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考えるのは、手にまかせてみよう

父のお下がりのワープロをもらったのは小学生のときだった。自由時間のほとんどをワープロの前で過ごす子どもになった。そうして培われたタイピングの速さ、つまり手の動きそのものが、いつのまにか私のブレーンになっていた。

行き詰まったら、考えるのは手にまかせる。やがてそれがマイルールのひとつになった。頭のなかであれこれ考えをめぐらすよりもずっと早く、手が答えを見つけてくれる。今するべきことを探し出してくれる。原稿を書き上げてくれる。

頭の中だけで考えようとすると、湧き出した要素それぞれをつなげたり、削ったり、かけ合わせたりするのがむずかしい。いいアイデアを思いついても、やるべきことに気がついても、浮かんではすうっと消えてしまい、あとで「なにか思いついたのに思い出せない」という苛立ちを感じることになる。

紙に書き出すのはとても効果的。でも、頭で考える速さに追いつかないので、書いている間に別のアイデアがどんどん浮かび、消えてしまうのがもったいない。やはり後から「さっき思いついたのは何だったかな」と考えを追う必要が出てきてしまう。だから、紙のノートでアイデアを練るのは、パソコンを使えない状況か、あるいは、あらかじめ決まったテーマがあるときだけにしている。

「なんだかもやもやするな」「頭のなかがいっぱいだな」と思うときは、手に考えてもらう。

とにかくパソコンを立ち上げるのが最初のゴール。そしてEvernoteやテキストファイルを開き、無心で、頭の中に浮かんだものをそのまま書き出してみる。それはやるべきタスクだったり、明日作りたい献立だったり、家事がラクになるアイデアだったり、誰かに連絡したいという気持ちだったり、さまざまだ。

大事なのは思いついた順に書くということ。たとえば献立のことを書いている途中で、原稿のヒントが浮かんだときは、1行、空欄行を入れて書き続ける。スピードを落とさずに、とにかく早く、たくさん、頭のなかが空っぽになるまで吐き出し続ける。
ひと通り、頭のなかにあった情報の切れ端を出し終えたらその日は終わり。一度でも手を動かせば、急いでやりたい大事なことは頭のなかに残る。それ以外は後からでも十分。すべてをクリアする必要もない。

頭のなかがいっぱいに感じるときというのは、単に、自分の容量を超えているときだから。やりたいことや、やるべきこと。その総量さえ把握できれば「なんだ、こんなものか」「じゃあ、これは後でもいいかな」と自然に答えが出てくる。

そんなわけで、今日もこうして手を動かしている。


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