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悲しきガストロノームの夢想(52)「ザンジバルのバナナのココナッツミルク煮」

 仕事の合間にテレビをつけ、NHKの「世界ふれあい街歩き」を見ていると、カメラはザンジバルを歩いていました。アフリカ東海岸。インド洋に面してザンジバル諸島があり、インドやアラブとの文化交流が歴史的に盛んだった地域で、スィーツとして「バナナのココナッツ・ミルク煮」の話が取り上げられ、現地のおばちゃんが凸凹歪んだ寸胴鍋で、ほいほいとこれを作っていました。
 「?…作り方を知っているが、どこで覚えて作ったのだろうか?」
 そうなんです。私は何度かこれを作ったことがあるのですが、その調理法をどこでどうやって覚えたのかの記憶がありません。東はタイあたりから、インド、そしてアフリカ東海岸のザンジバルまで、この料理は少しだけ香辛料を変えつつも作られているので、タイ料理屋かインド料理屋で食べて感激し、これまで何度か作ったのではないかと思うのですが…。
 さて、私流の作り方も簡単で、鍋にココナッツミルクを入れて火をつけます。そこに縦に切ったバナナ、干しぶどう、シナモン、そして胡桃を投入します。それだけ。およそ30分弱火でくつくつ煮込めば完成です。
 本当は、芋っぽいバナナの方が美味しいのかもしれませんが甘味の強い市販のバナナだと、よりスィーツ感があります。
 砂糖を入れないので、あっさりとした甘味があり、シナモンがスィーツ感を際立たせてくれます。ドロリとしたバナナを口に運び味わっていると、心はザンジバルの浜辺。貿易風に吹かれています。手元には、ヘミングウェイの「海流のなかの島々」。大西洋のハバナの海流が、インド洋で合体し、潮風が吹いています。
 「甘い」=「美味い」と叫ぶグルメ的なテレビ番組のレポーターを横目に、「ほのかに甘い」=「幸せ」を楽しめるのが、このスィーツです。
 さてと、梅雨が明け、夏になれば、時々作ろうかと…。中嶋雷太

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