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争いはいつだって悲劇しか生まないけれど、人は過ちを繰り返す

 今期初のデイキャンプに行ってきました。
 初めてテントを購入し、ワクワクで向かった3回目のソロデイキャンプ。

荷物多め


 ──数時間後、まさか戦いの火蓋が切られるとは、この時の私は知る由もないのである。

 この日の目標はふたつ。新しく買ったテントを立てる練習をすることと、新しく買った卓上焚火コンロで肉を焼くこと。

 3連休の始まりともあって、キャンプサイトは賑わっており、景観のよい場所は既に埋まっている状態。

「どの区画にします?」
「うーん、人が少なそうなところで……」

 山側に面する場所を選び、「気に入らなかったら、移動してもいいからね」と受付のおじさんの優しい一言にニコニコしながら、選んだ区画に移動。

 持ってきたレモンティーを一口飲んで、いざ、基地づくり。

立った!
テントが立ったわ!


 ひとりでも簡単に立てられるテントを購入したのですが、やっぱりはじめてのテント設営は不慣れなこともあって、めちゃくちゃ時間がかかりました。買ったばかりだと要所要所の組み立てに力がいるんですよね。

 結局キャンプも筋肉だったのです。

 この世のすべては筋肉。
 筋肉こそがすべて。

 あと、予想していたより気温が高く、少し涼しくなったぐらいではまだ虫がすごかった。
 次から次へと現れる虫。
 虫、虫、虫。

 蚊取り線香をつけたうえで、最初は丁寧に追い払っていたのですが、あまりの多さにテントを立て終える頃には共存の気持ちが芽生えていました。

 共存というか、無。
 虫を無視。
 いるけど、無視。


 テントやテーブル、椅子を組み立て終えたら、もう疲労が困憊でした。

 キャンプ場でコーヒーでも飲もうと、お湯を沸かすために持ってきていた道具を使う気にもなれず、自販機でアイスティーを購入しました。大事なのは臨機応変。文明の利器のありがたみ。

 なにもする気になれなくても、それでもお腹は減るというもので、朝からなにも食べていなかった私は、疲れた体をなんとか動かし、お惣菜のコロッケを挟んだホットサンドをつくりました。ソースを多めにぶっかけるのがミソ。

皿がなくてもアルミホイルがあれば大体なんとかなる


 ……と、ホットサンドが完成した、そのときでした。

 ヤツが、現れたのは。

「────ひっ!!」

 私の周りを突如飛び回り始める、黒とオレンジの毒々しいカラーリング。

 そう。

 ──スズメバチ。

 スズメバチが二匹も現れたのです!

 ホットサンドを片手に車に避難。
 泣きながら食べたホットサンドは、それでも美味しかった。

 時間が経過し、スズメバチの姿が見えなくなったので、キャンプ練習を再開しようとするも、10分程の間隔で姿を現すスズメバチ。
 そのたびに避難を余儀なくされる私。

「もう……もう帰りたい」

 この時点でまだキャンプ場について2時間。
 この後も永遠にこの恐怖を繰り返すのかと思うと、すべてのやる気が削がれ、私は途方にくれたのでした。

 あまりの恐怖心に、意を決して受付のおじさんに相談に行こうとすると、キャンプ場の入り口に見覚えのある人影が──

「父wwwwwwwww」

 そうです、父が現れたのです。
「ひとりでキャンプなんてフザけたことばっかりして、何がおもろいねん」と悪態をつきつつも「着火に使え」と謎に巨大松ぼっくりを拾ってきてくれる、ツンデレの、父が──

このボックリは、いいボックリだ


「おい娘、キャンプは順調なんか?」
「いや……大きい声で言いにくいんやけど、なぜか私だけが、スズメバチに囲まれてて……」

 ちょうど親子の会話を聞いていた、受付のおじさんと、なぜかちょうど現れた地元の観光協会のお兄さんと、私の父で、ハチ撃退スプレーを片手に、私のテントに来てくれることになりました。

タラララッタラー
殺虫スプレー


 ソロキャンのはずが一気にパーティーメンバーがフルの状態に。

 一行が私のサイトに着くと、スズメバチの姿は見当たりませんでした。

 ──だから嫌なんだよね、と心の中で愚痴る私。
 こっちは切実に困っているのに、助けを求めた途端、原因がいなくなるやつ。これだから虫ってヤツは……
 などと、内心ブチギレていたら、観光協会のお兄さんが「いました! 木の上に止まっています!」と。

 すごい視力!
 ウォーリーを探せの才能あるよ!
 お兄さん、ナイスゥ!

