池田利基@エビデンスに基づく支援が一番優しい

名刺がわりにどーぞ。 https://researchmap.jp/rikiyan

池田利基@エビデンスに基づく支援が一番優しい

名刺がわりにどーぞ。 https://researchmap.jp/rikiyan

マガジン

最近の記事

  • 固定された記事

高卒認定試験の思い出

 今でこそ某国立大学で学術研究に勤しんでいる大学院生ではあるが,もう十年近く前,当時十代の僕はほんとうに仕事ができないタイプのいわゆる「使えないタイプの」フリーターだった。飲食のバイトのときはグラスを何枚も割ったし,肉体労働のバイトでは「もう今後来なくていいよぉ」とオジサンに言われたこともある。  みんなが高校に通っているあいだ,お金のために夜勤もやっていた。僕を雇っていた大人たちは皮肉な意味でのブラック企業の人々などではなく,ほんとうの意味でのブラックの部類の人々だったの

    • NPOのアウトカムが定まらないよ

      普段NPOを事業評価(もどき)を実施している者です。この活動が、ここ数年の生業です。 ヒト/モノ/カネを投入した結果、受益者にどのような変化をもたらしたのかを「アウトカム」と呼ぶのですが、これがなかなか定まっていません。 僕の脳内で定まらない、という意味ではなく、教育/福祉業界全体で全然定まっていない気がします。 個人的に子ども福祉のアウトカム評価に携わることが多い&僕のバックグラウンドが心理学なので、ここでは子ども福祉に関する心理的概念の変化を例示しますね。 行政やN

      • 2023年度の日本心理学会にて、優秀発表賞を受賞しました。

        タイトルは「オンライン伴走支援が生活困窮世帯の子どもと保護者の心理的変化に及ぼす影響――ランダム化比較試験による検討――」です。 この度は審査していただき、ありがとうございました。 本研究では、認定NPO法人カタリバで実施する生活困窮世帯への伴走支援「キッカケプログラム」の効果を検証しました。 本プログラムを実施した結果、子どもや保護者にいくつかのポジティブなアウトカムが認められました。 詳しいプログラム内容と研究結果につきましては、日本心理学会のHPから要約とポスター、キ

        • こども大綱の数値目標、ほんとうにこれでいいのだろうか?

          今年12月にこども大綱が策定され、目標数値(アウトカム)についてSNS上であれやこれやと言われております。しかし、意外とテクニカルな指摘が見当たらないのでここに書き残しておきます。僕が言いたいことは大きく三つです。 今回、数値目標を設定したこと自体についてはとても良いことだなと考えています。新しい取り組みが生まれては消え、結局アレってなんだったの?と振り返るときにデータが無いと答え合わせができないからです。 しかし、今回のこども大綱を見ていて、その中の数値目標の立て方に違

        • 固定された記事

        マガジン

        • 心理学論文
          5本
        • 雑記
          3本
        • 社会的インパクト評価のはじめかた
          2本

        記事

          ある聴こえかた

          思えば、昔から不思議なことばかりだった。 学校の先生の長い説明を、なぜクラスのみんなは理解できていたのだろうか。自分は黒板に書かれていたことを手がかりに、あるいはクラスメイトの行動を見て次に何をすればいいのかを判断していた。 勉強は人並みにできたが、英語のlisteningだけはゼロに限りなく近い点数をとってばかりだった。努力すればするほど、readingとlisteningの能力の差はひらいていった。 はっきりと違和感を抱いたのは、十代半ば。ファミレスでアルバイトをは

          聴覚情報処理障害の診断がでたので、経緯や詳細を詳しく書こうかな〜。APD向けの就労支援サービスって既にあるのだろうか??

          聴覚情報処理障害の診断がでたので、経緯や詳細を詳しく書こうかな〜。APD向けの就労支援サービスって既にあるのだろうか??

          NPOではたらくデータサイエンティストの独り言

          はじめに 普段、NPO(非営利団体)でデータサイエンティストをしているりっきーと申します。今回はNPO法人の寄付者向けに記事を書きます。長いですが、後半に大事なことを書いてます。できるだけお付き合いください。 もともと実験心理学の畑出身で、大学院時代は実験室で脳波計測や質問紙法を併用して研究をしておりました。 今は、教育や福祉というフィールドで、かなり大きな規模の社会実験に携わらせていただいています。 僕が現在のポジションに至るまでの経緯は、認定NPOカタリバの記事が詳し

          NPOではたらくデータサイエンティストの独り言

          社会的インパクト評価のはじめかた③~信頼性と妥当性編~

          ★はじめにこんにちは。りっきーです。 再掲になりますが、「支援を実施した結果、子どもたちの自己肯定感があがった」という報告には、いろいろと疑うべき点があります。 この自己肯定感の根拠となる質問項目が「わたしはじぶんのことを大切にしている」などという思い付きのような単一項目である場合は質問票として不十分です。 なぜ、どのように不十分なのか。それを説明するために、信頼性と妥当性という概念を紹介します。 ★思い付きのような質問票の何が問題なのか信頼性とは、「測定したい概念を

