【被殻出血】のリハビリに役立つ大脳基底核の4ループを徹底解説


「明日から被殻出血後の患者さんのリハビリよろしくね」と言われ、脳が震えた…。」

「被殻出血の患者さんって、なんでこんなに移乗動作できないの?」と意味が分からなくて萎える」

「被殻出血のリハビリって何したらいいの?」って毎日申し訳ない気持ちになる」

と、悩まれたことはないでしょうか?


それもそのはず。

被殻出血は、臨床現場で一度は見るほど、高い確率で起こる病気の一つ。

脳出血の全体の8割は、高血圧より発症していると言われますが、なんとそのなかでも被殻出血の確率はNo.1。

※高血圧性脳出血の好発部位:被殻(40%)、視床(30%)、小脳(7%)・橋(10%)他(13%)

被殻と視床出血で7割占めているわけです。

豆知識として、慢性期で情報不足ならまず被殻と視床から脳卒中を疑うとスムーズに評価しやすいです。


そこで、この記事では、「大脳基底核ループをわかりやすく解説|臨床で使える被殻出血の治療法」について解説します。


あなたはこの記事を読むことで、「あなたになら被殻出血の患者さんを任せれるね」と上司から言われ、周りから一目置かれるようになったり
被殻出血なら、○○な症状が出現出ると思うから、○○な環境設定が必要」と後輩に指導できるようになったり
被殻出血の患者さん担当です」と言われても、すぐに必要な評価と、治療法がわかり回り道をすることがなくなるでしょう。


被殻出血は4割もの患者さんがなる病気。
つまり理解できれば、あなたは脳卒中の4割を理解することができます。

あなたは使う意識をもって学習している聡明な人です。
使って確実に力にしていってくださいね。


※この記事は、被殻出血に役立つ大脳基底核の4つのループをとにかく「わかりやすさ」重視で解説しています。

なので、テクニックがただ知りたい人や論文を知りたい人には、不向きのコンテンツです。

応用にも使える土台の基礎を身に着け、治療ができるようになりたい人以外は、絶対に読まないでください。


なぜ、被殻について知らないといけないのか?

そもそも、なぜセラピストなのに「被殻」について知らないといけないのでしょうか?

その理由は、治療できないから。


例えば、「今日からあなたが被殻出血患者さんを担当です。」と言われたとき

あなたならどんな治療しますか?


「骨?」

「筋肉?」

「内臓」

「それとも脳?」


いろんな意見があると思います。が、



正解は

「脳です」


だって、損傷しているのは、脳なんだから。



例えば、脳卒中の人に、運動麻痺の出てない人の「健康な手足」をくっつけたら、治りそうでしょうか?


きっと治らないはずですよね。


いくら健康な手足にくっつけても、また「ぐっ」と力が入って、運動麻痺におそらくなってしまうでしょう。

だって脳に問題があるんだから。


なので、私たちセラピストがやるべきことは、

被殻出血後の運動麻痺で体の自由が利かないなら、

「脳」を治療する意識で、体に触れたり運動します。


「脳卒中で感覚障害が出ました。」ってばあいなら

「脳」を意識して、感覚治療をしないといけないんです。


脳を意識して治療できていなければ、

「健康な手足をくっつければいいんでしょ!」

みたいな思考と何ら変わりがないわけです。


上記のような脳を意識した思考で治療するために、必須になるのが「脳の機能解剖」

脳の本質が分かっていれば、わざわざテクニックを知らなくても治療に応用できます。

今から話す内容を理解できれば、
・なぜ、患者さんの問題行動が起こるのか?

なぜ、患者さんがいつまでたっても車いすの乗り降りを覚えてくれないのか?
セラピストだけでなく、患者さんや患者さんの家族さんにも説明でき、信用されやすくなります。


あなたの世界観がぐっと変わる本質的な内容ですから、

目をしっかり、かっぽじって最後まで見てくださいね。

まずは「被殻」って何ってところから解説していきますね。


被殻出血ってどこの出血?

そもそも被殻出血とは、どこの出血を指しているのでしょうか?


