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人工知能じゃないから焦らない

 ムッシュは海の外なので、日々一緒に居たときの思い出を再放送、再々放送のように繰って過ごしている。
麺を食べては写真を撮って欧州方面へ送り飛ばしている。
たまに去年のメッセージを読み返して思い出し笑いをしているけれど、痴話げんかが特に笑える。

ムッシュのとこに泊まりに行く際に自分が1dayコンタクトレンズを持って行くのを忘れ、結局は帰る羽目になり押し問答したことが思い出され声をあげて笑う。
ムッシュが1dayコンタクトレンズをもう1日衛生的に使う裏技をiPhoneで調べ上げたかと思えば、手をひかれコンタクトレンズ店でレンズを新調するか駅ビルにある眼鏡屋で採寸するか誘導尋問を受けたことだ。

後から読むと落語のように、鼻で笑っちゃうような交渉のぶんだけ、一緒に居る時間を貴重なものだと思ってくれていたのだろうか。

そういった、自分以外の人間におなじ家に居てほしいという要求である。

自分も2年くらい一人暮らしをして音を上げたので気持ちはわかる。
次の週末に会えるなということを加味しても、だいぶ前のめりに帰らないことを頼まれるわけだ。

自分が恋人であるわけだが、彼女がいる
I have a girlfriend
という体感を自分は追体験できないが、かけがえのない存在であることはうかがえる。くすぐったくもあり、かわいさ余って憎さも100倍ある。
失ったらめっちゃヘコむのもわかる
ましてや感染症が2年も3年も流行し、反比例して日常は蝕まれて孤独の時間が増えたために藁をもすがるところなのだろうか。

自分の悪い癖であるが自分の人間関係にどっぷり浸かることができず、どうしても俯瞰してしまう。

ムッシュも脂ののったいいトシなのだから私みたいなてきとうぞんざいな人間ではなく、コミットメントが高い人を探してさっさと籍を入れよう、そう考えなかったのだろうかという非道いことを思う。

 トイレの個室でぼんやり考えてみる。彼は人工知能でもないのである。だから頃合いにバッチが作動され、適当なつがいを見つけるわけではない。人工知能ではないからバグらない。人間だから焦らない。そのアルゴリズムで出会ったのではなく、私たちはマッチングアプリの位置情報により引き合わせられたのである、と。

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