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2020年 青森一人旅 ④


りんごの珈琲と湖畔の太宰

芦野公園駅は無人駅だが、すぐ横にある喫茶店「駅舎」で切符を販売している。芦野公園駅の写真を撮った後、お昼ごはんを食べ、切符を買うために「駅舎」に入った。赤い屋根が可愛らしい店に入ると、きれいに磨かれた木のテーブルに通される。

メニューをちょっと吟味して、馬肉の入った「激馬かなぎカレー」を頼んだ。馬肉というからどんなものかと思ったけれど、クセがなくて、上品な味わいのカレーだった。生クリームをかけてビーフシチューのようにしていただくと、クリーミーでとてもおいしい。

カレーの後は「りんごジャムーン珈琲」を飲む。これは新感覚の味だった。りんごジャムが入った甘いコーヒーで、苦みがまったくない。紅茶のような雰囲気なのだが、紅茶のような渋みがない。コーヒーの旨味や香りと、りんごの香りと甘み、おいしい要素だけを凝縮したような味でとてもおいしかった。

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食後は電車が来るまで、芦野公園を散策する。
太宰治像を目指し、道が分かれているところで地図を見ていると、犬の散歩をしている人が「太宰像なら右の道が近いですよ!」と、ちょっと遠くから大きな声で、聞いてもいないのに教えてくれた。青森には親切な人が多いのだなあ、と感動してしまう。

言われたとおり、落ち葉を蹴りながら道を歩いていくと、池のほとりに太宰像と文学碑があった。少し寒々しい松と湖を背景に、太宰治の像はとてもかっこよく見えた。金色の不死鳥がデザインされた文学碑も、こだわりが感じられてよかった。

木々の色づき始めた芦野公園は雰囲気も素敵で、水辺でぼんやりしたり、橋を渡ってみたり、自由な時を過ごした。
気が付けば電車の時刻が迫っている。急いで林の中の道を歩いていると、途中で死んだネズミの生首を踏みそうになり、ゾッとした。昔、I県の山の中でもネズミの生首を見たことがあるのだが、ネズミの捕食者は首から上は食べないのだろうか。食べてもおいしくないのだろうか。

なんとか、電車が来る前に駅に到着する。春は桜のトンネルになるという線路を写真に収めて、走れメロス号に再び乗り込む。
行きよりも乗車率が上がった車内で、再び女性の駅員さんの案内に耳を傾けた。行きとはまた違った内容のアナウンスで、五所川原のねぶたがとても大きいこと、その輸送費が目玉は飛び出るくらいの金額であることなどが分かった。今度は金木だけでなく、五所川原にも行ってみたいなあ、など旅の興味が深まった。


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弘前城と夕焼け

帰りは五能線で弘前まで帰った。地元の学校の制服を着た中高生が、空いたシートに行儀よく座っている。ゆったり静かな時間が流れていて、強烈な睡魔に襲われる。歩き疲れているのもあって、目を瞑りたい衝動に駆られたが、眠ったら電車を降りられなくなるので、耐える。

乗り換えで電車を待つ時間、駅のベンチに座った。リュックを開けると、何も気をつけていなかったので当然と言えば当然だが、朝買った「イギリストースト」がぐちゃっと潰れていた。
なんとなく甘いものが食べたくなって、袋を開ける。しっとりした食パンと、ショリショシした砂糖とマーガリンの味がおいしかった。これと同じようなものを、高校の購買で食べたことがあるなあ、と思い出す。ちょっとかじるつもりだったのに、気がつけば完食していた。


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弘前に着いて電車を降りた後、とにかく疲れていて、もうホテルで休みたい、とにかく休憩したい、と思う。
だが、ただ寝に帰るのもしゃくなので、駅近くのティーラウンジ「オークレール」でアップルパイを買ってホテルへ戻った。

荷物を置いてベッドでしばしごろごろしてから、アップルパイを食べる。とても素朴な、自然派のアップルパイだ。余計なものは入れていない、そのままのりんごの味がする。パイはサクサクではなくしっとりで、ナチュラルな味わいにぴったりだった。疲れた体に、ちょうどいいアップルパイだった。


