューゲイザーの中で試行錯誤しているのが分かる。そんなさまざまなトライの最後の曲に正統派のディストーションギターが主体の轟音サウンドだというのは原点回帰という言葉が良く似合う。


7.Salvana/Salvana

エレクトロニカやアンビエントの深遠さはギターの音が細かい粒子へ変化したシューゲイザーというジャンルと非常に良く組合わさる。Seefeelに通じるトリップ感がこのアルバムの真骨頂だ。ドラムの生音の鳴りは全くエレクトロニカやアンビエントに通じるものでは無いのだが、そういったジャンルと並べたくなる1枚。


8.Oliver Beardmore/Not Shinking,Yet Floating

Radiohead、Travis、初期Coldplayといった少し陰のある美メロUKロックにシューゲイザークラシックスのサウンド。M3は例えるなら「Creep」のようで、洗練され切っていないメロディーが至高のインディーポップとして成立している。「沈む」と「浮かぶ」の間を表すようなタイトルはこのアルバムの雰囲気をまさに捉えていて、好きな音楽を好きな音で鳴らす快楽と制作の過程で向き合った自意識に辟易する様が相容れている。全てひっくるめて至高のEP。


9.Whimsical/Melt

マシンガンケリーやビリー・アイリッシュの影響か、Paramoreやアヴリル・ラヴィーンのような音が「アリ」になったのが2021~2022なのではないか。わたし自身がそれに乗れているかと言われれば微妙なのだが、ああいったポップパンク的なディストーションギターの音がUS、Jラップシーンで鳴っている実感がある。そのフォーマットにシューゲイザーの空間を埋めるようなギターサウンドを載っけたのがWhimsicalだ。BPM高めの曲から中盤にかけて段々と幾重のギターの層を纏い耽美に堕ちていく様が美しい。


10.Basemant Revolver/Embody

カナダの四人組バンド。一聴して耳に残るのはボーカル・Chrisyの透き通るような声だろう。ソニックユースのような荒々しいディストーションサウンドからClarioのような静謐なベッドルームドリームポップまでを乗りこなす声の胆力と存在感は唯一無二だ。歌詞は主に自身や他人の「Care」をテーマにしているようで、どこまでも広がる声というよりもそっと心に寄り添うような響きがある。


11.Clear Capsule/Gravity Licker

邦楽でいうところのLuby Sparks枠。明確に色んなバンドの影響下にいてその意匠を読み取ることが出来るわけだけれど、バンド自体の脂の乗り方によって決して二番煎じにならない。打ち込みを用いたインダストリアルポップ(M3)やビリーコーガンのような歌唱とスマパンの如きヘビーなリフがオルタナ的快楽に満ちたM2、長尺のノイズ/アンビエントが美しいM6など、EPだからこそ表現できた奔放さに圧倒される。いずれリリースされるであろうフルレングスアルバムへの期待が高まる。


12.RAY/Green

前作の「ピンク盤」に続く「緑盤」。吉田一不可触世界、For tracy hyde、明日の叙景、ベルリンと17歳の壁といったミュージシャンからの曲提供を受けた今作はシューゲイザー/ドリームポップアイドルとしてより深化しながら他ジャンル、そして何より「聴きやすくて口ずさみやすい」J-POPと接続を果強めた。アルバムを通して中心にいるのはRAYメンバーの声である。曖昧さを排したメロディーはバックトラックの浮遊感のあるギターサウンドとこの上ない美しいハーモニーを作り出している。Mステに出て欲しい。


13.Just Mustard/Heart Under

The Novembers、Nine Inch nails、マリリンマンソンといったインダストリアル/シューゲイザーのバンドが成し遂げたのはギターロックというフォーマットの音響面での刷新であった。Nine Inch Nailsはヘビーなギターサウンドで幾重ものテクスチャーを重ねながら静謐さを付与させるサウンドで「ラウド」から距離を置いた。The Novembersは同期の音と生演奏の融合をライブ演奏において完成させた。Just Mustarは低音の処理、ベースとドラムの分離感ともたらされる洗練されたヘヴィネスにおいて2022年一番の衝撃であった。サウンドプロダクションが完璧に近い。物もビョークやオーロラといった同じ北欧出身のアーティストと通じる聖的な響きがある。


14.DARLING./Into,Outside

ホームスタジオで作られたという6曲入りEP。打ち込みのドラムサウンドを中心に構成されたローファイなサウンドはJoy divisionなどに通じる。これまでの文章でも触れてきたがシューゲイザーのアルバムには「沈む」と「浮かぶ」、「静」と「動」など相反するモチーフの間を揺れながら成り立つ作品が多い。「Into,Outside」というタイトルも内側への回帰と外側への期待が入り混じっていて、ケビンシールズがスタジオに籠って作った「Loveless」から続くシューゲイザーの内包するテーマ性を体現しているよう。


