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「新庄嫌い、あるいは、愛がもたらす予期せぬ奇跡」ーとあるファイターズファンのつぶやきー2022年7月に記す。 

『バードマン、あるいは、無知がもたらす予期せぬ奇跡』(アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督 2015年アカデミー賞作品賞他)という映画があります。主人公のリーガンは、かつてバッドマンならぬ「バードマン」というヒーロー役で人気を博した。年を取り、落ち目の俳優になっても、彼に張り付いた「バードマン」の幻影は消えないー

 わたしは、これから北海道日本ハムファイターズと新庄新監督について書こうとしているのに。そんな映画と何の関係があるんだ? 

 かつて1990年代、阪神タイガースの「プリンス」と呼ばれ、そして2003年移転以降の北海道日本ハムファイターズにおいては、「スーパースター」と呼ばれし大ヒーロー、それが新庄剛志であった。

 と思われるのですが、そう言いながら、新庄さんの活躍をわたし自身は、ろくに見たことがありません。1990年代の「新亀フィーバー」も「日本人初ワールドシリーズ出場」のメジャーリーグの頃もうっすら覚えているだけ。ファイターズに至っては、本格的ファンになったのが2007年、つまり2006年のリーグ優勝日本一の後だったので、もうスーパースター新庄はチームから消え去り、ニューヒーロー「絶対エースダルビッシュ有」の出現と活躍を見守ることになった。北海道に大熱狂をもたらした「新庄劇場」も過去のニュースとしてしか知りませんでした。

 要するに、わたしの中には、新庄さんに対して「凄い!」とか「かっこいい!」とか「スーパースター!」と思えるリアルな実感は、ほぼないということです。ただ世間的には(そういうイメージなんだろうな)というイメージがあるだけ。

 ですから、2021年末、10年の長きに渡り務めた栗山英樹監督に代わり、「新庄剛志新監督就任!」の大見出しが出回った時の熱狂的な騒ぎと自分自身の温度差は、かなり強烈なものでした。新庄さんが大好きなファン、手放しで「ようこそおかえり!大歓迎!」のファンと、そうでない自分の間には、見えない川がある。何か寂しいような置いてけぼり感といいますか…。

 だからと言って、にわか新庄ファンにもなれません。勢い、わたしの「新生新庄ファイターズ」に対するスタンスは、シニカルにならざるを得ませんでした。いかな特殊な才能があるのだとしても、15年も日本野球から離れていた人物に容易くプロ野球の監督が務まるものなのか? 何より(奇しくもわたしが見てもきた)ファイターズの15年間を一切何も知らない人に、わたしたちの大切なチームを任せられるものなのか?

 年末年始のメディアを席巻し、多いに盛り上がった「新庄BIGBOSSフィーバー」もどこか冷ややかに見るだけ。どんだけ話題になろうとアフェカス(ネット記事でカウントを稼ぐことをこういうらしいです)だろうと、勝負は、ペナントレース、野球が始まってから。お手並拝見してやろうじゃないのみたいな。
  
 迎えたペイペイドーム、福岡ソフトバンクホークスとの開幕3連戦。ルーキー北山投手を先発に据える「奇襲」に出た新庄ファイターズは、終盤まで勝てそうな展開でしたが、持ち堪えられず惜敗。結果的には三連敗。
新庄新監督にとって「プロ野球は甘くない」始まりとなったペナントレースは、以来、最下位を独走中…。
 戦力的に見て大方の想定内とはいえ。「人気先行」「客寄せパンダ」と昭和の常套句で揶揄されながら、精一杯ファンを集めるための仕事を全うしてきた新庄さんと思いますが、他の球場では、新型コロナ感染症の規制も徐々に緩み満員のところもあるに札幌ドームは、一向に席が埋まってこない…。
これは、わたしにとっても想定外のことでした。世間では、あれほど新庄新庄BICBOSS ってんだから、お客さんは来るのだろうと思っていたのです。

