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行かない学校を受けるということ

埼玉受験が一般的になったのは一体いつからだろう。僕は1999年に中学受験をしたわけだけど、おそらく埼玉の学校を受験した子は通っていた塾にはいなかったと思う。生まれも育ちも千葉にほど近い江戸川区西葛西なので、千葉の受験は一般的だった。ここに関しては「都内が受からなかったら行く学校」と捉えていたし、中には千葉の学校を第一志望にしていた子もいたので今の埼玉入試や地方の出張入試のように「受かっても行かないけれども受ける」というのとは違う。
僕は4人兄弟の長男で、一番下の妹とは8つ離れている。その妹も中学受験をしたのだが、彼女は「栄東」を受けたのだ。当時自分は学生講師として中学受験に足を突っ込んでいたのだがまず「栄東」を「えいとう」と読んでいた。

(補足)栄東中学校。今や首都圏で中学受験をする人でその名を知らない人はいないだろう。中学受験で最多の受験者を誇り、今期は1/10と1/11のA日程で7847人が受験し、4812人が合格を勝ち取った。他の日程も合わせると受験者だけで11785人受験。下世話な話だが受験料だけで相当な金額となる。

妹が受けた2007年当時、こういうとアレだが、栄東は「受ければ基本的にはまず受かる学校」であった。今ほど多くはなかったが、おそらくここらへんが「都内を受験する子が埼玉で初戦を迎える」という流れのはしりであっただろうと思う。
2011年に僕は自分の塾を立ち上げるのだが、一期生から栄東を受けた子がいた。やはり受ければまず落ちることはないといったレベルではあった。肌感覚として「栄東厳しくなったな」と感じ始めたのは2017年前後。「特に理由がないのであれば回避すべき」と思い始めたのは2020年あたりか。この12,3年で倍率は上がり、揉んだ血の難易度も上がり、最低点も上がった。
こうなると塾や受験生の保護者は次の「前受け校」を探すわけだ。開智、大宮開成、埼玉栄、青山浦和ルーテル、城北埼玉、獨協埼玉……埼玉県内のみならず、地方の学校が東京を会場にした出張入試も盛んになってきた。先駆けだった土佐塾は2019年に撤退したが、佐久長聖や早稲田佐賀、盛岡白百合、函館ラサール、愛光、北嶺……等、実に多方面から参入している。

ではなぜこうも皆「前受け校」を受験するのか。前置きが長くなったが、今回はここを考えてみたいと思う。
前提として、結果的にそこしかなかったら公立と比べてもその学校に進学するという、いわゆる「進学候補」となり得る場合は「前受け校」の定義からは外そう。今回は「もしそこしかなかった場合でも進学することはない」としている学校を受ける意味を考えたい。

実はよく分かっていない。これは結構多いのではないかと思う。「なんとなく受ける空気感だから」「塾に言われて」「周りが受けるから受ける」この形で「前受け校」を受けるケースだが、はっきり言って最悪である。模試とは違って実際の入試であって、合否が出るわけだ。なんの目的意識もないまま受けていいわけがない。
よく分かっていないまま受けて不合格だった場合フォロー出来るのか?「ダメだったら奮起するだろ」くらいに思っている人も多いが、12才の小学生が皆そうなると思うか?
よく分かっていないまま受けて合格だった場合は別にいいじゃないかって人もいるがこちらも要注意である。ここでなんとなく受かってしまって糸がプツンと切れる子は少なくない。「埼玉しか取れなかった」ってケースはうちの生徒にはいないが、毎年少なくないのだ。
前述した通り、栄東は「受ければ基本落ちない学校」ではなくなったし、開智や大宮開成、埼玉栄だってどんどん難易度を上げてきている。それだけ学校に魅力を感じている人は多くなってきているし、ここを第一志望にしてくる子は確実にいるのだ。そんな中でそこを「受かっても行かない」のに受ける意味はなんなのか。

①冬期講習明けの模試代わりに受ける
少し矛盾するのだが、こう決めて受けるのであればそれはそれでいいと思う。ただし、それが模試であるのであれば、合否よりも中身を重視したい。どこを落としているのか、時間に間に合っているのか、得意科目の得点率はどうか、いつもと違う部分がないのか、振り返った上で直しをしっかりすべきなのだ。都内はもちろん千葉入試までも少し時間があるわけで、受けっぱなしで終わりにするのはおかしい。なぜなら模試として受けているからだ。ここまで「直しが大事!」とやってきたのに「最後の模試」で振り返って直しをしないのは変だろう。模試代わりにするのであれば直しは絶対するべきだと思う。

②都内、千葉に似た形の学校を受ける
これはアリなのではないかと思う。例えば午前午後のダブルヘッダーをここで経験させるパターン。埼玉でも午後入試は行われていて、都内でいきなり午前午後となる前に一発経験を積ませる。これは結構有効に働くと思っているし、親としても動き方を知っておくのは悪くないはずだ。
また大規模会場型試験の慣れとして使うパターン。例えば幕張メッセで行われる市川中の入試に備えてさいたまスーパーアリーナで行う開智を受ける。おそらく小学生が経験したことのない中での試験なのでこれに慣れておくのもまたいいかなと思う。
あとは試験形態がにている学校を受けておくパターン。どういうことかというと、例えば都内で理社合わせて60分タイプの学校を受ける場合に埼玉でその学校を探す等、過去問では慣れているものの、実際の試験でしっかり動けるのかを一度確認するために受けるのもアリだと思う。これも過去有効に働いたなと感じる子が多い。

まずは「前受け校」とする学校を受ける目的をはっきりさせること。ここは親子でしっかりと話し合ってほしい。そして合格の場合でも不合格の場合でもしっかりと次につながるよう持っていくプランを立てておくこと。話の都合上「前受け校」と表記したが、ここを目指している子も多くいることを忘れずに臨んでもらえたらと思う。

最後に少し話はズレるが、埼玉受験時に前泊する予定の人は模試とかを使って前泊練習をすることをお勧めする。いつもと違う環境でなんとなく気分が乗らなくなる子もいるので前もってシミュレーションしてみてもいいのかなと。


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