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シューゲイズ定点観測① 2023/1/14

「シューゲイズ定点観測」と題して、数週間毎にシューゲイザーと分類され得る新譜その他諸々について短く纏めるようなnoteを更新したいです!したいです!というのは私自身三日坊主過ぎる性格だからで、習慣化して自分を律していきます。

先日、Twitterで「シューゲイザーとは何か」みたいな話題がちらほらと散見された。個人的にジャンルというのは「その作品をそのジャンルの枠に嵌め込む」といった暴力的なことではなく、「1つハッシュタグを加える」程度の効力だと常々感じていて、あくまで1つの見方の提示に過ぎないと認識している。

ケビンシールズさえRIDEやスロウダイブらへのシンパシーと好感は述べつつも「シューゲイザーに分類されることは快く思わない」と発言している(シューゲイザーディスクガイド巻頭インタビューより)。しかし「My Bloody Valentineはシューゲイザーじゃない」など言う方は少ないだろう。勿論いわゆる「シューゲイザー」の雛型として崇められる「Loveless」が打ち込みやサンプリングを多用していて、大量のエフェクターで歪みを造っていた訳ではない、すなわちシューゲイザー的な手法から離れた物であった、という事実は書き留めて置くべきだろう。それでも「Loveless」はジャズマスターと大量のエフェクターを携えたシューゲイザーバンドの目標地点として存在している。本人の発言はどうであれリスナーが思い思いにつけるジャンルという名のタグには一定の効力と正当性は存在して然るべきだし、存在している。

 
 個人的には色んな音が重なり溶け合う感覚、作家のインナーワールドの反映(反映させようと思っていなくとも心象風景が描写されてしまうこと)、タイト過ぎないリズム、ギターの整いすぎていないサウンド、といった要素があればシューゲイザー/ドリームポップというタグを加えたい。

そんな雑でいくらでも拡大できそうな視点を持った上で、シューゲイザーというタグが合いそうなバンドやプロジェクトがリリースする作品位について少しずつ書き留めていきます。


Anima/Cora's Heart

メキシコのミュージシャンによるブラックゲイズ作品。メタルの系譜にあるヘヴィなギターやダブルドラムを使用した重いリズムなどは「気持ちよさ」「夢見心地」といったワードからは距離がある。ただ、2曲目にみられる壮大かつアンビエントライクな聴き心地もあるサウンドスケープは映画音楽的なスケールの大きさと懐の広さを持ち合わせていて、その中に激しいドラミングやボーカルの叫びが溶けていく。中盤からはシンセサイザーの装飾音も加わり、それらが渾然一体になった約10分に渡る7曲目「un ser sin luz」は圧巻。訳すと「光のない存在」らしく、かっこよすぎる。私はヘビーすぎる音楽は好んで聴取してはいないのだけど、荘厳な音の広がりが重さや圧を包み閉じ込める音響が魅力的な1枚。


The True Faith「Go To Ground」

 アメリカはボストン出身の四人組バンド。本人たちがSNSのbio欄に「Post-punk」と表記している通り、確かにその弾けるようなドラムや張り上げるような歌い方はポストパンクのそれに近い。しかし現在のサウスロンドンにおけるポストパンクは「歌メロ」への執着が殆ど無いように思える一方でThe True faithは気持ち良く歌いきる。ポストパンクの中心地ではないアメリカを拠点としたバンドだからこそだろうか。
 Joy Division~King Kruleのようなイギリスっぽいドロドロとした空気感が非常に好みで、特にベースのハイミドルか主張する音作りに薄いリバーブとコーラスによって輪郭がぼやけたギターが載る王道の音作りが理想に近い。特に7曲目「Stuck」のコード進行は変えず音色と手数で曲を推進させる強引な構成はどこまでオルタナティブアンセム然としています。


Blood Estate「Virtue」

 ○○Estateと聴くとReal Estateしか思い浮かばないのだけど、音楽性も近いものがある。アコギやエレキギターのクリーントーンの響きを軸としつつバンドの堅実さも持ちえたインディーフォーク。彼のシューゲイズ性は全ての音が融け合ったようなミックスにある。声もギターの音もノイズもドラムもそして録音室の空気も全てが混在するようなこの作品の響きは彼のインナーワールドを表現しているように聞こえる。


Darksoft「Beigeification」

 2022年にインディーロック/シューゲイズバンドで最も評価されたバンドの1つが5年振りに新譜を発表したAlvvaysであった。Pithforkが「This is an album to come home to, with squalling arrangements and melodies so immediate and sublime it’s like you’ve been singing them your whole life.」と語ったように20年前でも20年後でも"いい歌"と呼ばれるような普遍性をインディーロックのマナーに基づいて届けた。「やっぱ愛でしょ」みたいな開き直りを行ったThe 1975に近いものがある。
 そのAlvvaysの普遍的なメロウで、夢心地で、軽く踊れる"嗚呼美しきインディーロック"といった風情をアメリカのソロアーティストDarksoftから読み取ることができた。決して音数は多くないのに一音の移動だけで胸がキュンとするような、夢へと連れていってくれるような、弾けるギターリフが全編に渡って展開される最高のインディードリームポップでした。


M83「Oceans Niagara」

00年代から10年代のシューゲイザーシーンの「陽」側のヒーローであるM83の新曲。3/17にリリースされるという新譜からの先行シングル。Passion Pit的な聖的で踊れるシンセポップにシューゲイズの轟音を組み合わせて天から降り注ぐような音の洪水を生み出したのがM83であり、この曲もまさに地上へ吹く神の息吹のような心地良さに満ちている。新しいアルバムへの期待が膨らみます。


年が明けて2週間ですが、このペースで行くと噓みたいにたくさんの最高シューゲイズアルバムに出会えてしまいそうです。RIDEの来日公演も決定し、どれだけ多くのアーティストが日本で、生で轟音を響かせてくれるのか今から楽しみです。

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