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少し休んでから、バスに乗って弘前城に向かう。昨日見損ねた、弘前城からの夕日を見ようと思ったのだ。バスは津軽フリーパスで無料だった。

弘前城に行く前に、お土産屋さんに立ち寄る。昨日行った文学館の隣にある「想い出ショップさくらはうす」にて、探していた焼き干しをゲットした。

もう日も落ちかけているので、急いで弘前城の本丸に向かうと、閉園10分前だった。入場券を買おうとすると「あと10分ほどで閉園になります。建物の中には入れませんが、閉園後は有料区間も自由に入れますので、閉園後にお越しください」とのことだった。
確かに、今から入ったとしても、資料などを見る時間はなさそうだ。今日は夕日が見たいだけだったので、タダで入れるならちょうどいいかもしれない。

少し時間をつぶして、本丸まで戻ってくる。有料区域に入ると、今まで木の影に隠れてよく見えなかった本丸をしっかりと見ることができた。
あまり大きくはなくてこじんまりとしているが、どっしりとした飾り気のないお城だ。赤い夕陽を浴びて、より一層堂々としているように見える。

本丸の後ろに回るとひらけた展望スペースがあって、そこから岩木山が一望できた。念願の夕暮れに染まる岩木山だ。
とても天気がよくて、山のシルエットがくっきりと見えた。オレンジに輝く太陽も、徐々に紫色に染まっていく雲もとてもきれいで、写真を何枚も撮りながら、長いこと見ていた。
周りにはたくさんの人がいて、みんな夕日に目を輝かせている。昼間、観光している人が本当に少ないんだな、と寂しく思っていたので、この賑わいは少し頼もしかった。オレンジの光が岩木山の裾に沈むまで、夕日をゆっくりと楽しんだ。


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本丸の方に戻ってきた時にはすっかり暗くなっていて、ライトアップとプロジェクションマッピングのイベント「光の桜紅葉」が始まっていた。実はホテルに「光の桜紅葉」のポスターが貼ってあったのを見て、今日はこれも楽しみにしていたのだ。

本丸の周辺には、小さな人垣ができていた。本丸の壁に紅葉や桜をイメージした色とりどりの光が当たり、音楽が流れる。弘前城の装飾が少ない白い城壁は、光を映すスクリーンにぴったりだった。赤やピンクの鮮やかな光がよく映えていた。

しばらく観賞してから本丸を離れ、庭園を歩いていくと、柳の影からふわっとシャボン玉が噴き出してきた。これもイベントの演出だ。ライトアップの光に照らされて、とてもきれいだった。橋にもライトが照射されて、ピンク色に染まっている。ピンク色の中には泳ぐ金魚が映し出されていて、なんとも艶やかだった。

その橋を渡ると、色のついた光はなく、通常のライトアップのみになる。しかしお堀の水を反射して、木々が光る様子は、プロジェクションマッピングに負けず劣らず幻想的だった。とくに赤や黄に染まった紅葉は美しく、お堀の水が金色の斑に染まっていた。


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迷子の夜と貝焼き

弘前城を出て、お堀に沿って歩く。昨日教会に行ったのと同じ道を歩いて、ガイドマップにのっていたホテルニューキャッスルのアップルパイを買ってから、バスに乗って駅に戻ろうと思っていた。

お堀に沿って歩いていると、前から自転車に乗った中高生が何度かやってきたので、避けつつ歩く。危ないなあ、なんて思って歩いていると……気がつけば、さっきまで隣にあったはずのお堀がない。いつの間にか、全然知らない場所に立っていた。見覚えのない住宅街、美容室、街灯の少ない暗い道……ここはどこなんだ!? お堀に沿って歩けば大丈夫! と思っていたのに、なんていうことだろう……。文明の利器、スマホを使って現在地を調べると、目的地とは正反対の方向に歩いていた。

