誰もが科学を楽しめる実験教室へ
こんにちは、サイエンスコミュニケーターのゆーみるしーです。2023年12月2日、つくば自立生活センター ほにゃらさんにお招きいただき「水の色を変えてみよう-障害があってもできる科学実験教室-」を実施しました!
開催のきっかけは、あるイベントで知り合った車椅子に乗っている方が、私が実験教室を開いていることを知り「障害があってもできる実験教室はできないか?」と声をかけてくれたことでした。
学校で必ず行う理科実験。しかし、障害のある方は自分の手で実験を行う機会が少ないことを知りました。
私も身体障害のある方と一緒にやる実験は初めてでした。今回、参加者に合わせて準備をして、実験を行った様子をシェアします。
どんな実験にする?
まず考えたのは、どんな実験にするかということです。
ほにゃらさんとの打ち合わせで、一番大切にしたい点というのは「自分で手を動かす経験」でした。学校の理科の授業で、他の人がやっているのを見ているだけ、という経験をしたことがあると、当事者の方にお聞きしました。そこで、グループではなく、一人一人が自分のペースでできる実験にすることにしました。
また、自分でやることが難しい作業については介助者の方にお願いすることになるとのことでした。その際に、参加者の方自身が参加した実感が得られるように「何かを選ぶ」というプロセスを入れようと考えました。さらに、小さいお子さんから参加できるように、目で見て楽しい実験にしたいと思いました。
これらの思いから、私の実験のレパートリーの中から「ハーブティーでカラフル実験」をやってみることにしました。
どんな道具を使う?
「ハーブティーでカラフル実験」とは、バタフライピーという青いお茶にレモンや重曹を入れて色の変化を見る実験です。(詳しい実験内容は以前書いたレポートをご覧ください)
この実験では、粉をはかりとる、液体に入れる、かき混ぜる、というのが主な作業になります。
粉をはかりとる作業では、粉を入れる容器を選ぶことができるようにしました。一人一人使いやすい容器が違うためです。小さいプラコップ、大きいプラコップ、紙の深皿の3種類を用意しました。
液体を扱うときには、取っ手つきのコップが使いやすいとアドバイスをいただきました。そこで取っ手つきの計量カップを容器として使うことにしました。
一人一人が自分のペースで実験ができるよう、手順を書いたプリントを配りました。絵と文字の両方で手順を示しました。
どんな場所で?
今回はほにゃらさんの事務所を使わせていただきました。普段から車椅子を使う方などがいらっしゃる場所なので、設備などはいろいろ使わせていただきました。
まず、机です。車椅子の方が使いやすい40cmくらいの高さの机が4台ありました。3台をコの字型に繋げて使用しました。
騒がしい環境が苦手で、別室で実験をしたいという方がいるかもしれない、ということで、扉が閉まる隣接の部屋にも机を用意してくれていました。その場合、私が行う作業の説明を見ることができなくなってしまうので、iPadを2台用意し、ZOOMで繋ぎ、実験の説明をする私の映像を個室でも見られるように準備しました。
実際にやってみて
ゆっくり進めて1時間半くらいで実験を行い、そのあと片付け、お茶を飲みながら懇談をする時間になりました。
実験の最後に「選ぶ」というプロセスを入れました。用意した中から一人ひとつ好きなものを選んでもらって、バタフライピーに入れてみました。
「理科の授業でやるような実験ができて楽しかった」「クエン酸と重曹を混ぜた液を放置したらどうなるのか気になった」などの感想をいただきました!
一方、道具については改善の余地があると感じました。
かき混ぜ棒やスプーンはよくある普通のものを使ったのですが、柄が丸くなっていたり、太くなっていたりするもののほうが、手先の作業が苦手な方でも持ちやすいかと思いました。
車椅子だと机の遠くの方にある道具は取りにくそうでした。使う道具が手の届く範囲に収まるように配置を工夫したらもっと実験しやすいかと思いました。
車椅子の上に台を置いてそこで作業された方もいました。水平ではないのでプラコップが傾いてしまうことがありました。高さがありすべりやすいプラコップよりも紙の深皿の方が使いやすそうでした。
ほかにも、介助者の方がコップをおさえ、参加者の方がかき混ぜているシーンをよく見ました。映画館の、ジュースとポップコーンを入れるようなプレートか、マグネットで固定できるような容器があれば、押さえてもらわなくても実験ができるのではと思いました。
誰もが実験を楽しむために
私はこれまで、手話を交えて行う実験教室やサイエンスカフェを開催したり、盲学校の授業を見学したりしてきました。そして、今回のさまざまな障害者を持つ方を対象にした実験教室を実践。これらの経験から学んだことがあります。それは、これらの実験のために行った工夫は、障害があろうとなかろうと、実験をやりやすくしたり、学びを深めたりできるということです。
作業手順を書いた配布資料は、耳が聞こえなくても内容がわかるようになるほか、聞き逃したとしても作業ができます。また、絵がついていれば、読字障害がある方にとっても補助になると思いますし、視覚優位の人にとっては文字を読むよりも理解しやすいはずです。持ちやすい容器は小さな子が安心して実験できるようになるでしょう。この工夫の結果、作業がスムーズにでき、実験の内容に集中できると思います。
つまり、誰もが楽しめる実験になります。今回の実験教室で、普段の実験教室をやるときにはなんとなくやれてしまっていて気づかなかった点が浮き彫りになり、より参加者にとってフレンドリーな設計になったのです。
私は実験系の大学院生でしたが、やはり実際に実験してみないとわからなかったこと、というのは多々あります。予想と違っていたり、想定していなかった現象が見られたり。そこからまた新たな発見が生まれます。科学を楽しむ・学ぶに当たって、自分の手で実験し、自分で観察をすることは不可欠だと私は考えています。
年齢や性別、障害の有無に関わらず、実験し科学を楽しめる環境をつくることは、私にとって一つの大きな目標です。自分自身が実践を続けるとともに、その経験をシェアして他の似た活動をしている方の参考になればと思います。今はひとつひとつの実践は「点」ですが、積み重ねることで線で繋がると期待しています。そして誰もが科学を楽しめる世界を描くと信じています。
科学教育 Advent Calendar 2023に参加しています
12/25までさまざまなトピックがありますのでぜひ毎日読んでください!
サポートは私の執筆時のおやつになります。よろしくお願いします。