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ききすぎ

ラジオが好きなので、いつも聴いている。

中学生の頃、ラジオを聴き始めた。学校から帰ると、ずっとラジオの前に座って好きな曲が流れてくるのを待っていた。ラジオもテレビと同じように番組というものがあり、音楽を聴きたいならそういう番組を選んで聞けばよい、ということに気づくまでしばらく時間がかかったと思う。とにかく、いつ好きな曲が流れてくるかもしれないという危機感にも似た気持ちでずっとラジオを聴いていた。

ラジオにもテレビのように「局」というものがあって、ダイヤルを回すと違う局の放送が聴こえてくる。それが「周波数」というものだと知るのはずっと先のことなのだが、ぐにゃりとした音がバリバリという雑音と共にだんだん焦点が合うような感じでクリアな音で聴こえてくるのが不思議だった。

さらにAMとFMというものがあって、FMの音質の良さに驚いた。『FMファン』という雑誌を買っていた。すっかり忘れていたが、買っていたことを今思い出した。表紙にはすごくおとなしい色合いの鳥のイラストとか描かれていたように思う。カラーの番組表と、広告のページしか覚えていないので、記事はちゃんと読んでいなかったのかもしれない。巻末だったか巻頭だったか忘れてしまったが、カセットテープのカバー用のイラストが描かれた厚紙が挟んであって、それを切り取ってお気に入りの曲を集めたカセットに差し込んでいた。

初めて聴く曲が誰のなんというタイトルなのかを聴き逃したときは、何日も慎重にラジオを聴いた。音楽番組は最初と最後にその日に流す曲のタイトルとアーティストの名前を言ってくれるのでペンを握って待った。

中学3年生からは、深夜ラジオにハマった。夜中にラジオを聴くために、早めに寝て夜中に起きることに挑戦したが、睡魔には勝てず、何度も朝方に悔しい思いをした。そのうち、「ずっと起きている」ということで解決したが、翌日は学校でボロボロだった。

そうまでして聴きたいか、と家族に呆れられたが、今考えるとあれは今で言うところの『推し活』であったと思う。

今でもよく聴く。最近は、音楽よりも誰かが喋っているのを聴くのが好きだ。イヤホンをつけていると、誰かの話を間近で聴いているような気がする。目の前にいない人を想像しながら、ニヤニヤしている。

ラジオにはジングルというものがある。CMや番組の区切りに使われる短い音楽とか、番組名を言うやつ。大人になってラジオ番組を担当していた時、プロデューサーが毎週のように新しいジングルを外注するので、どこにそんなすごい人がいるのかと訊いたことがある。「ああ、これはオーストラリアとか、カナダかな。安いんだよね」と言っていた。今となっては、何も根拠がないので、何かと比較するとか検証することはできないが、わたせせいぞうのマンガに出てくるような、セーターを肩からかけて袖を前で結んだ彼が爽やかに「安いんだよね」と言うと、なぜだか「ラジオの世界が遠くなった」と感じた。深夜に四畳半のたたみの部屋で、勉強机に向かって聴いていた、あの温かみはなかった。

今も毎日ラジオを聴きすぎて、テレビを見る暇がない。あ、それは言い過ぎか。

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