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かたたたきけん

ムスメが小さい頃、母の日に「かたたたきけん」と「えいがけん」をもらったことがある。母に対して「モノ」ではなく「サービス」を提供しようとしたところに成長を感じた。その券は使わずじまいでどこへ行ったかわからなくなっているのだが、「映画券」には上映作品の欄に「長くつ下のピッピ」シリーズの他、「パットとマット」や「チェブラーシカ」が並んでいた。どれもわが家にあるDVDで、当時ムスメが楽しんでいた作品だ。ちゃんと自分でできるサービスを用意するあたり、幼いながらもよくがんばった。

さて、肩たたきといえば、母を思い出す。母はいつも肩こりを訴え、わたしを呼んだ。小学生のうちは「肩たたき」だったが、やがてそれは、「肩もみ」に変わり、「腕も」「腰も」「足も」と範囲を広げていった。うつ伏せに寝そべった母から「足の裏を踏んで」とよく頼まれた。時にはふくらはぎからお尻のあたりまで歩いて、と頼まれたこともあった。

母は給食の調理員だった。幼稚園の頃、一度職場を見せてもらったことがあるが、風呂のようなサイズの鍋をオールのようなしゃもじ(?)でかき混ぜるのだ、と教えてもらった。あれを毎日かき混ぜ、アルミの食器がぎっしり詰まったカゴを上げ下げしているのだ。その前に大量の食材を切ったり皮をむいたりしているのだから、肩もこるだろうし、足もパンパンに張るだろう。

わたしが高校生になった頃、親戚や近所のみんなから、「あの子はマッサージがうまい」と評判になっていた。そりゃそうだ。母がリクエストする場所を押せば、誰でも「あー、気持ちいい」と喜んでくれるのだ。「ツボ」は誰でも同じ場所にあるのだから、わたしには簡単なことだった。

社会人になってから、わたしも肩こりがひどくなった。原稿を書く姿勢が悪いせいか、いつも肩はガチガチだった。パソコンを使うようになってからは、目が疲れ、首がこわばった。マッサージやカイロプラクティック、整骨院を渡り歩き、岩盤浴やストレッチ体操など、良いと聞けば試し、マッサージ器具もいろいろと試してみた。

結婚後、オットに「肩をもんで欲しい」とお願いしたら、肩こりのない夫はめちゃくちゃに力を入れて、肩の骨をもんだ。腹が立つくらい要領を得ない。「そこじゃなくて、こう、もうちょっと内側の…」と言ったら、イラだった様子で「わからんわ!」と言い放ったので、そこで決裂した。以来、わたしはプロのお世話になるしかないのだった。

ムスメが中学生になってクラリネットの練習のせいか、「肩がこる」と言うようになった。わたしが肩をもむと「ほえええ」と緩んだ顔になる。喜んでもらうのは嬉しいが、結局わたしは歳を取っても誰かの肩をもむだけか、と思っていた。ところが今日、ムスメが「肩をもんであげようか」と言った。ありがたや。しかもムスメはツボをおさえ、適度な強度で指圧する。「ここがコルよね」とかいっぱしなことを言う。あああ〜。幸せ。嬉しい。

あの「かたたたきけん」、どこにいったかな。見つからないかな。

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