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視点『SHARE'S』C・Dチームの感想

2023年3月17日に座・高円寺1で観た2023年3月17日に座・高円寺1で観た視点『Shares』C・Dチームの感想

昨日につづいて視点『SHARE'S』を。
A・Bとは全く違った面白さの2団体、たっぷりと楽しむ。

・食む派『冷やし中華いななき』

脚本・演出 :はぎわら氷雨子
出演 :松本みゆき(マチルダアパルトマン)、江原パジャマ(バ萬)
岩本えり、岡本篤(劇団チョコレートケーキ)
波世側まる

舞台上には食堂の机が三組、下手に入り口が用意され、舞台前方には「冷やし中華」の青いのぼりが立っている。そののぼりを定食屋の女が片付けようとしているところに夫と臨月の妻が現れて「冷やし中華」が禁止されていると夫婦が女に告げるところから物語がはじまる。夫婦の言葉がどこか硬質で戯画的に抑制されていて、でもすぐに慣れ、その口調だと戯曲の面白さがくっきりと際立つことにも気がつく。「冷やし中華」禁止というところからすでに結構無茶な設定なのだが、そこに定食屋夫婦の馴れそめから「冷やし中華」禁止の背景までが綺麗に解け、しかも会話のところどころに入るツッコミや返しが、なにげに良く切れていて、全くあざとく感じられず、浮かず、いちいち面白くて、時に嵩に懸かった感も生まれそれがシーンの推進力ともなり観る側を繋ぐ。
松本みゆき・江原パジャマの定食屋夫婦の距離も岡本篤・岩本えりが担う客夫婦に垣間見える愛情も戯曲の企みをしっかりと映えさせる。波世側まるが演じる町内会の婦人もエッジが良く立っていて物語をクリアに膨らませていた。
定食屋の女が玉子嫌いというところからドミノを倒し、店が流行らないわけから冷やし中華が禁止になる理由までも解く戯曲のしたたかさにも舌を巻く。戯曲の幹の部分にも枝葉の部分にも両方に面白さが仕掛けられていて嵌まる。いななきの正体も効いていた。あの拍子木もなんかよいリズムだったなぁ。そうして終演時には自らの好き嫌いを曲げない定食屋の女の感慨がじんわりと観る側に沁みてきた。
ベタな言い方だけれどたっぷりに楽しんだその先で、コメディタッチであったとしても、良き俳優にしっかりと演じさせることができる戯曲は観る側をたくさんに満たすことを改めて実感した。

(休憩15分)

タイムテーブル

・Antikame?『声を見ている』

作・演出 :吉田康一
音楽 :山口紘
出演 :日野あかり、青澤佑樹、飯智一達、
高橋壮志、俊えり、杉原敏行

開演前に作演の方から物理的に非常に暗い時間がある芝居であること、20分くらい真っ暗なので、それが厳しい観客には最後列に最低限の光がある席が用意されている旨の説明があった。
開演すると闇、暫く闇を見つめる。やがて声が聞こえる。いくつもの声、闇のなかではその声が観る側の心のスクリーンに像を映す。その闇を凝視しながら受け取る。様々に語られることが視覚に歪められることなく、座標を持ち、ニュアンスを湛え、そのまま広がる。しっかりと闇を作れる劇場だから為しえる表現。その仕掛けには通路の段を示す小さな青い光すら邪魔に感じられたのだが、さすがにそれを消すのはまずいのだろうと諦める。たぶんこうして入ってくる感覚が表現される物のありのままの姿なのだと思う。
そうして随分長い時間、闇の中に現れては消える音を追い、印象に心惹かれ尽くしたそのあとに舞台には光が訪れる。俳優達のうごき、その座標、大きな枠の内と外。暫くみているうちにそれは歌舞伎の「だんまり」のようにも思え、ウーバーイーツの男の心に去来するものにも見え、大きな枠が意識の端境となり、訪れる言葉、宇宙から世界を眺めるような孤独、揺らぎと達観。意識に入り込み、意識の中を揺蕩い、意識の外へと去って行く物たちを描く舞台の風景に心を捉えられてしまう。
やがて舞台には更に光が増し、モンドリアンの絵画のありようが語られ、ウーバーイーツの心風景が多色の線や面の交わりに至り観る側に刻まれ心に残った。
当パンのAntikame?の作品紹介のページには正方形の中に縦横の線が引かれたものが描かれていて、開演前にはなにを区切る補助線かとおもったのだけれど、終演後には、ああこれか・・と得心した。

観終わって、A・Bの時と同様、C・D間の作風の隔たりにもびっくり。でも、同じ傾向の作品が二つ並ぶのとは違い、両方の作品の印象がそれぞれに際だって心に刻まれた。
良きカップリングだったと思う。

視点『SHARE'S』A・Bチームの感想はこちら
視点『SHARE'S』E・Fチームの感想はこちら
視点『SHARE’S』G・Hチームの感想はこちら


座・高円寺 外観

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