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おみやげ

そんなに好きなんですか、と思うほど、オットはお土産に「赤福」を買って帰る。オットの出張先は、東京か岐阜である。東京の場合は「東京ばな奈」が定番で、その理由は「ムスメが喜ぶから」だ。岐阜の場合はセントレアを利用するので、名古屋土産となる。名古屋のお土産といったら「きしめん」か「ういろう」じゃないのか、とわたしは思うのだが、オットは必ず「赤福」と「世界の山ちゃん」を持ち帰る。どちらのパッケージにも「本日中にお召し上がりください」と書いてあるが、たいていは最終便で帰るから、その日のうちに食べることはない。翌朝の食卓で、まずはムスメが開封し、2つくらい食べて学校へ行く。オットが起きる前にわたしがひとついただき、夫は出かける前に自分もひとつ食べていく。今朝は、ムスメがトーストに赤福の餡を塗って食べていた。世界の山ちゃんはまだ手付かずで、冷蔵庫の中だ。今夜の食卓に並ぶはずだ。

しかし、名古屋のお土産が「世界の山ちゃん」というのは理解できるが、「赤福」というのは全く意味がわからない。そこに売っている、というだけで、お土産の趣旨とは違う気がする。伊勢方面には行ったことがないのに。

そうそう、「赤福」といえば。大阪方面へ家族旅行をしたことがある。新大阪駅に到着し、改札を抜けたその足でオットは「あっ」と言ってお土産屋に入り、「赤福」を買った。当然、日持ちしないからホテルで食べる。12個入りだから、かなりのノルマだ。その日の宿泊は奈良駅前だったので、なぜか真っ暗な町並みを眺めながら、赤福をもぐもぐ食べていた。そして、二泊三日の旅行を終え、帰路につく。オットは再び新大阪駅で「赤福」を購入。「柿の葉寿司」と「赤福」を持ち帰り、夕食として食べた。

「赤福」は嫌いじゃないけど、何か腑に落ちない。ムスメも喜ぶけど、そこまで熱望している感じでもない。オットはなぜあのピンク色の包みを見たら反射的に買ってしまうのだろうか。今回の岐阜出張も「いやー、空港について、ちょっと時間があったけど、先に買っといたんだよ。それで搭乗の直前に見たらさ、山のように積まれていた赤福がもうほんの少しになっていてさあ。先に買っておいてよかったよ」と、Vサインを出さんばかりの笑顔で言った。

「今回は、食べ物だけじゃないぞ」とオットが上機嫌でカバンから取り出したものがある。「Tシャツ」だ。3枚もある。しかも、どれも背中に筆文字で「天下布武」と大書されたものだ。ムスメには筆文字のみのもの、わたしには中部地方の藩の地図と「天下布武」の文字、自分には織田信長のシルエットの上に座右の銘であろう文が書かれており、余白にはまた「天下布武」の書き文字。どれも黒地に白抜き、あるいは金や銀、という派手なものだ。「かっこいいやろ」と嬉しそうに言うオットをわたしは遠い目で眺めてしまった。

「いつ着るの?」と言いたいのをこらえて、「どうしてそれを選んだの?」と聞いてみた。どうやら仕事が終わってから、搭乗時間までかなり時間があるので、セントレアに行く前に岐阜城に寄ったそうだ。そこで、「もう来ることがない場所だから、買っとかなと思って」と、大奮発したらしい。確かに、観光地のお土産屋に売っているTシャツは結構いいお値段がする。そうかオット。よかったな。嬉しそうでなによりだ。

オットはひとしきり、織田信長の「人間五十年」の話をしてくれた。他にも何か喋りたそうにしていたが、もう0時を回っていたので「お先にー。おやすみー」とわたしは居間を出た。廊下に出た時、なぜ織田信長が好きなのか聞けばよかったな、と思ったが、そのままパタンとドアを後ろ手に閉めた。

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