「ここでしょうか?」

「あそこでしょうか?」


場所が分かっていると理解が深まるので、

「この辺にあるんだな」くらいの気持ちで、

軽く知っておいてください。


被殻とは、脳の中央部に存在する脳の構造体。

大脳基底核の一部として、レンズ核の最も外側を形成しています。





では次に、「大脳基底核って何?」って話です。


大脳基底核とは、

  • 線条体(尾状核、被殻)と淡蒼球(内節、外節)、黒質、視床下核の総称

  • 大脳皮質と視床、脳幹を結び付けている神経核の集まりのこと指します。

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出典:Anatomography

上記の図では、赤い場所に大脳基底核は集まっています。


ではいよいよ本題です。

「大脳基底核って何にするの?」

って話ですが…


大脳基底核の機能は、教科書的に説明すると、
・運動の調整

認知機能
感情
動機付けや学習など

様々な機能を担っていると言われています。



「役割多すぎワロタ!」

「こんなの覚えられない。

「ぴえん」

って思いますよね。


私は物覚えが良いほうではないので、これではすぐ忘れて臨床では使えません。


なので、ここから超本質的な話をしていきます。

わかりやすく解説するので、はぐれずついてきてくださいね。

大脳基底核の働き

大脳基底核の働きを一言で表すとどうなると思いますか?

大脳基底核の働きを一言で表すと、


大脳基底核の働きは
・抑制
ブレーキのみで、アクセル機能はありません



「抑制」

「抑制」

「抑制」


それ以上でもそれ以下でもありません。


「抑制?」

「なんのこっちゃ?」

って感じですよね。

実は、大脳基底核は私たちの生活に必要な4つのことを抑制してくれています。


大脳基底核が抑制をかけているのは次の4つです。

▼大脳基底核の抑制対象
・運動
・眼球運動
・感情
・行動


私やあなたの身体は、大脳基底核が正常に働いているおかげで、

  • 運動の手順を間違わないし

  • イケメンや美女に目を囚われたままにならないし

  • 上司にキレて、大揉めすることもなく平穏に過ごせるし

  • 計画をもって仕事を遂行できるわけです。



被殻出血になると、上記のことができなくなるため、

・車いすからベッドへの移乗がいつも手順エラーを起こしたり
・周囲をキョロキョロ見てリハビリに集中できなかったり
・感情を抑えれず、家族さんから性格が変わったと言われたり
・気が乗らないときはリハ拒否が起こったりするわけです。