グーグルマップでルートを確認し、現在地をこまめに確認しながら、どうにかこうにか進む。途中、昨日中学生がわちゃわちゃしていて逃げるようにあとにした弘前カトリック教会を発見した。ステンドグラスが内側からの光に照らされていて、とても鮮やかだった。道に迷ったのは辛かったが、思わぬ収穫だった。

時間はかかったもののホテルニューキャッスルに辿り着き、アップルパイをゲットした。バスに乗り、無事ホテルに帰ることができた。


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部屋に荷物をおろしてから、夕食を食べに外に出た。
ホテル宿泊者限定の割引券がある駅前の居酒屋で、私は貝焼きが食べたいと思っていた。貝焼きとは、太宰の「津軽」で、熱烈歓迎のSさんが出そうとしていた料理だ。大きな貝殻を鍋代わりにして、キノコや海鮮などを卵とじにして焼く料理である。

最初に行った店は、貝焼きの割引券があったのだが、満員で入れなかった。どうしようと思っていると、同じく割引券が使える向かいの店の看板に、貝焼きの写真を見つけた。これだ! と思って入ってみる。すぐに店員さんがきて、カウンター席に案内された。

カウンター席は、2席ごとに1メートルぐらいの幅がとられ、コロナ対策がしっかりしていた。椅子があるところには背中に壁があり、廊下を挟んで向こう側のテーブル席があまり気にならないようになっている。

メニューを開いて、最初から最後まで目を通して、動揺する。どこにも貝焼きがない。2回、3回、と繰り返し読んだが見つからない。看板の写真は嘘だったのか。試しにスマホでこの店の口コミを見ると、貝焼きについての投稿があった。
どうしようと思っているうちに、注文を聞きに店員さんがきた。仕方ないので、刺身盛り合わせ無料のクーポンを使用し、ノンアルビールとチーズつくねを頼む。そしてダメもとで「貝焼きってありますか?」と聞いてみる。すると、「はい、貝焼きですね。おひとつでよろしいでしょうか?」と返され、あっさりと注文することができた。
なんでメニューに載っていないのだろうか……別な席に座れば、壁に貼ってある紙とかに書いてあるのだろうか……謎である。

飲み物、お通しのサラダ、刺身、つくねがきて、最後に貝焼きがきた。お皿の上に、どんと大きなホタテ貝がのっている。貝の中には小さな貝柱やキノコなどが卵とじになったものが入っていた。アツアツの貝焼きは、卵がふわっとしていてやさしい味だった。「津軽」では病気の時に食べると書いてあったが、確かにこれは弱っている時でも食べやすそうだし、体が温まって元気になれそうだ。魚介の出汁がきいているので、お酒のつまみにもいいだろう。

貝焼き、刺身、サラダ、つくねと少しずつ食べていく。頼みすぎたかもしれない。特につくねが思ったより大きくて、かなりお腹いっぱいになった。


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店を出てホテルに着くと、もう何もしたくない。昨日はホテルの大浴場(といっても、そんなに大きくはない。4人入れば窮屈に感じるくらい)に行ったのだが、この日は面倒になって部屋でシャワーを浴びるのみにした。

シャワーの後、ホテルニューキャッスルのアップルパイを食べた。繊細な編み目が美しい、アップルパイらしいフォルム。バターをたっぷり使っていることが伺える、香り豊かでサクサクのパイ生地。中にはりんごを煮た肉厚のフィリングがたっぷりつまっている。琥珀色のりんごは、噛むとじゅわっと果実が溢れて、とてもジューシーだった。まさに王道、ホテルメイドの高級なアップルパイだった。

その後はりんごソーダなどを飲みながらベッドでだらだらと過ごし、ぐだぐだになりながら眠った。


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参考

喫茶店「駅舎」

芦野公園

イギリストースト

ティーラウンジ「オークレール」

想い出ショップさくらはうす

弘前公園

光の桜紅葉

弘前カトリック教会

ホテルニューキャッスル ル・キャッスルファクトリー

くいもの屋 わん 弘前駅前店 食べログ

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