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街コン潜入大作戦②

~つづき~
開始時刻ちょうどに会場の扉が開いた。中に入るとスーパーサイヤ人を彷彿とさせる金髪がキマッた青年に出迎えられた。しかし服装はオレンジの武道着ではなく完全にキャバクラのボーイであり、怪しいところに来てしまったのではという不安がよぎった。
悟空のそれとは違って非常に丁寧な口調で対応していただき、受付で本人確認を入念にされたため、見た目とは違ってきちんとした運営のようである(無礼)。
確認が終わるとプロフィールカードなるものを渡された。ここに名前やら年齢やら職業やら趣味やらを書いていき、女性のプロフィールカードと交換して会話のネタ作りにするというシステムだ。街コン用のプロフィールなだけあって年収や結婚歴の有無、子供の有無を書く欄まである。TOEICのスコアを書く欄は無かった。就活じゃないんだから。
ここは真面目に書いておくべきだと考え、フルネームを丁寧に書き、特に趣味の欄を入念に書いた。やっぱり趣味の話が一番盛り上がるし、女性の趣味がどんなものなのかも興味があったからである。もちろんこんなアホブログをやっていることは秘密にした。

プロフィールカードを書き終わると席に案内された。居酒屋の半個室のような感じの席が会場内に並んでおり、しばらくすると他の男性もぞろぞろと入ってきた。
この日の参加者は男女各12人。街コンは以下のような手順で行われた。

① 半個室でプロフィールカードを交換し、1対1で話す
② 制限時間が来たら男性は次の女性の席に移動し、①と同じように話す
③ ①~②を全員にローテーションするまで繰り返す。
④ 気になった人の番号を告白カードなるものに書き、男女で希望が一致した場合、カップル成立

という感じだ。よくもまあこんなシステムを考えたものである。婚活ビジネス、恐るべし。
変なところで感心していると、私のいる個室に女性が入ってきた。本日最初のお相手である。私は緊張を悟られないよう笑顔で挨拶した。マスクで顔の全貌は分からないが、すらっとした体型でキレイめな感じの女性だった。向こうも笑顔で挨拶を返してくれ、つかみとしては悪くない。

挨拶を交わし終えたタイミングで主催者の「準備はよろしいですか?」という開会を促す声が会場に響いた。さっきのあのスーパーサイヤ人である。私もその女性も自然と背筋がぐっと伸びた。いよいよ開幕の時である。
サイヤ人の「それではプロフィールカードを交換してください。トークタイムスタートです!」
という合図とともにBGMが流れ出し、パーティ会場かのような雰囲気がその場を包み込んだ。サイヤ人、やるじゃねえか。
まずは趣味の話をする気満々だったが、相手のプロフィールカードを見た私は凍り付いた。

趣味が全く書いてねえ!!!!!!

どうしよう...。これでは何も話すことが無いではないか。しかもカードをよく見ると趣味だけでなくほとんどの項目が空欄だった。どうやら開始ギリギリに来たため、書く時間がほとんど無かったようである。
どうしよう...。出鼻をくじかれた私はかなり焦った。とりあえずお互いの名前を言い合ったが、もちろんそこから話題の展開は無い。しかし、沈黙を作ってはいけない。会話というものはテンポが大事なのだから。
プロフィールカードを見ろ!何か話題を見つけるんだ!何か無いか?何でもいい.....!
多分この時は想定外の事態に巻き込まれたことで軽いパニックに陥り、頭がおかしくなってしまったのだと思う。次の瞬間、気づいたらこんな言葉を口走っていた。

離婚されてるんですね!!!

あ!言っちまった!と思ったが、時すでに遅し...
ほとんどが空欄のプロフィールカードだったが、ご丁寧に離婚歴ありの欄に綺麗なチェックが入っていたのだ。書くにしても、そこ??
初対面の女性の離婚歴をほじくり返すというフェミニストからフルボッコにされそうな愚行を私は犯してしまった。しかし言ってしまったことは取り消せない。とりあえず

「すみません...」

と謝ってみたものの、明らかに女性の顔が引きつっている。
もうそこから何を話したのかよく覚えていない。早くこの時間が過ぎ去ってほしいとばかり考え、脳の記憶機能は完全に停止状態に陥った。
幸いと言うべきか、一人の女性と話せる制限時間は3分しかないため、私のデリカシー皆無発言を食らったこの人との別れはすぐに訪れた。まあ、でも離婚歴のある人なら別に相手にしなくていいや...というまたしてもフェミニストフルボッコ案件の思考で無理やり気持ちを切り替えた。

私の初めての街コンは思わぬ形で最悪のスタートとなったが、まだ始まったばかりである。残り11人の女性との戦いに向けて次の個室へと入っていった。

~つづく~

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