ここからはさらに踏み込んで、解説していきますね。

大脳基底核の4つのループ


ここからは、大脳基底核の4つのループについて解説します。

大脳基底核は4つのブレーキシステムを使って、日常生活をコントロールしています。

それらの”抑制”機能のことを、
大脳基底核ループと呼びます。

大脳基底核ループは次の4つあります。

・運動ループ
・眼球運動ループ
・辺縁系ループ
・連合系ループ


それぞれ詳しく解説しますね。

運動ループ


運動ループは、文字通り「運動の順序を決めている」ループです。

そのため、被殻出血になると運動の手順にエラーが起こります。


例えば、「車いすからベッドへの移乗」


車いすからの移乗の必要な構成要素は、

1.ベッドへ近づく
2.ブレーキを止める
3.フットプレートをあげる
4.起立
5.立位保持
6.方向転換
7.着座
8.フットプレートに足を乗せる


ですよね。

でも、これらの”運動の順番”を適切に決めれない病気が、被殻出血です。


まずは、運動ループのメカニズムを見ていきましょう。


運動ループのメカニズム


車いすからベッドへ移乗しようとしたとき、
補足運動野では、今までの生活での運動記憶
から大量の情報を引き出します


※補足運動野は、
記憶と関連が深く、順序正しく運動するときに関与する脳領域です。



次に大脳基底核による選別が始まります。

補足運動野から情報が下りてくると、
運動して良いのか悪いのかを線条体(尾状核、被殻)で選別されます。


「こいつはアカン!」
と命令が下ると、
間接経路が働き、抑制の作用を強めます。

間接経路は、
抑制を強化するので、
「抑制強化」
と言います。


間接経路へ情報が流されると運動は起こらず。

運動は抑制されます。


その後、淡蒼球外節→視床下核→淡蒼球内節、黒質網様部→視床へ行き、大脳皮質に戻り、再度運動の選択が行われます。


上記のように、何度も何度も何度もこのやりとりを繰り返し、

線条体で「運動して良い」と判断される直接経路を通ることができます。

直接経路を通ると「抑制しないでいい、運動していいよ」
という指令が流れます。
抑制をやめる(脱する)ため
脱抑制がおこります。


上記のように電車の改札口の駅員さんみたいな働きをしているのが、大脳基底核の役割です。


「脱抑制なんて変な名前だな」

って学生の頃思った方もいるかもしれませんが、

大脳基底核の本質は「抑制」です。

なので、「脱抑制」と呼ばれたりや「抑制強化」と呼ばれることを覚えておきましょう。


それでは再度、車いすからベッド移乗で考えてみましょう。

車いすからの移乗の必要な構成要素は、

1.ベッドへ近づく
2.ブレーキを止める
3.フットプレートをあげる
4.起立
5.立位保持
6.方向転換
7.着座
8.フットプレートに足を乗せる


ですよね。


例えば、移乗する際に、いきなり「起立」の運動プログラムが下りてきました。

そうなれば、あなたの思う手順とは異なりますよね。


「いやまずベッドへ近づかんと」

「まだでっせ」

「あんた帰っておいで」

となるので間接経路が働き、抑制を強化します。


抑制を強化するので「抑制強化」


大脳皮質から「フットプレートに足を下ろせよ」と情報が来ても、

「これも違う!」

「それもまだやねん!」

と大脳基底核の間接経路が働き、また抑制します。


上記のように何度も何度もやり取りを行い、大脳皮質から「ベッドへ近づけ」と情報が下りきたら


「あんたのこと、おまちしておりましたよ」

と直接経路が働き、
「抑制辞めてもいいよ(運動していいよ)」
と脱抑制が起こります。

抑制を脱するため、「脱抑制」でしたね。


脳の中では、上記のやり取りが何度も何度も、高速で繰り返され、”選ばれし運動のみ”が表出されていきます。

運動の手順を決めているのが、大脳基底核の運動ループの役割です。


被殻出血の患者さんが「なぜ車いすからベッドに移乗できないのか?」
今なら答えれそうですよね。

大脳基底核の抑制機能が壊れて、直接経路ばかり使ってるから。
大脳基底核の本質は抑制であり、間接経路が主役であると覚えてください。


次は黒質緻密部の役割についても解説します。

黒質緻密部は、線条体(選別のぬし)にドーパミンを送る大切な役割があります

黒質緻密部からのドーパミンは、
線条体を通過して運動するのに必要な通行手形のようなモノ


電車の改札の駅員さんが線条体なら、ドーパミンは切符やPiTaPaのようなものですね。

電車に乗るときでも、切符がないと改札を通してくれないように、運動するときにドーパミンがないと通してくれません。


直接経路を通り脱抑制(運動)を起こす際に、黒質緻密部は線条体にドーパミンが必要なのです。

なので、いくら線条体で「通ってOK」と言っても、ドーパミンがないと、運動が表出されないことを覚えておいてください。


その代表的な病気をあなたはご存知でしょうか?
おそらくあなたも知っている病気。


代表疾患がパーキンソン病です。

黒質変性により、ドーパミンがうまく作動しないため、直接経路が働かない=運動ができないんです

そのため、
・一歩が踏み出せない「すくみ足」
・関節が動かせない「固縮」
・表情がない「仮面様顔貌」
・姿勢を戻すことができない「姿勢反射障害」が起こるんです。


だから、パーキンソン病の人には、Lドーパ(ドーパミン)を処方しますよね。


逆に間接経路が働かないハンチントン病。

ハンチントン病尾状核の変性により起こりますが、抑制ができないので、逆に運動を止めれません。

ちなみに、中大脳動脈領域の脳梗塞や被殻出血患者の場合は、間接経路がうまく働かないので場合がほとんどで、抑制できず。

いろんな問題行動が出現します。


ハイパー直接路は一番初めに働き、運動開始と停止、不要な運動の抑制に働きます。


上記のようなメカニズムが破綻してしまうため、被殻出血後の患者さんは、移乗動作が上手くできなかったり、運動に関係ないタイミングで点滴を触ってみたりしちゃうわけです。


