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SUMMER SONIC 2023 備忘録 「引き受け祭り'23」

2023年もソニマニ~サマソニに参加することが叶いました。私自身そこまでフェス第一、というタイプでは無いのですがThe Strokesが出演すると知り駆け付けたフジロックに続き、今年の幕張3日間にはどうしても参加しないとならないラインナップでした。私の洋楽のルーツであるブリットポップの二大巨頭・blurとリアムギャラガー、高校時代にロックキッズだった私をぶん殴ってくれたケンドリックラマー、現在没入しているIDM/エレクトロニカのオリジネイターであるオウテカ。私の音楽リスナー人生=学生時代の総決算としての3日間になってくれるんじゃないか、と期待せずにはいられないラインナップでした。

全体の印象についてもう少し加えると、サマソニは国内の他のフェスに比べて「引き受け」という役割を背負っている印象を受けました。訪れた観客、来るであろう観客に対して値段以上の満足感を与える週末の二日間の一大レジャーとしての自負、と言い換えることが出来るものです。ロッキンオンジャパンやフジロックといったフェスはコロナ禍以降、さらに「閉じた」雰囲気を纏っているきらいがありますが、サマーソニックはそれらに参加するリスナーのどちらでも行ってしまえば一日中満喫できる導線を確保しているし、偶発的な出会いというフェスの醍醐味も与えることが出来る、そんなバランス感覚がチケットの最速ソールドアウトを実現させたのだと思う。blur、ケンドリックラマー、NewJeansらはプリマヴェーラフェス、ロラパルーザといった世界最高峰のフェスで大文字で掲載されているアーティストであり、世界から隔離されたガラパゴス空間である日本に世界最先端を届けるという気負い、フェスとはなんぞやを「引き受け」るクリエイティブマンの思い、そんなものを確かに受け取りました。

ソニマニのトッパーPerfumeからサマソニのトリ・ケンドリックラマーまで猛暑と疲労に耐えながら三日間満喫したので印象的だったアクトの感想や全体の印象についてざっくり書いておきます。5年後にこれ読んで楽しかったな〜と思いだせるならヨシ!!!!!!

SONIC MANIA

夜通しで「ダンスとはなんたるか」を伝えられた、というのが今年のソニマニの感想だった。J-POPに存在する純然たるテクノミュージックの系譜、エクスペリメンタルかつストイックなDJプレイ、体内の血が静かに踊り噴き上がるような密度の音、ダンスと肉体の関係な方向へ向かうIDM、観客に全てを捧げるような献身的な光のダンスミュージック…と「ダンス」が持ついくつものレイヤーを体感出来た。

Perfume。なんというか、自信に満ち溢れていた。きっとあの会場にいた20代の多くが初めて触れたテクノ/ダンスミュージックはPerfumeだったのではないか。あのシンセサイザーと四つ打ちの快感は気付かないうちにPerfumeによって自分の体にインストールしていた。そのプリミティブな快感と単純なダンスミュージックとしての強度を会場全体が再認識していたと思う。「ポリリズム」「チョコレイトディスコ」といったアンセムから最新の欧米ポップダンスミュージックとも接近した「ポリゴンウェイブ」まで、客のテンションの緩急を操り弛緩具合さえ手のひらに置いていて本当に見事だった。一緒に見ていたPerfumeオタクも自分も同じくらい盛り上がっていたのが今のPerfumeの射程の広さを証明している。

Flying Lotus。エクスペリメンタルダンスミュージックのレーベルとしてBrainfeederを把握していたのだけど、フライングロータスはオーソドックスなハウスや彼自身のアンセムを次々と流していて、真摯な快楽の求道者然としていた。後半はサンダーキャットも飛び入り参加して「Dragonball Durag」をやっちゃうなどエンタメに振り切る強さもあり、Brainfeeder周りの地盤の変化や星野源らの奮闘による日本国内での認知度の上昇などを肌感覚として認識した。

James Blake。「人間」が演奏する音楽だった。というか人間が臨める最も神聖な地点。ドラム、ギター、エレピ、アナログシンセ、声、これら片手で数えられてしまうような最小構成のバンド編成で幕張中を羊水のような、抗えなさを多分に含む、密度の濃い空気の震えで満たしていた。音って空気の震えなんだな、というめちゃくちゃラジカルな気付きを得た。スパーダーバース最新作を2023年ベストの体験として挙げている私としては「Hummingbird」を生で聴けたのがとても嬉しい。こんなにも優しく降り注ぐ声を聞いたことは無い。

