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『野球短歌』さっきまでセ界が全滅したことを私は全然知らなかった(池松舞/ナナロク社)-世界は、阪神タイガースを通って、わたしたちの元へ降ってくる-

 あえて言うのもなんですが、わたしは北海道日本ハムファイターズのファンである。いや正確に言うと今年はファンの席からは降りているのだったが、なぜなのかと書いてみても、誰の需要もないだろう。

ただ一個だけ(今はファイターズのファンとは言えないな)と悟った理由は、あれほど応援していたチームが負けても全く悔しくない、勝ってもこれまた全く嬉しくもなんともない自分が、はっきりといたからだった。

 2007年以来、17年目、ほぼ全試合を観てきた。毎シーズン毎日毎晩、一喜一憂、勝って喜び、負けて悔しく、なんなら涙まで流して。ほとんど同時に書き始めたブログもFBもこのnoteも。毎試合毎試合いったいどれほどの時間を費やしたことか。

なのに今年の自分はファンではないのだ。ファイターズは、北広島に本拠地移転したけど、どこにも行ってない。あたしだけが変わってしまった。

 いや試合は見てますよ。見てる。そんじょそこらのファンより(失礼)かなり詳しい。選手だって誰が誰だかわかっている、なんならコーチだって全員わかっている。そこの人、一塁ベースコーチャーの代田さんのこと知ってるかい?と心の中で言いたくなるくらいには。

勝因も敗因もわかる。新庄さんの采配も良くも悪くも理解できるし、それどころかはじまる前から「今日は勝つかもな」「今日は多分負けるだろう」の予想すらできる(他の誰にも確認はできないから無意味だが、自分の中の勝敗判定率は80%を超えている。野球くじがあったら儲かるかもしんない)

にもかかわらず、今のわたしは、ファイターズファンではない。
絶対ない。何度この胸に手を当てて心から考えてみても。
その自分にしかわからない絶望的な真実が、寂しい冷たい風になって、胸の中を吹き抜ける…誰にもわかってもらえない痛みとともに…😢

そんな時に、Twitterで知ったのが『野球短歌』(池松舞/著)だった。
昔々ガロマンガ評論新人賞の佳作をもらったとき、大変にお世話になった村上知彦さんが紹介していた。熱心なタイガースファンである。

「野球短歌」 やきゅうたんか ヤキュウタンカ…

野球の短歌!?

読みたい!すぐ読みたい!今すぐ読みたい!

「念の為にお知らせしますが、野球とはタイガースのことですよ?」

いいんです。(ジャ●アンツならあれだったかもしんないけど)
いいんです!タイガース上等!

翌日に札幌のジュンク堂で購入。
あっという間に読んでしまった。
あっという間に、阪神タイガースの2022年を走り抜ける。
9連敗から始まった、そのシーズンを。

そうだよ…
これだよ…
これが プロ野球ファンてもんなんだよ…

すべてがわかる。あたしはタイガースファンじゃないけど。
わかるんだよ。
その一首一首に。一瞬一瞬に、切り取られた風景、選ばれる言葉。
胸に湧き上がる感情
選手へかけられる言葉 かけたい言葉
目に残ったスタジアムの情景 鼻腔に残る空気の匂い 
湿気 上天気の青空…。

毎日毎日のゲームに 
バカみたいに一喜一憂し 他人事なのに、全て自分事に受け止め
一緒に歩く…

今のわたしには失われてしまった。
その時間が、頭から降り注いで、やってくる。
タイガースの一年が、阪神ファンの一年が、この一冊に残されるように。
わたしとファイターズが、過ごした年月も、この一冊を開けば、蘇る。

なにしろセ界と世界は、繋がっているんだから。
タイガースという、ただ一つのチームだからこそ。
ただ一人のファンの歌だからこそ。

一点突破、その声は、振動して、伝わる。
そう甲子園の、あの地鳴りのような応援。

『野球短歌』は、そのようにして、世界に開かれ、歌われている。








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