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ビーチ・カントリー・マン・ダイアリー(5):「暮れの満月の下で」

 世田谷から湘南・片瀬海岸へ引越して二ヶ月が経ちました。暖冬とはいえ太陽が沈むと浜辺は冷え込みます。
 PC仕事の合間の息抜きに、暖かな紅茶を保温マグボトルに入れ浜辺に出ると、今宵は満月が輝いていました。浜辺に沿って走るR134から汀へ近づくと、自動車の排気音が遠のき、汀に打ち寄せる柔らかな波音が身体を包んでくれます。もう少し若ければ、私の好きなエレファントカシマシの「今宵の月のように」や桑田佳祐の「月」の歌詞を口ずさみながら、満月を見上げるのでしょうが、あの若かりし魂が抱える生命の抗いのような慟哭はどこにも見当たらず、ただただ、これまで抱えてきた喜怒哀楽が心の底に重く沈殿しているのを実感します。
 今年もあとわずかになり、非情にも時は消えてゆきますが、暮れの満月の下で息をする私は、夜空を見上げながら、来る一年に思いを馳せます。
 年末になり、パソコンを新しく買い替え、久しぶりの新作に取り組んでいるので、年末から年始の時の区切りはあまり感じてはおらず、新作の主人公であるハシボソガラスの心になりきった日々を送っていますから、私個人の時間の区切りは12月31日ではなく、この新作が完成する日になるはずです。暮れの満月の下で、ハシボソガラスは何を思うのか…。中嶋雷太

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