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山下美月 卒業コンサート 感想

山下美月さんの卒業コンサートが終了しました。良い乃木坂のライブを見た後の感情は大体「良いライブだったな」じゃなくて「良いものを見たな」です。人の善性に触れるというか、でっかい愛が形として立ち現れる。それなりに色んなアーティストのライブを見てきたけど、乃木坂だけ別の括りなんだなぁと、乃木坂のライブをみて満足した後は毎回そう思う。勿論そこには山下さんが考えたセットリストと演出の必然性があり、それに応えるメンバーの健気さがあるわけですが。

卒業コンサートってそもそも何か、と考えると「乃木坂の歴史における自分の輪郭を再提示すること」、あるいは「乃木坂を通した自分の語り直し」だと思います。例えば白石麻衣さんだったら自分をバービー人形という「憧れと親しみを同時に投げかけるアイコン」と自分を再提示する形で卒業ライブを始めたし、若月佑美さんは花束を受け取るのではなく薔薇を渡すことで自分のキャラクターをプレゼンした。

山下美月はどうだろうか。山下美月の卒業コンサートとは山下美月と「乃木坂」との距離を改めて提示する数時間だった、と、まとめたい。それも物凄く親密な距離感を。

山下美月が乃木坂に入ったとき、というか3期生自体もそうだが、当時の乃木坂にとって初めての「オルタナティブ」だったと記憶している。完成しきった乃木坂に加入し、当時全盛期だった白石麻衣やら西野七瀬やら生田絵梨花やらが作った空気において、AKB的な戦闘態勢に溢れた--バキバキな--目をしていた山下は乃木坂46に対してある種の距離感を保っていたように見える。時が経ち、気がつけば先輩の姿は去り、センターに立つようになった。大きな瞳のギラギラは消えぬまま、少し柔らかさを得た。乃木坂に懐柔され、それでも山下らしさを失わずここまで来た。

この歩みが端的に表されていたのが賀喜遥香と向かい合って歌った「無口なライオン」だった。加入時から「乃木坂らしさに溢れる」と嘱望された賀喜遥香さんと花道の両極に立ち、対峙し、「孤独隠して 強くなきゃいけない」と歌い始め、最後に「自己嫌悪なんか意味ないよ」と抱き合い、互いに言い聞かせるまでの1、2分の中に山下美月が得たものと、捨ててきたものと、諦めてきたものと、それでもやっぱり得たものがあった。そしてそれを肯定する賀喜遥香さんがどんな強さで手を握るだとか、どのタイミングで涙を溢れさせてしまうかとか、向かい合った彼女たちがどのタイミングで互いを抱擁しあうかとか、演出から溢れたところにある彼女たちが見せる人間の機微に、嘘偽りない人と人の優しさを素直に見出してしまったし、山下さんの瞳が少し柔和になったのもそういうことなのだろう。勝手に「かきやま」と名付けられた物語ではなく、もっとグラデーションのある、血の通ったその人と人との向き合い方を垣間見れることで、私は私の生きる世界の美しさに気がつける気がするのだ。大袈裟ではない。

「無口なライオン」も含め、今回のライブは披露された歌詞を通して語られることも多かった。そして曲の歌詞がメンバーのMCを促し、その補完関係にコンサート全体が押し上げられていた。「1 バトルをしたなら/2 笑うか泣いたって/3で仲間になろうよ」の3期生性、「しつこいくらい言葉にしよう/願うだけじゃ叶わない」に押された久保史緒里、あるいは「過去がどんな眩しくても/未来はもっと眩しいかもしれない」という祝福、そして「全て包みたかった 風も光も絶望も」へ到達する。何を語り、語らないかによって恣意的に作られるものが「歴史」であるなら、今回のライブこそ彼女が歌ってきた曲をもって紡いだ「歴史」に他ならない。その語り方の見事さ、切れ口の鋭さに感嘆するばかりである。

卒業ライブを通して、山下さんもまた乃木坂を必要としていたんだなと思いを改めた。私は彼女ほど「外」の世界を知ってしまった人にとって「乃木坂」という冠、いや下駄か、は必要ないんじゃないかと、ここ数年は勝手に思っていた。MCでも触れていたが、山下さんより歌の上手いメンバーはいて、踊りが上手いメンバーもいて、際立った頭身バランスを持つメンバーはいる。そうじゃない戦い方を示すために外の世界へ飛び出し、それをフィードバックさせることで乃木坂の中で類稀なる存在感を結果的に身につけた。でも、やはり彼女が最も輝くのは集団の中にいる時である。賀喜遥香の音程に乗って山下美月の歌が伸びやかになるように、乃木坂という光を反射して山下という月はより輝く。だからこそ山下美月は全員が一緒に輝けるような舞台を作り上げた。「乃木坂を選んでくれてありがとう」と久保さんは言い、「アイドルにしてくれてありがとう」と山下は乃木坂に言う。この関係性の提示こそ私が今回のライブに強く惹かれた理由だ。

でっかい愛で乃木坂を見つめ、その乃木坂に美しく照らされた彼女のことを、私はこれから月を見るたびに思い返すのである。乃木坂を愛し、乃木坂に愛された山下美月さん!ジャスティス!最高のスーパーキラキラアイドルでした。


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