見出し画像

本に愛される人になりたい(45) 松本仁一著「カラシニコフⅠ、Ⅱ」

 ハードボイルドや戦争小説が好きだった私にとり、カラシニコフというロシア製軽機関銃は悪の象徴という印象が強くありました。さらに、中東、アジア、アフリカや中南米でのクーデターや内紛報道映像には必ずと言って良いほどこのカラシニコフが現れ、悪の象徴感はさらに強まっていました。簡単な構造で壊れにくく手入れも簡単だから…という、どこからか仕入れたはずの情報を信用しつつも、それ以上のことを知ることもないままでいました。
 旧ソビエト連邦の設計技師だったミハイル・カラシニコフが、1947年に開発したのが、カラシニコフAK47という自動小銃で、現在のロシアだけでなく、旧ユーゴスラビア製、北朝鮮製や中国製などのコピーされたカラシニコフが世に出回り、世界の紛争を煽ってきたようです。
 戦後のある時期までは、先進国からの国家独立を支えたイメージがありますが、その後、アフリカの無秩序な利権争いのような内戦で、泥沼化を助長する悪の象徴となりました。
 子供でも解体・組立が容易なシンプルな構造であるがゆえに、反政府ゲリラたちに拉致された子供がカラシニコフを持たされ人間の盾になりながらも大人を殺すという残虐な光景が作り出されてしまいました。
 本書を読み進めていくと、マクロ視点の国際政治学のひ弱さをつくづく感じてしまいます。有名な大学を出て、論理だけはしっかりしているけれど、そこには戦場の泥沼や貧困など感じ取れる感性など微塵もない…そうした人々の言葉が本筋だと思い込まされているのかもしれません。
 本来はナチス・ドイツの短機関銃MPに対抗する為に開発されたカラシニコフが、第二次世界大戦を経て東西冷戦から開発途上国内の内戦の泥沼を作り出し、さらに安易に人を殺戮するという時代を作り出したことから、さらに、カラシニコフを持たされて生きねばならなかった子供たちの目線から、改めて国際政治とは何かを考えることは、日々ぼんやり生きている私たちにとり大切な目線であることは間違いありません。
 さらに、カラシニコフの裏に見え隠れするダイヤモンド利権を貪る人々や武器商人たちが西洋民主主義国家にも存在し、その利権が某国の大統領を推している(舩戸与一さんのあとがき)ことを知ることもまた、大切なことだと思います。
 物語作家として、私が観たい創りたい映画やドラマや演劇の為の物語を書いていると、安易な優しさを主人公に求めてしまいたくなることがあります。さらに、美しい言葉を羅列して細かな心理描写をすれば誉めてもらえるという気がすることもあります。まるで、先に示した机上の国際政治学者のようです。
 反政府ゲリラという名の盗賊のようなグループに拉致され、人間の盾にされ、女の子は強姦され、開放されても売春婦としてしか生きられないという描写が本書にあります。それが、この地球のリアリティの一つであることを、絶えず理解できるように生きていたいものです。中嶋雷太

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?