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主題歌から観る『恋空』考〜『旅立ちの唄』を聴きながら

先日、ふと目にして、びっくりしたこちらの記事。

恋空の主題歌に、『旅立ちの唄』が決まった時のニュースなのですが、なんと、なんと。

この曲は、『恋空』の主題歌の依頼より前に書かれていた未発表曲で、たまたま世界観が共通している事から、採用になったというのです。

たまたま、にしては出来すぎです。
にわかに信じられないレベルです。

春馬君の作品を見るようになって、作品の内容と主題歌、挿入歌の関係って、改めてすごいなぁと感じた作品はいくつもあって、そのひとつが、この『恋空』の『旅立ちの唄』でした。

Ah 旅立ちの唄 さぁ どこへ行こう?
またどこかで出会えるね
Ah とりあえず 「さようなら」
自分が誰か分からなくなるとき 君に語りかけるよ

恋人どうしの心情を歌った歌は、世の中に沢山あります。その曲ごとにいろんなシチュエーションや世界観がありますが、余命幾ばくもない状況で、自分亡き後の恋人を思って歌うこの世界観は、なんのフックもなく創り出せるものなのか?

Mr. Children って、何者なの???

何度も言ってますが、私は誰かが亡くなる作品は苦手。特に若者が病気や戦争で亡くなるというのは、1番苦手ジャンルです。ましてや、亡くなる役の春馬君を見るのは、本当に重くて、本編は一度しか観た事ない『恋空』だけど、それでも、この『旅立ちの唄』は、数々の名シーンと共に、強烈な印象として心に残りました。

何がすごいって、イントロだけで、河原と広がる空が印象的なあの田舎町に、一気に連れて行ってくれます。
春馬君は、いろんな作品で自転車に乗ってるけど、『恋空』でも自転車に乗っているシーンは幾度となく出てきます。
『旅立ちの唄』のイントロを聴くと、なぜか河原を疾走する自転車も目に浮かぶのは、『恋空』を観たからだけじゃない気がします。
ちょっとゆっくりめのメロディラインが、河原を自転車で走り抜けて行く時の、頬に触れる爽やかな風のようです。

また、歌のエンディングも余韻を残す終わり方で、まさに「旅立たんとする」最後の最後まで恋人を思っていて、この世に後ろ髪をひかれるような、切ない心情が、本当に伝わって来る気がします。

映画『恋空』で、ヒロの容態が悪化し、ミカが病院へ急ぐシーンがあります。あの時ミカが、沢山のヒロが撮影したミカの写真を抱えて走るのだけど、あのミカが抱えている写真は、ヒロのミカに対する愛情が、たっくさんあるんだ!というのを表しています。
それを、落っことしながらも、拾い集めて懸命に走るミカは、両手に抱えきれないほどのヒロの愛情を、しっかり抱き留めたよ!と伝えようとしているかのようです。

ヒロは、先に逝くのが悔しいし、切ないんだけど、1番に伝えたいのは温かい愛情で、残されるミカはやっぱり愛されていて、それは間違いなく幸せな事なんだろうなと、あの沢山の写真のシーンが、思わせてくれます。
自分がこの世から居なくなっても、ずっと温かい気持ちはそのままだよ、と。

その世界観に対して、『旅立ちの唄』のエンディングはこうです。

Ah 旅立ちの唄 さぁ どこへ行こう?
またどこかで出会えるね
Ah とりあえず 「さようなら」
自分が誰か忘れそうなとき ぼんやり想い出してよ
ほら 僕の体中 笑顔の君がいるから
背中を押してるから でも返事はいらないから

今更だけど、ミスチル天才か!

携帯小説版の『恋空』には、2人の思い出の曲として、浜崎あゆみさんの『who...』が出てきます。
こちらは、生きてる(?)けど、すれ違う恋人同士の歌。
携帯小説では、すれ違いがドロ沼化してる真っ最中に、この曲が出てきます。
この曲にまつわるエピソードは、2人の関係性を描いたこの小説で、重要なエピソードのひとつです。

ところが、この曲は映画には使われず、かわりに『旅立ちの唄』が使われ、劇中でも、ラブラブな2人が、「いい曲だよねー」と共感する微笑ましいシーンの小道具として、出てきます。
余命いくばくもない主人公が恋人を思って歌う歌が、ラブラブの恋人同士のシーンにって。。。
しかもBGMではなく、あえてストーリー上に意味を持たせて使われる音楽という意味では、チグハグな感じは否めません。

が、そこは、切なくも美しいメロディラインのおかげか、シーンの中で、違和感なくまとめられています。
やはり、映画『恋空』といえば、『旅立ちの唄』なのです。

『恋空』と言う作品は、原作の時点から内容的にも色々物議を醸した作品と聞いています。
映画版を制作するにあたり、それは重々わかっていただろうし、映画版で同じ轍を踏まないために、色々と配慮をしたのだろうなというのは、画面の端々から伝わってきます。

基本のプロットは変わっていない映画版だけど、途中の出来事の過激さはマイルドになっているし、ストーリーの終わり方が小説版とは異なるなど、苦労が垣間見られるところも多々あります。
それでも、やはり、モヤっとする上に、重いし悲しいし、けして見る人が愉快になる作品ではありません。

そんな目を逸らしたくなる現実を、あの美しい風景描写と、『旅立ちの唄』の世界観で、うまくバランスを取っているのが映画『恋空』なのではないか、と思います。
『旅立ちの唄』だったからこそ、表現できた世界観が、映画版『恋空』にあるように思うのです。『旅立ちの唄』は、単に映画のエンドロールのBGM以上のインパクトを『恋空』という作品にもたらしているなと、思うのです。

また、『旅立ちの唄』にも同じような事が言えます。破綻しつつも懸命に生きる若者を春馬君が演じた『恋空』というモチーフによって、『旅立ちの唄』は、まさに魂を吹き込まれたんじゃないかと思ったりします。

当初は関係のないところで書かれた『旅立ちの唄』。
『恋空』という作品と出会う事で、それぞれが、お互いの作品のイメージを際立たせ、より意味のある作品に進化しているように思えます。

二つの違うジャンルのアートが出会って生まれる化学反応の面白さって、まさにこういう事だよね。

またひとつ、春馬君のおかげで、新しいものに出会いました。
春馬君に感謝。

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