その事実から必死に目をそらそうとしている奴もまだ多いと思うが、今年も夏が終わった。どう考えても終わった。完全に終わった。
『日中半袖で出歩けるうちはまだ夏だよ〜ん』とつむじに両手の指先を当てながら片足を上げるオールドスクールなポージングでおどけてみたり、
『6月と9月に挟まれた月だけが夏じゃないんだよ！』と詩的表現に走ってみたところでもはや手遅れ、俺たちの夏はもうはるか彼方に過ぎ去ってしまい、すっかり秋刀魚の美味しい季節になってしまったのである。

　さて、単刀直入に問う。
諸君にとって、今年の夏はどうだった？
『ヨーセイ　夏が胸を刺激する　生足魅惑のマーメイド』
シュバイツァー博士の有名な言葉だが、
夏は、諸君の胸を刺激したか？

　オウ、そこのギターケースを背負った青年。エレキギターを持ってるところを見ると、さては青年、ロックンローラーだな？　え？　大学の軽音サークルでユニゾンスクエアガーデンのコピバンやってる？　しかもギターじゃなくてエレキ大正琴？　そんな戯言で俺を撹乱しようったって無駄だ。違うとは言わせない、誰がなんと言おうとお前はロックンローラーだ。そのツラ構えを見りゃ一発でわかる、お前は断じて令和の世に古賀メロディーをつま弾くような軟弱者なんかじゃない。そんなロックンローラーなお前に問おう。今年の夏がどうだったか、とっくり俺に語って聞かせてくれ。

　なになに？

『初めて出来た彼女と花火大会に出かけた。浴衣姿の彼女の隣で見る打ち上げ花火はこの世のものとは思えないぐらい綺麗で、この瞬間が一生続けばいいのに、と思った』って？

　なるほど、初めて出来た彼女と花火大会に行ったってか。それはまったく最高の夏になったじゃないか。走馬灯の一コマに刻みつけられること請け合いだな。だがそんな幸せ絶頂のお前に、俺から一言、あえて伝えておきたい事がある。

　Fuck You（地獄に堕ちろ）

　真のロックンローラーが打ち上げ花火など見てどうする。そもそもロックンローラーには花火の鑑賞など不要だ。ロックンローラーが見ていい火柱はKISSのジーン・シモンズの火吹きパフォーマンスだけだと相場は決まっている。それ以外の火など今のお前には全く不要な視覚情報。いいか、金輪際、花火大会など行くな！　今のお前に花火は必要ない。まして花火が照らし出す彼女の横顔の儚い美しさに見とれて胸が締め付けられるように痛んだりするなどもってのほかだ。

　心を鬼にして言うが、お前がこれから打ち上げ花火を見ることは断じてまかりならん。むしろ、お前が打ち上がれ。お前が夜空に高く打ち上がるんだ。TPOもわきまえず見境なく打ち上がれ。平日午前の小田急快特ペースで打ち上がれ。生涯無礼講を貫け。飲み会が始まったら何より先に幹事の耳をカミソリでそげ。常に予想の斜め上を行き続けて周囲の度肝を抜くんだ。威嚇射撃を常に心がけろ。そう、お前が夏の星座にぶら下がって上から花火を見下ろすんだよ！！
お前が打ち上げ花火になれ！！！！！
お前が打ち上げ花火になれ！！！！！
お前が、打ち上げ花火になれ！！！！！！

　
　……今、俺の口から言えるのはそれだけだ。さて、他にもう一人ぐらい聞いてみようかな。オウ、そこの金髪ツーブロック君。その威勢の良いヘアスタイルから察するに、いっぱしのロックンローラーとお見受けするがお前はどうだ？　え？　スタートアップ企業をメインに営業戦略立案から実行までをハンズオンで支援するコンサルをしてるって？　そういう英語とかはわからない。そうやっていたずらに専門用語を並べ立てて偽りの仮面を被ろうったって無駄だ。俺にはわかる、お前はロックンローラーだ。さぁ、今年の夏のメモリアルを、俺にとっくり語って聞かせておくれよ。

　なになに？
『友達が持ってる葉山の別荘でビーチパーティーをやって、EDMを聴きながらリッツにいろいろなものを乗せて楽しんだ』って？

　そうかそうか、EDMを聴きながらリッツにいろいろなものを乗せて楽しんだか！
それは結構なご身分なこった。そんなお前にひとつだけ言っておきたいことがある。

Fuck You（地獄に堕ちろ）

　言うに事欠いて、リッツにいろいろなものを乗せて楽しんだだと？　しまいにゃ訴えるぞこの野郎！！　お前はリッツに、やれレーズンバターだのキャビアだのを乗せて楽しんだつもりかもしれないが、その実、お前が、リッツに、いろいろなものを乗せさせられていることに、なぜ気づかない。目を覚ませ、お前はナビスコの策略に溺れているだけだ。素材の味を堪能する舌もない人間に、トッピングの妙味など理解できるはずがない。そもそもリッツパーティーなどというのはロックンローラーの仕事ではない。それは沢口靖子の仕事だ。真のロックンローラーならリッツは生（き）で食うと相場は決まっている。お前はナビスコの手のひらの上で踊らされてるだけの孫悟空、もとい巨大資本の操り人形だ！　恥を知りたまえ、恥を！！

　……おーっと、おしゃべりが過ぎちまったようだ。それじゃ、そろそろ最後の曲に行かせてもらうとするか。天国のキュリー夫人にこの曲を捧げる。これでノレなきゃ嘘だぜ？

行くぜ、ラストナンバー、

人のセックスピストルズのTシャツを笑うな！！！