あなたは私の青春そのもの

更新ゆっくりでも大丈夫だよ、とのことで油断してたら、本当に10日以上たってた。油断するとすぐこれです。

前回の束子さんの小説もおもしろかったなあ。
私は大体話を読むとき映像とか声とかがぼんやり頭の中で組みあがってるんですが、今回は某ネットの人たちが私の頭の中でこの女性と男性を演じていました。束子さんは書いてるとき、誰かモデルがいたりするのかな……。いたりいなかったりかな?

さて。それでは私のお話です。
お時間ございましたらお付き合いください。

*****

「せーんぱい! ボタンくーださい!」

 努めて明るく発した言葉だったけれど、いつものごとく先輩はこの世にあんまり興味のなさそうな表情をこちらに向けて、ゆっくりと溜息をこぼした。桜が舞うどころか、咲く気配も感じない3月。先輩はこの学校を卒業する。

「無理」
「え! ひどい!」
「いや、もうないんだよ」

 そう言って身体ごとこちらに向き直ってくれる。第二ボタンどころか、先輩の学ランからは第一から第五まですべてのボタンがなくなっていた。わかってはいたけれど大人気じゃん。なんでこんな不愛想なのに人気があるんだか。

「違います違います! 私ね、部活の先輩、全員分の袖の小さいボタン集めてるんですよ」
「袖?」
「そうです。ほら」ポケットからたくさん集めた袖のボタンを先輩に見せる「ね? これ、ちっちゃくて可愛いじゃないですか」
「ふーん……変な趣味だな」
「変じゃないですよ! 思い出みたいな。──だめですか?」
「まあ、別にいいけど。これって取れんの?」
「ぬかりないです」

 ジャンっと手芸用の糸切バサミを取り出すと、またひとつ溜息をこぼす。本当にこの先輩はずっとこんな表情ばかりだったな。出会った時から、最後の最後まで。だけど、なんだかんだ面倒そうに右手首を差し出してくれる。

「早くしろよ」
「はーい」たくさんのボタンをジャラジャラっと左のポケットに戻して、先輩の腕を預かる。制服を切ってしまわないようにボタンとの間にそっとハサミを差し込んだ。「なんか急いでます? このあと予定あるんですか?」
「いや。さっさと帰る」
「えー? 淡泊ですね。卒業式ですよ」
「淡泊? そうか?」
「そうですよ、一大イベントじゃないですか」
「なんかお前らしいな」
「……確かに。先輩も先輩っぽいですけど」

 少しだけ丁寧に。ゆっくりゆっくりハサミを動かす。
 ちょきんと。
 切れた糸はモサモサしていたけれど、制服は傷つけずに済んだ。

「わーい! 取れました! ありがとうございます」
「絶対制服切られると思った」
「あはは、さすが。山田先輩のはやっちゃいました」
「……かわいそ」

 じゃあな、と歩き出す先輩の背中に「卒業おめでとうございます!」と声をかけて。
 私は先輩のボタンを右のポケットに滑り込ませた。

*****

今回のお題は卒業式。
正直卒業式にまともな記憶があんまりなくて、どうしようか本当に悩んだ。
まいどまいど悩んだって言ってる気がするけど。

結局ラブコメにしようと思ったんだけど……これはラブコメ……か?
ラブコメとは……一体……。

そんなわけで束子さんへの次のお題です!
「ミステリー」
これでいきましょう!

楽しみ楽しみ!

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