オウテカ。まず始まる前に真っ黒なカーテンが四方八方から垂れ下がっていて、マジで真っ暗なステージを再現するんだな…と緊張した。始まるとひたすら連なる打撃音の連続の中に一定のビートを見出だし勝手に身体が乗っていた。曲なのか、そもそもオウテカが演奏しているのか、というか何が行われているか頭では何も理解していないのに、必死で体が"踊り"を求めている。「インテリジェンス・ダンス・ミュージック」とは真逆の寧ろ圧倒的に肉体先行の音楽だった。これからのIDMへの向き合い方がひっくり返るまさに"事件"としか形容できない時間であった。とういうかIDMってなんだよ!!!めっちゃフィジカルだった。

Mura Masa。快楽とエモーショナルの化身。憂いも喜びも全てを踊りに昇華するためのダンスフロア。VJの練度。異国情緒とファンシーさとY2Kっぽい懐かしさに溢れているのだけど、情報量の配分の上手さと音ハメの巧みさでクドく無い。ギターを実際に演奏しながら披露された「2gether」で涙しつつ、その曲終わりに軽く弾いたレッチリの「snow」でギターキッズっぽい遊び心を見せてくれてムラマサのことを大好きになった。めっちゃ楽しかった。客演のボーカルの方のショーマンシップというか練度の高さは映像で見るよりも際立っていた。「Drugs」はMVをただ流しているだけだったが、あの日の幕張4時台の楽しくて寂しい空気感が反映されているみたいだった。音に合わせて体が動くことってこんなに楽しかったっけな…。



SUMMER SONIC DAY1

SUMMIT。朝イチ、NewJeans待ち、30分以下の持ち時間でめくるめくテンポ良くマイクリレーをするスタイリッシュさとフットワークの軽さ。PUNPEE、BIM、OMSB、MALIAらの文字がでっかい画面に表示されていく度に観客が明らかに沸く。「ニュジ好きな層」は「summit周りを聴く層」なのかもしれないな…などと考えながらドロップされたCOSAの「Mikiura」と「ヒップホップ50周年おめでとう」という言葉でサマソニのトリがケンドリック・ラマーだと思い出した。ちゃんみな、Awitchらも入場規制がかかっていたしこれからもサマソニでラップアクトを沢山見れると嬉しい。最後はsummitのテーマソング。この1バースしか歌ってないメンバーもいたので是非もっと長尺で見たい。

NewJeans。summitで騒ぎすぎたのでかなり暑く、正午に向けてどんどん気温上がっていくし、徐々にアリーナの自分の領地は狭くなるし…と命の危険と向き合いながら見るNewJeans。前半はバンドセット、後半はオケ流しながらのパフォーマンスはロラパルーザと同じ。めちゃくちゃ暑くて体感BPMがかなり遅いようだったが「Ditto」の合唱のデカさ、周りのヤジの飛び交い具合はなんとしても楽しんでやるというアリーナの意地の表れだった。「Cookie」のライブバージョンはDragon Ashみたいなミクスチャーロックっぽく聴こえて新鮮。後半の「Supershy」のバキバキし過ぎない音作りは昼間のマリンによりソニマニのマウンテンステージで聴きたかった。クーラーと合うはず。曲ごとにMCを挟んだり途中でMVが流れたりと興奮が続かない、洗練され切ってないステージングではあったけどこの「ニュジ現象」を体感したという意味では今年見れて良かったアクトなのでは。

The Lounge Society。昨年出たアルバムは一度聴いて「かっこいい!」となったがそこで止まってしまっていた。サマソニでも友人に指摘されるまでThe Lounge SocietyがThe Lounge Societyだと気が付かなかった。まだ10代の彼らはおそらく私と同じようなUKロックを聴いて育ったんじゃないか。The Cureっぽい気怠さ、初期U2といったニューウェーブ、或いはPILとセックス・ピストルズの両方の要素を持つようなパンク~ポストパンク、かと思えば近年のサウスロンドンのバンドらと共鳴するノイジーでひねくれた楽曲へ移行する30数分。弦楽器の3人が楽器を入れ換える度に聴かせたいストロングポイントが変化していくのがスタジオワークを見ているようで面白く、若さとインテリジェンスが共存する最高にイケてるUKロックを見た、という感慨。

