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順番を間違えた産業界と三極化社会

2024年2月。現在の世界経済の状況は歪つなインフレ時代が到来しており、混沌期というにふさわしい状況である。

とある大手に勤務していた筆者が、マックス・ギュンター「マネーの公理」の第三の公理「船が沈み始めたら祈るな。飛び込め。」という名言の通り、居心地の良かったグローバルチームの日本市場代表のポジションを捨てて、実質的にたった1か月の転職活動で別の化学系大手に転職したのも、この混沌期が及ぼした不可逆的なムーブメントなのだろう。

一方、日本国に関しては、政府と日銀の円安政策により、一部の大企業のみが爆発的な利益を叩き出し、賃上げの流れを引き起こしている。日経225はファーストリテイリングや東京エレクトロンなどの特定企業の牽引により、近年では有り得なかったATHを記録している。弱者を切り捨ててでも、一部の世界的大企業を円安で支援することにより、外貨を獲得してきて国力を保ちたいという諸刃の剣が政府の戦略なのである。米国型の資本主義・インフレ格差社会を構築中だ。

当然、円安の恩恵が少ない化学業界は、日本No.1キャッシュリッチ企業である信越化学でさえも、株高ではあるものの大手企業爆益の実利のトレンドに乗れていない。強いて言うなら、爆益で目立つのはアイドルブームにあるアジア市場にて「チェキ」のBtoCニッチトップを制した富士フイルムのチェキ事業や、積水化学のヘッドアップディスプレイ用フィルム事業ぐらいである。トヨタは過去最高益かもしれないが、Tierメーカー以下、サプライヤーの一部である化学業界の自動車用素材事業も、大幅な値上げが許されないので、各社大して利益が出ていない。こうした流れから、このまま行けば化学業界はまず間違いなく業界再編の流れになる。トヨタの元気玉は大きいが、地球のみんなはオラに元気を分け過ぎている。

そして、当方がこれまでの記事で触れてきた「再エネ」や「BEV」についても見事なまでに逆風が吹いており、「ほら見たことか!」という声をいただいている。転職先の社内でも、自他共に認める財テクのプロが、「BEVは欧州や中国でさえも前言撤回の流れに変わった。BEVを積極肯定しているのは原発に強いフランスくらいになった。風車も、中国でさえも生産が停止し始めているし、中国は石炭をバンバン燃やしている。結局のところ高騰が続く化石燃料から脱却する最適解は原子力発電。もはや電気代高騰の対策は、原発をやるかやらないかだけの問題で、やると決めれば人材不足はどうにかなるもの。車も本当だったらクリーンディーゼルが本命だったが、欧州不正問題もあって今の最適解はPHEVや燃料電池車。BEVは10年後もそれほど伸びはしない。それと、米国経済は雇用統計などを見ても分かる通りで景気が強く、インフレやドル高は今後も続く。日本経済は終わっていて、日経平均は上がる気配が無い。」と、トヨタの会長かと勘違いしてしまうほど、意気揚々と語っていたのが記憶に新しい。

しかしながら、当方は再エネ×BEV×蓄電の分散型システム構築が人類にとって最良のテクノロジーだという考えに変わりはなく、現在の状況は産業革命の移行期によるノイズであり、技術の発展の方向性は変わっていないと考えている。テスラの技術力は半年先の未来しか見ていない自称投資家たちが言うほど低くはないし、BYDの快進撃に目を背けることもない。

産業界や各国の政治家は焦り過ぎて順番を間違えていただけであり、経済合理性で動く市場というのは、一旦HEVやPHEVを経由しつつ、今後も変わりなくBEVシフトを続けていくのである。今回は現在の世界経済の状況を確認し、筆者がなぜそのような一貫した主張を行っているのか記載していきたいと思う。

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