          社会的インパクト評価のはじめかた③~信頼性と妥当性編~

          社会的インパクト評価のはじめかた②~同意と倫理編~

          ★はじめにこんにちは。りっきーです。 今回は、効果検証をするときの同意と倫理についてです。 たとえば、あなたが具合が悪くなって病院に行ったとしましょう。 病院に着いて受付を終えると、まずアンケートに回答することが多いと思います。 その後、お医者さんに悩みごとや身体の不調を訴えて、問診や触診を受け、不調を解決するための治療等をお医者さんにしてもらうと思います。 一体なぜ、わざわざそんな手続きをおこなうのでしょうか。 適切な「診断」がなければ適切な「処方箋」を出すことができな

          社会的インパクト評価のはじめかた②~同意と倫理編~

          社会的インパクト評価のはじめかた①~導入編~

          ★はじめにはじめまして、あるいはこんにちは。 NPO界隈で社会的インパクト評価をおこなっているりっきーと申します。 2020年にNPO向けに事業の効果検証をおこなう団体を立ち上げて、早1年半が経ちました。 普段は様々なNPOとご一緒させていただいており、インパクト評価のための調査設計、データの統計的分析、レポーティングなどの仕事をしております。 ほんとうはもっともっとインパクト評価を盛り上げていきたいのですが、僕の知る限りでは科学的水準でインパクト評価できるプレイヤが非常

          社会的インパクト評価のはじめかた①~導入編~

          「支援」は時々文学的に映る

          2009年夏の深夜、16歳の足取りは軽かった。 その当時、大阪梅田のお初天神通りにあるネットカフェには既に通い慣れていて、自分よりも遥かに歳上のカップルと入れ違いで入店した。 その女性が持っていたビニール傘から雨滴が降りているのを見て、ああ、今日は満席なのかと思ったが、結局ほかに行くあてもなかった。 仕方なく店員に尋ねると、単独個室は空いているとのことだった。身分証明書など何もないので、ネットカフェの会員証は一度も作ったことがなく、その日もまた「会員証は持ってるんですけど忘

          現場から見た所感:子どもの居場所支援事業は成功しているのか?

             子どもの居場所支援事業に携わる「いち個人としての主観的意見」と、「研究者(のたまご)としての客観的意見」について書き残しておきたい。この記事で何が言いたいのか察しの良い方なら気づかれると思うが、本稿ではこの国の居場所支援事業が、圧倒的に前者の「主観的意見」による意思決定に偏っているということを中心に述べる。  子どもの居場所支援事業とは、主に地方自治体・NPO法人などが提供している安心や安全を子どもに提供できる居場所をつくり、さらには学習の機会も伴走支援しようという

          現場から見た所感:子どもの居場所支援事業は成功しているのか?

          ヒトの脳を両手で持つということ

          昔、実習系の授業で両手で脳の標本を持ったことがある。 それはほんとうに小さくて、軽かった。まあるい大脳の向こう側から脊髄がぶら下がっていて、その末端から液体が滴っているのに気を付けていた覚えがある。 写真を撮ってはいけないと言われたので、仲間と絵を描くことになった。 それまでに脳のイラストやアイコンはよく目にしていて、簡単に描こうと思えばいくらでも描けた。しかし、実際に脳を目の前にするとそんなふうに抽象的に描くわけにはいかない。 描きながら、誰の脳なのだろうかと、考えてい

          【心理学論文20】父親や母親が複数いる社会

           Christopher & Cacilda (2012)の人類学的な視点が面白かったのでちょっと共有したい。   アマゾン先住民の人々には、胎児が精子の蓄積によってつくられる、という信念があるらしい。長期にわたって子宮に精液が蓄積されることによって胎児が形成され、さらに性交をおこなうことによって追加される精液が、胎児のさらなる成長の原因となるのだという。  そのような思想のもと、生きていくのに有利な条件を我が子に与えてやるために、狩猟の上手な男、話の上手な男、親切な男、

          【心理学論文20】父親や母親が複数いる社会

          受験勉強よりも探究活動を頑張ったほうがコスパが良い?

           近年では一般入試よりも早い段階でAO入試や推薦入試で合格を勝ち取り、さっさと大学入試を済ませてしまう生徒が増えているらしい。文部科学省の調査によると、2019年度の大学入試者選抜の方法のうち、AO入試および推薦入試を採用している大学の割合は半数に上り、この傾向は過去二年間と比べて増加している。  一般に、このような入試形態では、志望理由書や調査書、在学期間中の課外活動を記載した報告書などが求められ、ほかに面接や小論文などが課される。  そこでは、自分がいかに魅力的であり問題

          受験勉強よりも探究活動を頑張ったほうがコスパが良い?

          +16

          セブ島奇行留学記 #2