blur。求められているもの、と彼らが現在見せたいもの、の2つが噛み合った奇跡的な90分だった。「St.Charles Square」で現在進行形バリバリのノイジーなギターロックを披露したかと思えば「POPSCHENE」ではフィルムの質感残るVJと共にブリットポップの空気感が会場に満ちる。ベテランバンドだから生めるノスタルジーと、未だギターキッズっぽさを残す奇想天外なフレーズが合わさり、味わったことの無い感慨が生まれる。「Beetlebum」「Coffee&TV」といった中期の名曲を序盤から演奏し、ここでもグレアムコクソンの「Radioheadの3本のギターを1人でカバーする」という代名詞に違わないギターの音が耳に残る。blurは聴けば聴くほどどういうバンドが分からなくなるのだけど、「オルタナ・カントリー・アバンギャルドなど雑多な要素を堅実なリズム隊とデーモンの懐の広さとグレアムのギタープレイでドポップに聴きやすく仕上げてしまう職人」なんだなと合点がいった。「ParkLife」「Leisure」からの数曲、「Song2」といった代表曲を聴けた瞬間は「90年代イギリスに生まれたかった…」と嘆いていた中学生以来の思いを払拭できたが、結局「Tender」がハイライトだったように思う。バース→コーラスにかけて夏の終わりの切なさをかき集めたようなメロディーが繰り返される度に情感が溢れ、いつもよりブルージーなグレアムのギターのフレージング含め切なさで身が悶え、声を張り上げて歌いながら涙してしまう名演。これが演奏される場所が常にUKロック最良の瞬間として記録されていくのだ。そして続く「The Narciscist」はデーモンのギターのトラブルで3人のみでイントロを繰り返し演奏していたのだけど、その「バンドであること」を噛み締めるような瞬間に今回のブラーのライブの旨味が詰まっていたように思う。「Tender」の後に続いても遜色が無い新曲を作った、という事実も含めなんてドラマチックなバンドなんだろうか。「昔の曲もやってほしい」「でも懐古っぽくなって欲しくない」という私の思いを引き受けてくれたような、私の人生において忘れることのない時間になった。


SUMMER SONIC DAY2

前日はかなり疲れてしまって14時くらいくらいに現地へ。LINKL PLANETというガンプラアイドルがガンダムを配っており、適当に並んだら「量産型リコ」という乃木坂の与田ちゃん主演のドラマに出てたメンバーが丁度ブースに立っていてお話ししてしまった。サマソニか?TIFではなく??

FLO。立ち姿が完璧なアーティストには問答無用で首を垂れたくなるのだけど、FLOもそんな立ち姿が完璧なアーティストだった。ほぼおんなじ背丈で、振り付けはキメキメ過ぎる訳でもなく、それでいて全員の取っているリズムは同一で、動き全てがサマになっていた。バンドメンバーの練度の高さもあり徹底的なショーマンシップを見せつけつつ、昼下がりのサマソニにぴったりな抜け感のある振る舞いも時折覗き、全てのピースがかっちりハマった名演でした。

INHALER。「ボノの息子」っていう言葉から離れて聴こうと思っていたのだが、やはり生で聴くとどうしても"U2"的な記号が多くその威光に思いを馳せずにはいられない。デカい会場と相性が良い抜けのあるボーカル、シンプルで流麗ながらバンドの骨太さを形作るギター、高フレットで曲のニュアンスを決める旋律を要所で披露するベース、決して走らずどっしり構えたドラム。初期U2の美しさとロマンをかき集めて結晶にしたような立ち居振る舞いサウンド楽曲にはこれからのロックミュージックを引き受けていくような気概を感じざるを得ない。

Liam Gallagher。ブラーの感想で「求められているもの、と彼らが現在見せたいもの、の2つが噛み合った」と書いたのだけど、この日のリアムも同じような感想を抱いた。フーリガン、偉そう、ヤンチャ、ロックンロールの化身、ソロ活動の充実から来る自信いっぱいの歌唱、oasis時代の輝き、彼に人生を変えられた私はこんな理想を当人に描いていたのだけど、全部叶えてくれた。それどころか本人も「Fuckin' the Bushes」から始まりソロの代表曲を経由して「Champagne Supernova」で締めるセトリを用意していた。叶わないと思っていたオアシスの楽曲の大合唱。リアム自身が求められる「リアム・ギャラガー」を引き受け、そして現在彼自身が「リアム・ギャラガー」で夢を見れているから実現したのだろう。私がoasisを知った時、リアムはどん底の状態だ、みたいな報道を結構目にしたのだけど、数年を経てこの状態の リアムギャラガーを見ることができて感無量である。「A dreamer dreams,She never die」ってこのことだ。Champagne Supernova………。

Kendrick Lamar。ケンドリックの感想が1番難しい。なんというか、彼の言葉やフロウ、立ち姿、音を全身で浴びた後に発せられる自分の言葉のペラッペラさに嫌気がさしてしまうから。ただ、ケンドリックは我々を信頼してリリックの一部をこちらのために空けておいてくれていたし、時折ニヤッと笑っていたし、最後も優しい言葉を投げていた。練りに練られたステージの中でケンドリック・ラマーの作り込まれていない部分に少し触れられた気がしたのが嬉しかった。「ALLRIGHT」「LOYALTY.」「DNA.」「HUMBLE.」あたりの合唱は夢見ていた景色だったので今でも現実感がない。
 ステージ脇にバンドセットがあったというのは後で知ったのだけど、マリンスタジアムという決して音響の面で優勢とは言えない場所であそこまでクリアでまとまりのあるサウンドが聞けた事実はこれからの希望だ。

おわりに
学生時代の総決算みたいな三日間になり、満足度がとても高い。来年は是非Radioheadを呼んでほしい。


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