百合姫読切感想・考察集18『多田さんは可愛い』

 かわいいは正義、という言葉がある。

 元は人気漫画作品『苺ましまろ』のキャッチコピーとして使用され、インターネット及びサブカル的文化の広がりにより、最近では一般社会でも通用する言葉になっている。その名の通り、可愛ければ大抵のことは許される、可愛いという価値観を至上のものとする表現であるが、昨今のサブカル作品でも、少し前のまんがタイムきらら系などを中心にその流れは脈々と受け継がれてきたように思う。

 思えば私が毎月購読している漫画雑誌『コミックキューン』もキャッチコピーの中に「かわいい」を標榜しているし、かわいいを求める層はいつでも一定数いるということなのだろう。ただ、かわいいは正義、という言葉と裏腹に、「可愛ければいいというものではない」という考えが個人的には最近の主流な気もする。

 その辺の話はさておき、今回は百合姫11月号より、第27回コミック大賞翡翠賞受賞作である、一丸煮先生の『多田さんは可愛い』の感想を書いていこうと思う。

あらすじ:隣のクラスの多田さんは学校一のイケメン女子。累はそんな彼女に密かに憧れを抱いていたのだが...


・確かなキャラクターの可愛さ

 タイトルに「可愛い」という言葉を銘打っている以上、第一にキャラクターが可愛いがどうか、が大事になってくると思うが、本作はタイトル通り多田さんの可愛さをいかに読者に訴えるか、の一点で構成されている。イケメン女子の多田さんが累のことを揶揄い、押すに押して、最後にギャップで「可愛さ」を見せる。極端な話をすれば、多田さんがギャップを見せるラスト3ページが本作の全てと言っても過言では無い。

 自分のペースで話を進める多田さんと、動揺しっぱなしの累という関係が、最後に逆転して...という作りや、そこに至るまでに多田さんの余裕たっぷりの表情の描き方などは、しっかりラストシーンの爆発力を高める要素になっていると感じた。肝心のラストシーンも、恥じらう多田さんの魅力が表紙絵との対比で殊更強調されており、本作のテーマである可愛さを伝えることには成功していると思う。

・「可愛さ」以外はまだまだ

 しかし、作品全体の面白さはどうか、と言われると、正直首を捻らざるを得ない。まずは展開がテンプレ的で平坦。このジャンルの王道といえばそうなのかもしれないが、何番煎じ感は否めない。前項では話の作りがラストシーンの爆発力を高める要素になっていると書いたが、そのような構成にしなければそもそも本作のようなキャラクターのギャップに主軸を置く作品は成り立たないのだから、当然と言えば当然の作りである。ストーリー自体に何か特色があるわけでも無いし、読み手が多田さんや累のキャラクターに対しての理解やより好きになる一助になっているわけでもない。そもそもというべきか、読切作品にありがちといえばそうなのだが、本作も限られたページ数の中で登場人物の掘り下げが出来ずに終わってしまい、キャラクターの内面を外見の「可愛さ」に繋げられていないと感じたため、その辺りの掘り下げがあれば更に良かったのではないか。

 また、基本的なコマ割りの単調さが目立つ。1ページに横長コマを4つ配置する4コマ的構成(わたてんのような形)は4コマ作品は勿論、1ページ毎に起承転結のある展開に合うのだが、本作ではそれが上手く機能していない。中盤の累が徐々に大コマになりながら叫ぶシーンなど効果的に使用しているシーンもあるのだが、多田さんに見た夢を問われるシーンでは次ページの大コマとの繋がりを悪くしてしまっているように感じた。とかく動きの少ないアニメを見せられているような感覚と言えばいいのだろうか、やはりコマ割りの単調さでキャラクターの魅力にマイナスがかかっているように思う。

・終わりに

 このように作品としての成熟度は今ひとつという印象が否めない。可愛さの他に何かもう一つでもアピールポイントが有れば良かったかもしれないが、現状の可愛さ一本では中々厳しいものがある。この手の作品はキャラクターの作りや展開が似たり寄ったりになりがちになる印象があり、そのジャンルの中で可愛さというのはいわば必須・最低限の要素である。この系統で攻めるのであれば、やはり可愛さにプラスしてストーリーの練り込みや表現力などの武器が無いと厳しいのではないか、というのが個人的な意見である。

 そういえば、多田さんのキャラクターはコミックキューンで連載中、昆布わかめ先生の『世界で一番おっぱいが好き!』の千秋に似ている気がした。その辺から影響を受けている作品なのかもしれない。

 色々と厳しいことを書いた気もするが、そこは取るに足らない個人の感想ということで許していただければ。
 それでは、駄文失礼しました。

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