被殻出血後患者さんは、精神的におかしいわけでなく、
大切なブレーキ機能が壊れてしまっていることを
理解してあげてください。


眼球運動ループ

次は眼球運動ループです。

眼球運動ループとは、眼球運動をコントロールしているループのこと。

眼球運動ループは、視覚刺激に対して急速に動いてしまう眼球をコントロールし、「必要な情報に注意を向ける」役割があります。


いきなりですが、質問です!


「あなたの思う最高のイケメン・美女とは?」


あなたにも理想のイケメンや美女がいると思います。が、

街中でイケメン・美女を見かけた時にあなたは「ガン見」しますか?


あなたはもしかしたら、相手が目をそらすまで、目を合わせることができるツワモノかもしれんが、普通は「ガン見」はできませんよね。


でも「チラ見」ならどうでしょうか?

「チラ見」ならあなたもしているんではないでしょうか?

私は断然「チラ見族」です。


話を戻しますが、実は「チラ見」が行えているのは、眼球運動ループのおかげです。


私たちの目は、動いているものを見ると勝手に目を急速に動かして、周囲の状況を把握しようとします。

その眼球運動の機能のことをサッケードと呼びます。


例えば、街を人とすれ違いながら歩くとき。

私たちはスマホを見ながらでも、基本的に誰ともぶつかることなく歩けますよね。

そして、「あの人超イケメン…」
と気づいたときには、ちゃんとばれないように見ることができますよね。


上記のようにイケメンや美女にアクセスできるのは、眼球運動ループが上手く機能できているからです。


眼球運動ループが機能してない場合は、

必要な情報にアクセスできなかったり、
逆にアクセスしすぎることが起こります。


なので、あなたがイケメンや美女をチラ見で見ることができるのは、大脳基底核の眼球運動ループがちゃんと機能しているおかげなんです。


では、ここからはメカニズムを解説します。

眼球運動ループは、眼球の運動領域の前頭眼野・補足眼野から尾状核へ情報が送られます。


尾状核は情報を選別し、「今は見たらあかん」「注意を向けるな」となれば、間接経路が働きブレーキの作用を強めます。


運動ループと同様で、
抑制を強めるため、「抑制強化」と呼びます。


間接経路を通り、「淡蒼球外節→視床下核→淡蒼球内節、黒質網様部→視床」を経由して「前頭眼野、補足眼野」に戻り、また注視する視覚情報の取捨選択を行います。


そして尾状核で選別され、「見るべき情報」と判断されると直接経路をとおり、「ブレーキを緩めて注視してOK」となり、注視を行うことができます。


直接経路を通り、
抑制をやめる(脱する)ので「脱抑制」


眼球運動ループで処理された情報は、前頭眼野から上丘(中脳)や橋の注視中枢へ送られます。

また、同時に黒質網様部から上丘への線維投射して、眼球運動を制御を行なっています。


つまり、大脳基底核以外で「中脳」など、脳幹に障害がある場合でも、サッケードの異常は起こる可能性があるので、豆知識として知っておきましょう。


連合系ループ

次は連合系ループです。

連合系ループは、認知情報や記憶(特にワーキングメモリー)を有効に活用し,意志の発動や行動計画,注意,社会行動に関与しているループ。


簡単に言えば、
・意思決定の抑制と実行
・運動を行う前の行動計画、立案

をしているループです。


例えば、「宿題をしなければ」って時に、連合系ループは働き、「宿題をする」or「宿題しない」か意思決定しています。

「よし、するぞ!」となった場合には、行動計画が始まります。

宿題の行動計画には、
・鉛筆を削る
・筆箱を出す
・消しゴムを出す
・宿題のプリントを出す


などがありますよね。



宿題をするために、「どんな行動の順序」で行くか決めているのが連合系ループです。

でも運動ループとどう違うの?と疑問が出ますよね。

上記で説明した運動ループと似ていますが、少し違います。



運動ループあくまでも、運動の時のループ。

