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私の好きな映画のシーン(9)「オーメン」

 「オーメン」が劇場公開された1976年の社会の雰囲気を思い出そうとしていました。ロッキード事件がありましたが、前年にベトナム戦争が終わり、第一次オイルショックも収まり、先は見えないけれど、なんとなく望洋とした、薄っすらとした平和感があったような気がしています。そんな、ぼんやりとした幸せ……の日々に「オーメン」が劇場公開されました。1973年劇場公開の「エクソシスト」から続くホラー映画ブームに加速度をつけ、1977年「サスペリア」に至ったかと思います。あのホラー映画ブームの勢いとは何だったのだろうかと、一度研究してみたいものですが、恐怖心をベースとした破天荒なストーリー・テリングを誰もが求めていて、それに応えられる製作陣がいたのは確かです。
 本作で好きなシーンは、喪服のポケットに両手を突っ込むダミアンの瞳。怖がるために映画館に行き、怖がり楽しむ私でしたが、あの瞳はホラーの枠を超えて、いまでも脳裏に刻まれています。
 冷徹な瞳の演技は色々ありますが、ダミアンの瞳は液体窒素並みの冷たさだったと思います。しかも、台詞はありません。ただ佇むだけ。文化祭のお化け屋敷のような恐怖の煽り方ではない、沈黙の恐怖がありました。
 気づけば映画を製作する側に立った私にとって、そして、余計なセリフをなるべく削ぎ落としたい私にとって、あのシーンは永遠の課題のひとつになりました。今夜はきっと、夢の中に、ダミアンが出てくると思います。 中嶋雷太

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