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エッセイ | 振袖の色 | #シロクマ文芸部

「桜色だね…お嬢さんに合う色は」

呉服問屋でそう言われたことはとてもショックだった。



成人式の振袖を購入すると決め、できるだけ安く入手するため、母と呉服問屋へ足を運んだ。

通された畳の大広間には、仮縫いの振袖の山がいくつも積まれていて、何枚もの振袖に袖を通したが、自分に似合う色が桜色(ピンク)か白色(アイボリー)しかなかったのだ。

桜色だけは購入したくなかった私は、希望だった赤色や紺色などの濃い色がなんとか似合うように見えないだろうかと、姿見鏡に映る自分の身体の角度を変えてみるが、そんなことで似合う色が変わるわけもなく、自分には濃い色の着物が似合わないという事実を突きつけられただけだった。

思えば普段着る服も、ブルーでは顔色が悪く、色違いのピンクを買っていたのに、そんなに都合良く着物だけ違う色が似合うようになるわけがない。

どうしても桜色だけは買いたくなかった。可愛らしい姿になりたくなかったことと、人と違うものが着たかったのが一番の理由だ。桜色は大勢の同級生が選ぶような気がしていた。

選択肢はひとつしか残されなかった。

白地

真っ白ではないが薄らアイボリーに大柄の花模様の振袖を選んだ。ではその色で色々と羽織ることが出来たかというと、全く選ばせてはもらえず、最初に羽織ってみたその白を購入する流れとなり、店のおじさん(何人もおじさん従業員がいた)が、

「帯はこれしかない!」

と、綺麗なシルバーの帯をどこかからか持ってきて私が羽織っている白い振袖に合わせてみる。

確かに合う…

着物も帯も結局そのおじさんに言われるがまま購入することになった。
大人しい母も口が挟めない。

着物の値札で少し安心していた私は、チラッと見えた帯の値札にギョッとした。ひとつ桁が大きい。

バッグと草履はサービスだのなんだの言われてるが、もうそんな話は右耳から左耳へ流れ出ていき、頭の中はお会計がいくらになるか…の不安でいっぱいだった。

値札ほどではなかったものの、予定の2倍近くの高い出費となった。

恐るべし 呉服屋!

高い買い物にはなったが、きちんと縫い上がった振袖も、値札にビビった帯もとても美しく、着付け師さんからは柔らかくて結びやすい帯だと褒めていただける。

この振袖と帯は、当時、自分と家族が数回、数十年経った最近も、気に入ってくれてた何人かの身内が成人式に着てくれた。

時代を超えても、美しいと褒めていただける振袖の持ち主である私はとても誇らしい気持ちだ。選んだのは呉服問屋のおじさんだけど…

あの時は騙されたのかと思っていたけれど、私に似合う着物を選んでくれていただけだったんだよね。そう信じている。

ありがとう おじさん

桜色を選ばないでごめんね。


シロクマ文芸部の企画に参加しました。
2作目です。

小牧幸助さん
いつもありがとうございます。

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