宿題をすると決め、行動の計画の一つである「鉛筆を削る」の具体的な動きの順番を決めているのが、運動ループ。

「宿題するのか?」or「しないか?」
さきに「鉛筆を削るのか?」or「消しゴムを出すのか」の順序を決めているのは、連合系ループ。


さらに言えば、
どんな順番で宿題を終わらせようか考えるのは連合系ループ。

宿題に取り掛かる鉛筆を削る動きは、「左手に鉛筆削りを持つ」⇔「鉛筆を入れる」⇔「ハンドルを持つ」などは運動ループ。

運動ループは行動計画をさらに細分化したイメージなので、混同しないように注意しましょう。


では、メカニズムに移ります。

前頭前野(背外側)から情報が送られてくると尾状核で選定されます。

「この意思決定はだめ!」となれば、間接経路が働きブレーキの作用を強めます。

「もう言わなくてもいいよ!」

「またあれだろ」

と思っているかもしれませんが。


正解です。

抑制を強める為、抑制強化と言います。


間接経路をとおりその後、淡蒼球外節→視床下核→淡蒼球内節、黒質網様部→視床へ。
そして前頭前野(背外側)に戻り、また違う意思決定や行動計画を選択します。

そして線条体で選別されて「意思決定、行動計画OK」と判断されると直接経路を通ります。


直接経路を通ると…

「そう、脱抑制でしたね。」

バッチリです!!


直接経路を通るとブレーキを緩めて「意思決定、行動計画」が始まります。

行動計画がすべて終わった後、今度は運動ループが「運動の手順」の選定が行われます。

上記のように、「意思決定や行動計画」にも、大脳基底核は関わります。

辺縁系ループ

辺縁系ループは、情動や動機付けを決めているループ。

簡単に言えば、「感情のコントロール」や「行動するきっかけ」を決めてるループです。

辺縁系ループはヒトの「人間らしさ」を決めるのに重要なループです。


例えば、もし仮に、あなたは上司から嫌味を言われたとします。

くどくど嫌味を言われ「うざい、わかってるわ」と思っていても、あなたは感情を抑えることができますよね。

「まさか…辺縁系ループか・・・」思われたかもしれませんが。


そう、正解です。

勘が鋭くなってきましたね。


あなたの予想通りで、

感情に抑制をかける働きをしているのが、辺縁系ループの役割なんです。


そのため、もし仮にあなたの辺縁系ループが壊れてしまえば

上司の嫌味に耐えきれず、あなたも暴言を吐いてしまうかもしれませんし、もしかしたら手が出てるかもしれません。



辺縁系ループは感情をコントロールしているので、被殻出血になってしまうと「怒る」「泣く」最悪「殴る」など、感情コントロールができなくなります。

感情失禁なんて言われ方もしますね。


とにかく被殻出血後の患者さんは、感情のコントロールが難しい人が多いです。

家族から「性格が今までと違う」「温厚で怒らない人でした」「こんなにひどいことされたことないです」など言われ、問題行動が増えたと言われるのもそのためです。


では、どのようなループなのかメカニズム見ていきます。

辺縁系ループは、辺縁皮質の前帯状回から腹側線条体(側座核)に情報を送ります。※尾状核の腹側部も一部含む

側坐核で、感情の選別が行われ、「感情をあらわにしてはだめ」となれば、間接経路を通ります。

間接経路は、抑制を強めるので

あなたももう覚えてしまった

「抑制強化!」

間接経路はその後、淡蒼球外節→視床下核→淡蒼球内節、黒質網様部→視床そして前帯状回に戻り、また違う感情を選択します。


そして腹側線条体(側坐核)で選別されて「感情・動機付けOK」と判断されると直接経路を通ります。

抑制をやめる(脱する)ので、

「脱抑制」ですね。


あなたが私の記事を見て、疲れてきたと思っても、続きを読み続けていられるのは、間接経路を経由して我慢が効いてるからです。


もう少しで終わりますから、頑張りましょう。


また、辺縁皮質(前帯状回)と前頭前野には強い線維連絡があり、「辺縁系ループ」は「連合系ループ」と共に、認知情報の評価、情動や感情の表出、意欲などの高次脳機能や精神活動に関与しています。



