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起動できません

 
 朝起きたら、起き上がれなかった。

 大学生の頃よく金縛りに遭っていた。霊感ゼロの私が悪霊に憑かれる訳もなく、単なる睡眠麻痺というやつだ。何故起きるかといえば大体ストレスとか時差ぼけとか言われるが、Wikipediaにはなんと「思春期に起こりやすく」と書いてあった。私は二十歳過ぎまで延々思春期が続いていたのか。

 しかし今回は違った。体は動くには動くが、まったく何もする気がない。頭のなかが空っぽだ。元来ペシミスト故にむしろうつとは無縁と思っていたが、ついにその時が来たのだろうか。

 これでは仕事は無理だという確信に近い感覚があったので、朝の6時過ぎから上司に「今日は休みます」とメールを送った。完全在宅になってから毎朝と夕、上司と形式的に連絡を取ることになっている。我ながらこんな時間に送るかよと思ったが、程なくして上司から了解した、体調は大丈夫かとの返信があった。そういえばこの前画面越しに会った際、妙に生活が規則正しくなって19時に寝てしまう時もあると言っていた。おじいちゃんですかと笑ったが今日は私の方がおじいちゃんだ。心が空っぽなだけで熱や咳などはありませんと返したが、それはそれで不安がらせてしまったかもしれない。

 さぼり魔のくせに、朝起きて今日は休もうと思って会社を休んだことは殆どない。あるとすればPLを飲んで朦朧としている時か、ボルタレンを飲んで胃液まで吐き尽くしている時くらいか。入社1年目の頃「徹夜で飲んでも取り敢えず朝出てきてトイレで寝ろ」と言われたのが骨の髄まで染み込んでいるのかもしれない。ちなみにそれからPLとボルタレンは一切飲まないようにしている。

 なのに何故こんなことになるのだろう。思ったのは、結構精神的な負荷が掛かっているのかもしれないなということだった。

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 広告の仕事は通常受け身だ。なんてことを言うと今どき何もわかってないと怒られそうなので、未だクライアントワークが占める割合が大きいとしておく。そういう身分で今のような状況に置かれるとどうなるか。いわゆる自主提案というものを繰り出すようになる。

 敢えてこういう言い方をすると、今や業界を挙げてのポスコロ大クイズ大会の様相を呈している。それとは距離を置くというスタンスも勿論あるが(私はそちら寄り指向の人間だ)、多かれ少なかれ皆がその波に飲まれている。結果日々の生活のなかであれこれと意識し過ぎて、なけなしの脳味噌が熱を持っている。

 しかも本来なら今週からゴールデンウィークだが、今年はそのメリハリがない。むしろ家のなかでいかに休日を休日らしく過ごすかに頭を使う始末で、これだって十分なストレス要因だ。

 会社に行けば休みたいという。家にいれば会社に出たいという。人間はなんて勝手な生き物なんだろう。しかし飲み会では参加者の皆が同じことを言っていた。なんだ、みんなそうなのかというつかの間の安心を頼りに、今週もhomeにstayしてsurviveしている。なんかどこかで聞いたな、こういうの。

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