 みんなでスズメバチに向かってスプレーを噴射したものの、倒すことはできず……
 蜂は飛び去り、その後、木をよく見ても巣のようなものは見当たりませんでした。

「多分この木の樹液を吸いに来てるなあ」
「区画、変えようか?」
「う、うーん……」

 区画変更の提案を受けるも、もう私のHPもMPも瀕死の状態。すべての道具を移動させ、また1から組み立てなおすなど、『言うは易く行うは難し』状態だったので、スプレーだけお借りして、お礼を言い、受付のおじさんと観光協会のお兄さんには通常業務に戻ってもらいました。

「はあ、疲れた。もう帰ろかな……」
と、こぼす娘に
「いや、肉ぐらい焼けや」
と、なぜかキャンパー魂がみなぎる父。

「スズメバチが来ても、手で払ったり逃げるからあかんねん。黙って動かず、ジッとしとけば大丈夫や」
「理屈はわかるが、どう考えても私には無理難題すぎる」

 娘のやる気減退を軽くあしらい、勝手に竹串に肉を刺し、焚火で炙り始める父。

そんな……マシュマロみたいに……


「うっわ!! お父さん!! 来てる来てる!! スズメバチ!!」

 父のそばを周回するスズメバチをよそに、微動だにせず肉を真剣に育てる父親の姿。

「なんでwww そんな平気なことある?www」

 その姿がなんだかおもしろくて、元気になった。
 笑いは人を元気にする力がある。

 MPが少しだけ回復した私も、父に倣って肉を焼くことにした。

安い肉でも、外で食べれば無問題


 こんな時でも肉はうまい。
 肉はいつだってメンタルを回復してくれるのだ。

ビジュ爆発


 肉を焼いて満足したのか、父はその後すぐに帰っていった。

 殺虫スプレーを撒いたのが効いたのか、それから少しだけ平穏な時間が訪れたので、焼肉セットを片付け、読書タイムに入る私。

 ……だが、平穏な時間はそう長くは続かなかった。

 スズメバチは、戻ってきた。

 結局戻ってくるのだ。
 そこに甘い樹液がある限り。

 解散したパーティー。
 ここに存在するのは私、一人。

 突如戻ってきたスズメバチに慌てふためき、借りていたハチ撃退スプレーを──初めて拳銃を握る子供のように──私は慣れない手つきで勢いよく噴射した。

 プシャーーーーーーーーッ
「にぎゃああああああああ!!」

 ……勘のいい方は、ここで私がどんな状態に陥ったかお気づきかもしれない。

 そう。
 慌てた私は、スプレーを逆噴射してしまったのである。
 つまり自分の顔面に殺虫剤を噴きかけてしまったのである。

 だってなんか!
 拳銃だったら、長いほうから発射するって思っちゃったんだもん!

いま見たらそんなわけないって思うよ!?
でも慌ててたから!
拳銃ぶっぱなす気持ちだったから!


「もーーーーーーーやだ!!!! もう帰る!!!! 絶対に帰る!!!!!」

 私はすぐに水で顔を軽めに洗い流し、泣きながら撤収作業を行い、泣きながら温泉に行った。

 温泉は、最高だった。
 どんなときだって、温泉は最高なのだ。

 米を炊くことも叶わなかったので、温泉施設で肉うどんも食べた。

 肉うどんは、最高だった。
 どんなときだって、肉うどんは最高なのだ。


 いろいろあったが、このキャンプは私に様々なことを教えてくれた。

 少し涼しくなったからといって、秋の虫を舐めてはいけない。奴らはむしろ活発になっている。

 新しいキャンプ道具を、初心者がキャンプ場で初めて使う行為はメンタルと体力を持っていかれる。もっと日常で使い慣れろ。道具は友達。

 そんな教訓から次の日は家でまたホットサンドを作りました。

火の扱いには十分注意しましょう


 冷凍焼きそばをチンしての、焼きそばパン。
 さすがに天才の所業でした。

追いソースとマヨがミソ
味は濃ければ濃いほどよい



 いろいろあったけれど、もう少し寒くなったらまた冬キャンに行きたいです。

 なんだかんだで、不自由を楽しんでる。

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スズメバチが あらわれた!
 たたかう
 にげる
 ぼうぎょ
▶どうぐ

りい 痛恨の ミス!
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