つまり、辺縁系ループが破綻すれば、連合系ループにも大きく影響します。


大脳基底核の機能;パーキンソン病との関連において 高草木薫.2003


例えば、「リハビリ拒否」。

リハビリ時間に患者さんを迎えに行ったときに
「なんか面倒くさい・嫌だ」
と感情が抑制できない場合、そのあとの意思決定で


「よっしゃ、いっちょリハビリでもやってやりますか!」

とはなりません。


そのまましつこく、勧誘をすれば、さらに怒らせ、最悪殴られることもあります。(笑)


辺縁系ループが破綻すると連合系ループにも影響を与え、そのあとの意思決定も変わるので、被殻出血後の患者さんは、社会性の欠如が起こりやすいんです。

大脳基底核ループの治療の考え方

ここまで、大脳基底核の4つのループを紹介しました。

被殻出血患者さんの頭の中が理解できたと思います。


「でも結局、どうすればいいの?」
と感じた部分もあると思います。


ここからはループ別に、
機能解剖の観点から、治療法の考え方を提示しますね。

レベルアップできてますよ。
最後のひと踏ん張りです。頑張っていきましょう。


運動ループ

被殻出血になると、運動の手順がバラバラになります。

なぜなら、運動ループは運動の手順を決めているループだから。


なので、運動の手順を一から教えましょう。


例えば、車いすからベッドへの移乗場面。

車いすからベッドへの移乗に必要な構成要素は、

・ベッドへ近づく
・ブレーキを止める
・フットプレートをあげる
・起立
・立位保持
・方向転換
・着座
・フットプレートに足を乗せる


でしたよね。

あなたのようにセラピストであれば、
「うん、そうだよね」とすぐ理解できます。

しかし、今まで車いすを使う機会が少なかった患者さんが、
車いすの使い方をそもそも知っているのでしょうか?