「そりゃ最下位だから」
「弱いから、仕方ない」
と言われるかもしれませんが、常にAクラスだった2016年まではともかく、ここ5年間は、負けっぱなし(18年は3位)ずっとBクラスで弱かったんです。ファイターズは。
でも、それでもここまで入らないってことはなかった。特に外野席、レフトの最もコアなファンの応援席が、ぎょっとするほど空いています。
コロナの影響で声出し応援ができない。立って応援するスタイルが外野席の醍醐味ですが、それが禁止されているから、誰も行かないのだ?
それもそうかもしれません。でもでは、あの、いつもどんなに負けていてもどんな逆境でも、7割8割は埋まっていた外野応援席のファンは、一体どこへ行ってしまったんでしょうか?(内野席に移動してるのかな…)

スーパースター新庄。
俺たちのヒーロー
あの新庄剛志が、札幌ドームに帰ってきたというのに。

ただの一ファンに、わかるはずもありませんが、とりあえず札幌ドームの状況と「 BIG BOSS」にまつわるメディアの熱量とは、これまたかなりの温度差があるのは、事実と思えます…。

 開幕前から目に映る新庄さんは、16年前の「新庄のイメージ」を崩さないように、彼を愛しているだろうファンの期待を裏切らないためにと必死で応えている、ように見えていました。

 11月のファン感謝祭に、昔ながらのスーパーカーで入場した彼の姿をテレビで見ていたけれど、もの凄く緊張していましたよね。札幌ドーム開幕戦の謎の命がけ飛行パフォーマンスの時もです。なんでそこまでしなければならないのか? そんなにも観客は、プロ野球の監督である新庄さんに派手なことを望んでいるのだろうか?と疑問を持つほどに。

 そう、果たして、わたしたちファイターズファンもまた、新庄監督に、そのような16年前の「ヒーロー」の形を求めているのでしょうか?
人の気持ちはわかりません。そうであるかもしれないし、そうでないのかもしれないし、色んな考えがあるわけで。でもどうであれ、わたし自身の「ファイターズの監督」に求めるものは、別の形です。

16年間、倦まず弛まず、応援し続け、愛し続けてきたファイターズに、必要なヒーローは、監督ではない。選手たちです。いや違いますね。

どんな時も、野球場で、ヒーローになり得るのは、選手たちでしかない。

そして、プロ野球の監督とは、ヒーローを生み出す、手助けをする役目を持つ。出来うる限りに勝利を導くためのマネージメントとチームを守り動かすコンダクター。果てしなく困難で(実に地味な)職業なのではないでしょうか。

 映画『バードマン』のリーガンは、バードマンの幻影と別れを告げるとき、ようやく自分自身の自由を得て、窓の外へ飛び立ちます。その「自由」とはいかなるものなのか、考えるのは、観客の役目とばかりに。

 新庄さんが自身に課せられた「ヒーロー」像をどう捉えているのか、それもまた計り知れません、でもその計り知れなさと同量程度の重さをも背負っているーのではなかろうか、と想像することはできます。
 2023年北広島新球場開業に向けて、「今シーズンはお試し、レギュラーを勝ち取るための競争」であると公言している新庄監督は、同時になんとしても来年優勝するか、それに近い成果を求められている。(但し、彼は一応、1年契約なのですが)

 いずれにせよ「新庄剛志」が、ヒーローであり続けるためには「新しいヒーロー」を生み出すしかなく、ファイターズと共に、新しい一歩一歩を踏み締め進むしか道は、ありません。いつか勝利のフラッグを掴む日まで。

その時は、きっと一人の新庄嫌いもまた、この世から消えているように。

(文中敬称略)

追記 2022/0920  コロナの入場制限がなくなり、8月以降の札幌ドームは、徐々に入場者が増加傾向になった。9/16 のクラッシックユニシリーズは、ついに3年ぶりの満員に。営業努力の賜物でしょう。
さよなら札幌ドーム。

















 





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