「反ワクチン運動家と闘う医師――そして大多数の医師は口をつぐんだ」シュピーゲル誌掲載インタビュー翻訳

いま世界では日本の反子宮頸がんワクチン運動に対する警戒感が高まっています。欧州でもっとも発行部数の多い、独「シュピーゲル(Der Spiegel)」誌の許可を得て、2019年2月15日号掲載の私のインタビュー記事「反ワクチン運動家と闘う医師――そして大多数の医師は口をつぐんだ」の翻訳を公開できることになりました。わたし自身には「闘っているという」意識は全くないのですが、海外メディアはこういうタイトルをつけられます。引用の際には、翻訳であっても出典を「シュピーゲル(Spiegel)」と明記してください。

シュピーゲル:あなたは子宮頸がんの予防に関する啓発を行ったことで、激しい敵意にさらされ、裁判まで起こされていますが、なぜそんな状況になっているのでしょうか?

村中:話は日本でも若い女性が無料で子宮頸がんワクチンを接種できるようになった2013年にまでさかのぼります。その頃、日本でも接種対象年齢の女性の多くがこのワクチンを接種していました。ところが「被害者」の会を自称する人たちが接種をやめるよう呼びかけ、日本社会にパニックを引き起こしたのです。特に携帯電話で被害者だという少女たちの親が撮影した、ワクチンのせいでうまく歩けなくなったという少女や、けいれんするようになったという少女たちの映像によって騒ぎは大きくなっていきました。

シュピーゲル:日本社会がそういう人たちの話をすべて鵜呑みにしたということですか?

村中:そうなんです!中には、製薬会社が人々を病気にしてもうけるためにワクチンを作ったのだという人も多くいました。それからというもの接種率は70から1%以下へと下がりました。

シュピーゲル:政府はそういった社会的ヒステリーに対してどんな政策をとったのでしょうか?

村中:2013年6月、政府はワクチンを非難する声を受けワクチンの積極的接種勧奨の停止を行いました。そして、その状態は今日まで変わっていません。副反応検討部会は映像の症状とワクチンとは何ら因果関係はなく、恐らくは身体表現性の症状だろうとの評価を下しています。しかし、反ワクチン団体はそれを認めず、2016年7月にはついに子宮頸がんワクチンによるものだという被害に対する損害賠償を求める集団提訴まで起こされています。

シュピーゲル:他の国にも反ワクチン運動はありますよね。

村中:そうですね。しかし国ごとに対応は大きく異なります。反子宮頸がんワクチン報道が出たデンマークでも接種率は90%から20%に低下しました。しかし、デンマーク政府はワクチン接種を停止せず、逆に反ワクチン運動に対するキャンペーンを始めたのです。その結果、接種率は回復に向かっていきました。アイルランドでも同じことが起き、政府は大々的な反「反ワクチン運動」メディアキャンペーンを行って迅速に対応しました。しかし、どの国でも元の接種率にまで完全に回復したというわけではありません。一度広がったパニックを収めるのは至難の業です。

シュピーゲル:反ワクチン運動に対してあなたはどのような活動を行ったのすか?

村中:私は子宮頸がんワクチンは危険だというのは誤解であり、ワクチンは命を守るものだということを説明しようとしました。しかし残念なことに、日本でそういう発言をする人は私くらいでした。日本では毎年約3000人が子宮頸がんで命を落としていますが、ワクチンを用いればこれをほとんどゼロにすることができます。

シュピーゲル:WHOは日本に警告を出していますね。

村中:そうなんですが、日本ではそれを積極的に報じるメディアはひとつもありません。2018年にノーベル医学賞を受賞した私の恩師、本庶佑氏もストックホルムの会見で、日本の子宮頸がんワクチン問題に対する懸念を表明しましたが、それを報じたメディアもひとつもありませんでした。日本における反ワクチン運動は、同僚である医師たちを黙らせ、成功したと言えるでしょう。

シュピーゲル:子宮頸がんワクチンの薬害を証明したという研究もいくつかあるのですよね?

村中:そういった研究はどれも科学的と言える証拠を何も示していません。たとえば、テレビで大々的に報道された池田修一教授の発表は、マウス1匹の実験結果に基づくものでした。何か月もの調査の結果わたしはそれをつき止め、日本のビジネス雑誌「Wedge」にそのレポートを発表したところ、池田氏は名誉棄損だとして私を訴えてきました。

シュピーゲル:これから日本はどうなっていくのでしょうか?

政府は子宮頸がんワクチンの積極的接種勧奨の停止を続けるでしょう。その結果、ワクチンの接種を差し控えた女性たちは防げたはずのがんのリスクにさらされ、ワクチンの被害を信じる女性たちは回復の機会を失い続けることになります。

シュピーゲル:いま必要なことはなんですか?

村中:政府とメディアの強いイニシアティブです。政府もメディアもどういうメッセージを国民に届ける必要があるのかについて、もっと真剣に考え、行動すべきです。私の裁判はすでに2年半にも及んでおり、3月26日には判決を迎えます。この間、私のジャーナリストとしての状況は厳しいものでした。裁判期日には、反ワクチン運動家たちが裁判所に押しかけ、時には横断幕を掲げ、時にはワクチンの被害者だと主張している女性を乗せた車いすを押して傍聴席にやってきました。裁判所には、池田氏の発表が何千何万もの命に及ぼした社会的影響を考慮し、科学にもとづいた判決を下すことを祈ってやみません。

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「反ワクチン運動家と闘う医師――そして大多数の医師は口をつぐんだ」シュピーゲル誌掲載インタビュー翻訳

村中璃子 Riko Muranaka

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