もしかしたら知らないかもしれないですよね。
となれば、教えてあげないと必ずエラーが出ます。


なので、まずは、患者さんが「この車いすの乗り降りの手順を知っているか」を言葉で確認しましょう。


そもそも車いすに乗ったことがない人であれば、順序の記憶を「補足運動野」に保存できていないので、絶対に手順エラーがでます。

だって知らないんだもん。


例えるなら、ラグビーのルールを知らない人に、いきなりラグビーさせるようなもの。

タダのどつきあい、殴り合いになってしまいますよね。


なので、「車いすを使ったことがあるのか」を確認し、まずは「言葉」で乗り降り方法を確認してみましょう。

もし、「言葉」の時点でエラーが出てるのであれば、「知らなかっただけ」の可能性もありますから言語で教えてあげましょう。


次は、知っていたパターン。

知っていて手順エラーがでるなら、被殻出血による影響です。


その場合、手順エラーが出てしまったら、必ず初めからやり直させてください。

「車イスのブレーキ忘れ」があったのであれば、「ベッドに近づいていくところ」からやり直し。

やり直しさせる理由は、補足運動野に間違った手順を記憶させてしまうから。

最初のきっかけは大脳基底核の抑制ができなくなったことが原因です。

しかし、繰り返すうちに誤った手順を学習してしまうので、必ず初めからやり直しさせましょう。


毎回同じ手順で指導すれば、
補足運動野と大脳基底核が
「これではまた言われてしまう…」と再学習してくれます。


何度も何度も行って、大脳基底核を使ってもらいましょう。


補足運動野に正しい手順を記憶させなければ、今後毎回手順を間違えます。


実際に私が病院で担当していた被殻出血の女性患者さんは、車いすからベッドへの移乗で、ブレーキした後、「フットプレートを上げる」ときに必ずエラーしてました。が


最初から何度もやりなおしすると、移乗する前に手順を思い出してくれるし、それを意識して繰り返してくれるので、できるようになりました。



運動手順でエラーが起きたときには必ずやり直し、
初めから動作してもらい、再学習させましょう。


眼球運動ループ

被殻出血になると、眼球のコントロールができず、必要な情報に注意を向けることができなくなります。

なぜなら、眼球運動ループが損傷して、視覚刺激に対して急速に動いてしまう眼球をコントロールができないから。

なので、日常生活に支障が出ないような環境作りが必要です。


例えば、食事。

眼球運動ループに障害が出てしまうと食事が特に大変です。


食事中に人の動きがあれば、動いているものに勝手に目が動いてしまったり、注目してしまい、食事量が低下してしまうこともあります。

なので、食事中は視野に人の影が映ったり、人が食事をしているところをなるべく見せない環境作りがオススメです。


食事に集中して食べれる環境を整えてあげないと、
他の人の動きを目で追ってしまうので、
評価した時点でサッケード異常がある場合は
環境設定をしてあげましょう。

治療場面でもキョロキョロしてうまく治療が進まないのであれば、
なるべく人が通らないリハ室の端っこや個室など、集中できる環境を用意しましょう。

連合系ループ&辺縁系ループ

被殻出血では、感情コントロールができない、またその感情をもとに意思決定してしまうため、社会性の欠如が起こります。

そのため、病棟では「個室対応」になりがちです。

でも、個人的には大部屋が良いと思っています。


なぜなら、社会性を練習していかなければならないから。


感情の制御のコントロールの練習は、日常的にしていかなければ社会性は磨かれません。

でも個室対応にしてしまうと、練習する機会を全て取り逃すことになります。

大部屋で共同生活すれば、何度も辺縁系ループと連合系ループの練習になり、社会性が戻しやすいです。


私が担当した被殻出血の女性患者さんも辺縁系ループと連合系ループが破綻していました。

その女性患者は大部屋で過ごされ、自分の体の状態をわかっていると口では言いながらも「退院したい」と何度も言われていました。

でも、「まだ回復の見込みがあること」「今のままでは生活ができないこと」を理由に退院許可はおりませんでした。

そんなある日「退院したい!!」との想いから、かさぶたを削って出た血で紙に「助けて」と書いた紙を病院の外へ投げ捨てました。

それを外で拾った通行人は、血で書かれている紙を拾って「ヤバイかも」と通報。

病院へ警察がぞろぞろ来て、事情聴取される事もありました。

病院内は大騒ぎで、医者やナース、リハ担当の私も大変な思いをしました。(笑)


でも、その患者さんも退院時にはある程度感情のコントロールができるようになり、「あのときはバカだった」と反省していました。

最終的には「先生ありがとね」と言われたとき、粘ってほんとによかったなと思いました。


共同生活を送ることは、辺縁系ループが破綻した人にはとてもストレスのかかるかもしれません。

でも、社会に上手く戻ってもらうためには、日ごろからの練習が必要と思います。


退院後に患者さんが困らないようにするためにも、病態を理解してあげることがとても重要です。

また足りないところは家族にも説明し、
少しずつ補えるようフォローできる環境を
作ることが大切です。

本質が分かれば応用が利く

最後までご覧いただきありがとうございます。

この記事では被殻出血の超本質的な話をさせていただきました。


ここまで勉強熱心に読んでくれたあなたに治療されるなら、被殻出血の患者さんもうれしいと思いますよ。


リハビリ業界では、たくさんテクニックが転がっています。

しかし、本質を教えてくれる人はほとんどいません。


小学校、中学校、高校、大学ってあるみたいに、物事には段階があります。

それと同じように、病気の本質が分かれば、テクニックも後から付いてきます。


テクニックも大事ですが、まずは病気の本質を見極めて、臨床で活躍してほしいと願っています。


これからも、「脳卒中の本質」ついて発信していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

ありがとうございました。

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