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本に愛される人になりたい(54)小林泰彦著「ヘビーデューティーの本」

 1976年に雑誌「POPEYE」が創刊されるまで、たまに購入し参考にしていたファッション誌は「メンズ・クラブ」だけでした。というか、私にとってはこの雑誌しかなかったように思います。ファッションと一概に言いますが、単なる見た目の服や靴の話だけに興味があったわけではなく、そこにある歴史文化や、ファッションにまつわる人の生き様などに興味があったのも確かです。そして、「POPEYE」創刊と同じ1976年に、どちらかというとアイビー・トラッド系だった「メンズ・クラブ」が「ヘビアイ党宣言」(ヘビアイとは、小林泰彦さんが創作したヘビーデューティー・アイビーの略語)を行い、それ以降はこの両雑誌が私の愛読雑誌になりました。主に西海岸を中心としたアメリカ文化と、ヘビーデューティーというヨーロッパからアメリカ開拓時代を経たアメリカ文化の両方を享受し、ワクワクしていたのを覚えています。
 高校に入学し、解き放たれたようにファッションに目覚め始めた私にとり、「メンズ・クラブ」が毎月提案するヘビーデューティー・ファッションやその背景にある生き方や考え方などはインパクト絶大で、ファッションを含めた日常生活でのそのポリシーのようなものは今に至るまで脈々と息づいています。
 80年代に入り「メンズ・クラブ」のヘビーデューティーは終わったけれど「その流れは世の中のベーシックとなって引き継がれた」と小林泰彦さんが本書で語られているとおり、私もまたそのベーシックとともにファッション人生を歩んできたようです。
 その考え方の元となる流れには1960年代のアメリカのアース・ムーブメントというものがあり、同氏が、1969年にニューヨーク五番街の本屋さんで出会った「Whole Earth Catalogue」はその象徴であったようです。余談ですが、若かりしスティーブ・ジョブズがいつも抱えていたのがこの「Whole Earth Catalogue」だったのはうなずけます。生前のスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチにも「Whole Earth Catalogue」を愛していたことが語られています。
 このヘビーデューティーというファッションとその考え方は、高校生の私の目を、突然覚ましてくれたと言っても良いかと思います。それまでも、点として小説や映画や音楽や生き方など、様々なヘビーデューティー的な情報には触れてきていましたが、その点と点を繋げ、統合してドンと見せてもらったような気がします。
 現在も、私のワードローブにはLLビーンやソレルの靴があり、グレンチェックのシャツ、ダウン・ジャケットなど数知れぬほどのヘビーデューティー系の衣服や靴が鎮座していますし、書棚を見ればソローにヘミングウェイにマーク・トウェイン等々…本書でもヘビアイ精神に繋がる著者として紹介されている著者本が我が家の書斎に多数並んでいます。
 さて、本書「ヘビーデューティーの本」は、「メンズ・クラブ」の「ヘビアイ党宣言」が出された翌年の1977年に発行されました。実は、当時、初版を買ったのですが、書棚のどこにも見当たらず、改めて文庫版を買い、私のファッションや生き方に大きな影響を与えたヘビーデューティーというものを、時々再確認しています。中嶋雷太

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