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不可思議なお話(1)「粉々になったグラス」

 私が東京の国立市に住んでいたころのお話です。
 1990年代初頭、まだバブル景気の余韻も残る日々でした。JR国立駅から都心に通うには、ドア・トゥ・ドアで約2時間弱。往復4時間弱を通勤時間に費やし、残業も月に100時間はあり、睡眠不足でふらふらの毎日を過ごしていました。世の中の会社はすべてブラック企業化していたのかもしれません。
 ある秋浅い日の夕暮れ。
 珍しく、太陽がまだ昇っている時間に帰宅することができました。「とにかく、寝たい」とドアを開け、残暑の残り香のような蒸し風呂状態の部屋に一歩足を踏み入れたとき、床一面がキラキラ輝いていました。「あれ、なんだろ?」と床に顔を近づけて見ると、そのキラキラは木っ端微塵に砕かれたコップの残骸でした。まるで、プレス機で砕いたように、見事な細かな破片が散らばっていました。そのコップは、容易に砕け散るようなものではなく、大人がカナヅチで砕いたとしても、大きめのかけらができるだけの分厚いガラスのコップです。朝出勤時にそのコップを使ってはおらず、合鍵を誰かに渡しているわけでもなく、泥棒に入られた形跡もなく、頭をかしげるしかない私でした。
 こうした話をすると「私、霊能者ですが」みたいな人が「それはですね…」と語り始めそうですが、私はまったく信じていませんのでお断りです。が、「あれは何だったのかな」とだけ不可思議な思いは残ったままです。生きていると、不可思議なことが時々あるものですね。中嶋雷太

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