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私の好きな映画のシーン(40)『霊幻道士』

 何事にも凝り固まるのが嫌いなのに、気づけば凝り固まっていることがあります。映画や演劇も同じで、幅広いジャンルがあり、様々な国の作品があるにも関わらず、同じようなテイストの特定の国の作品ばかりを何故か愉しむようになり、無数の面白い作品を見失ってしまうことがあります。
 香港映画もそのひとつで、昔は楽しんで見ていたのに、ついつい見る機会を失していました。
 先日、WOWOWの番組表を見ていると、『霊幻道士』シリーズを一挙に放送するのが分かったので、何気に録画予約をしました。特に「見たい!」という気持ちなどなく、本当に何気な感じでした。
 仕事を早く終えた夜、ベッドで「なんか、寝れないなぁ」とテレビをつけ、何気なく録画したままの映画などをだらだらチェックしていて、思わず再生ボタンを押したのが『霊幻道士』でした。
 1985年に劇場公開された本作は、当時の日本でも大ヒットしたはずで、キョンシー・ブームなるものがありましたが、ただ私の場合は社会人になりたてで、書籍の企画編集者として寝る暇などない日々を送っていたので、劇場で見る機会を失していました。さらに、そもそもブームになっていると、そっぽを向く困った性格もあり、『霊幻道士』を見たのはTSUTAYAでビデオを借りた1990年代に入ってからだったはずです。
 先回りして私の好きなシーンなのですが、墨壺攻撃をするシーンです。キョンシーの額にお札を貼るシーンでもなく、チェン道士(ラム・チェンイン)や弟子のチュウサム(チン・シュウホウ)のアクション・シーンでもありません。武器としての墨壺を屈指するのが何故か好きで、このシーンに出会うと家にも墨壺があったなぁと思い出していました。(我が家には父の墨壺が大工道具のひとつとしてあったのを思い出したのもあります)ただ、ニワトリの生き血と墨を混ぜるので、思わずオーっとなりますが。
 さて、クレジットを見ると、製作はサモ・ハン・キンポー。あの『燃えよデブゴン』の監督・主演や、ジャッキー・チェンの『スパルタンX』など、どちらかといえばカンフー・コメディ映画の流れを作った香港映画界の重鎮です。
 チェン道士役のラム・チェンインは、ブルース・リーの右腕として『ドラゴン危機一髪』、『ドラゴン怒りの鉄拳』や『死亡遊戯』などのスタントマンや武術指導助手として活躍された方です。弟子のチュウサム役のチン・シュウホウは、その後『霊幻道士』シリーズに数々出演され活躍されました。こうして、監督や出演者の来歴などをサクッと調べるだけで、ブルース・リーやジャッキー・チェンだけではない、元気のあった香港映画界自体がとても懐かしくなってしまいます。香港では、破天荒で、わくわくさせる映画の数々を製作した日々がありました。
 「とある時期」から、香港映画のダイナミズムが消えたような気がしており、残念です。なんであれ、一つの考え方でなければいけないとする時代は、自由闊達な精神的な動物である人間を殺す時代なのだと、つくづく思っています。ホラー+コメディ+エロス+…、ダイナミックな娯楽映画が、香港で再び製作される日を待っています。中嶋雷太

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