15.Young Prisms/Drifter

今回のnoteではシューゲイザー+○○みたいなのが大半を占めてるが、Young Prismsは最も正統派、即ちマイブラ直径の作品だ。「マイブラらしさ」は80年代後期の雰囲気を持つ打ち込みサウンドが一部を担っていると思っていて、この作品にもどこかチープな打ち込みサウンドがエッセンスとして用いられている。もちろんイントロにおけるギターのリフ一発で「理解」ってしまう陶酔感が主役であるが、ルーツも含めてマイブラに近いものを感じる。ノイズに溶けていく男女ボーカルは情感を誘うよりも無我の境地へ向かっていくよう。


16.Widowspeak/The Jacket

ベッドから体を起こしたらもう外は朝で、晴れていて、予定はあるけど部屋が心地良くて足を踏み出せない。そんな内側へ留まろうとする魂と外側へ開いていく意識が混ざり合う夢と現実の狭間にあるドリームポップ。揺蕩う意識をストリングスとアルペジオで表現しながらその意識をそっと起こすように鳴る輪郭が曖昧なディストーションギター、その間でアルバムの芯を作るボーカル・モリーの歌声!Big Thiefの新作とも並べたくなる一枚。


17.Sadness/tortuga

M1「august flower」では静謐なピアノのイントロから轟音ギターに突入する、という様式美を見せる一方でシンガロングを煽るようなメロディーを歌う。琴線に触れるメロディーとそれをノイズで打ち消そうとするギターという組み合わせは歪な美しさを放つ。静から動へ拡がる様が9分ほど続くM3、M4などを軸にしたブラックゲイズの過剰さと美しさを堪能できる。


18.Asian Glow/Stalled Flutes,means

LonginusRecordingsから発表された2ndAL。生演奏を前提としていないであろうDTMでしかなし得ないサウンドデザインは曲構成のセオリーから解放されているような印象を受け、緊迫と解放を繰り返しながら予想もつかない展開の波に飲み込まれる。この音の重ね方はNine Inch Nailsなどのインダストリアルロックを連想させるが、すでにギターサウンドに拘泥せず「音の濁流としてのシューゲイズ」を志向しているのが次世代のインディーシューゲイザーシーンの旗手として期待されている理由だろう。



19.羊文学/our hope 

「どこまでも削られシャープに研ぎ澄まされたアンサンブルは2020年代において存在し得ていることが奇跡であり、そこからマーケットに呑まれず理想的な進化を遂げているのも同様であり、こんな色んなことをやり尽くされた時代における羊文学という存在の稀さはタイトル通り「オーパーツ」と言える。」と以前書いた。これはシングル「OOPARTS」とその収録曲を聴いての感想であったが、アルバムを聴いての感想も概ね同じだ。フォーキーな「金色」、名曲オマージュ「電波の街」などバンドの在り方を拡大する曲はありつつ、シングル曲の強度とアンセム具合で成り立っているまさに名盤。


20.MONDO GROSSO「Stranger」[vo.齋藤飛鳥]

 アイドルを追いかけている中で、アイドルのパーソナリティーが作品に反映されている、あるいは共鳴している時に不思議な情感に襲われる。最近観た「サムのこと/猿に会う」における乃木坂四期生、「恋は光」における西野七瀬などがそれにあたる。MONDO GROSSOとの2回目のコラボとなった「Stranger」も「齋藤飛鳥」のシューゲイザーを通した発露、という意味で印象深い。齋藤飛鳥を表す言葉として「揺れ」が挙げられる。それは彼女の歌唱におけるピッチの「揺れ」であり、白石麻衣や西野七瀬や生田絵梨花といった正統派からは距離を置いている(求められたゾーンから外す投球を敢えて行う様は毎週の乃木坂工事中を見るだけでもわかる)というアイドルとしての「揺れ」であり、あと単純に動画を見ると肩を顔を「揺」らしていることが多い。「揺れ」はその場でじっと止まることを避ける衝動であり、そう考えると「Stranger」の歌詞に納得がいく。「まだ見たことない/きわどい角度で/わたしを追い越す/わたしの残像」は「揺れ」による不定形の齋藤飛鳥の存在とその場からの逃避の意思を表現している。「こわれてゆく/すきとおっていく」という一節も視界では捉えられなほどに「揺れ」た様子だろう。MVについても肌着を纏う齋藤飛鳥と花とドレスを纏う齋藤飛鳥を交互に映していて、どちらを主軸とするのではなく「揺れ」ている。
 また、この曲が選択したシューゲイザーというジャンル自体もずっと書いてきたように「静」と「動」など相反するモチーフの間で「揺れ」ることが大きな特徴である。齋藤飛鳥がシューゲイザーを選択するのは必然だったと言える。曲自体の魅力というよりは「一番好きなアイドルのエース×一番好きなジャンル」という事実に惹かれたわけだが、上半期のシューゲイザー関連のトピックとして忘れ難い。




国も年齢もバラバラ、リスナー数が3桁のアーティストからトップアイドルまで…といかに「シューゲイザー」が拡大しているかが如実にわかるnoteになりました。ではまた。




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