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百合姫読切感想・考察集11『パンプスにあこがれて』

ヘッダーはみんなのフォトギャラリーより「さらさ ちさ」様の作品をお借り致しました。この場を借りて感謝申し上げます。

 2022年になってしまった。

 なってしまった、と言うのもおかしな話であるが、「門松は冥土の旅の一里塚」なんて言葉もあるくらいである。日々老いていくという事実を噛み締めつつ、限りある生の中で、数多くの素晴らしい百合に出会えるように日々を精一杯生きていきたいものである。

 というわけで、百合姫2月号より、『パンプスにあこがれて』(作:ゆでぱん)の感想を書いていきたいと思う。もう3月号発売してる(正確には本記事投稿日に発売)けどね...なんとなく買った真女神転生Ⅴが面白いのが悪いよ。

なおPCの調子が悪いのでiPadからの書き込みとなっているが、まぁ大した問題ではないだろう(適当)

あらすじ:カッコいいOLに憧れて都会の会社に就職した穂波百花。入社して一ヶ月が経ったある日、理想と現実のギャップに悩む彼女だったが、ある時少し怖い北園先輩のプレゼンに遅刻してしまい...?

・ストーリー・作画・キャラクター共に高レベル

 とにかくレベルの高い作品であった。

 理想と現実のギャップに悩む新入社員と、仕事のデキるキャリアウーマンな先輩、というコンビは王道の設定で理解しやすい。北園先輩はいかにも切れ者の有能上司といったクールビューティーなキャラデザで、穂波はロングスカートにハーフアップとふわふわとしたキャラデザと、このあたりもスタンダードな作り。それ故に純粋な「質」が問われることになるが、その点本作は素晴らしかった。

 作画であるが、全体的に細めの線で癖がない。時折見られるデフォルメ化も可愛らしく、穂波の喜怒哀楽や、北園先輩の隠れた優しさがよく伝わってくる。特に北園先輩は目元の角度を必要以上に上げなかったり、首飾りなどが丸型ではなく三角形など角のあるものにするといったテクニックで、優しさとクールさの両方を備えたキャラデザインを実現し、作画の質と相まってまさに穂波が憧れる存在として相応しいキャラクターになっていると思う。

 ストーリーはやや足早展開ながらも、先述の通り王道展開であるため必要以上に早く感じず、むしろリズム良く展開しているとも言える。それでは次項でストーリーについての感想を述べていこう。

・百合的再生産論

 穂波は題名の通り、パンプスにあこがれて都会就職を果たした。一方、北園先輩は昔、パンプスを履いた先輩にあこがれて、パンプスを履いていた。

 穂波は「ヒールを鳴らしてかっこよく仕事してる姿」に憧れを抱いていた、と話しており、それに対して北園先輩という「ヒール」は履いていないけど、「かっこよく仕事」の出来る存在に出逢った。穂波にとって北園先輩は自身の「憧れの具現化」であり、曖昧模糊な社会人像がこの瞬間に「北園先輩」という明確な形になったのではないか。

一方、北園先輩は過去回想で「ヒールを鳴らして楽しそうに仕事する姿」に憧れていたと語っている。名前こそ明かされないものの、その「先輩」に憧れてパンプスを履いていた。他の皆がやめてもずっとパンプスを履く「先輩」がかっこよく見えた、とも言っている。

 もうお気づきだろう。二人はそれぞれ、自分とは正反対の人に憧れを抱いているのだ。自分にないものを持っている人に惹かれるのはある種当然とも言えるが、その舞台を社会人百合、そして先述のような王道設定で進めたことにより、その普遍性から読み手からの共感を得られやすい作りになっている。

 また、二人が持った憧れが恋愛感情であるかどうかがまたどちらとも取れる部分であり、それもまた普遍性の副産物というか、多様な解釈が出来る良さもある。この憧れは次の世代にも続いていくだろう。北園先輩が「先輩」に、穂波が北園先輩に抱いたように、この北園先輩との出逢いによって成長した穂波に、また未来の「後輩」が憧れを抱き、この繰り返しは未来永劫続く。これはフランスの哲学者ピエール・ブルデューが提唱した文化的再生産ならぬ、「ゆでぱんの百合的再生産」である。この切実ながらも微笑ましい百合が脈々と続いていくと思うと、なんとも素晴らしいことではないか。

・真面目な子って好きなの

 さて、本作の重要なシーンの1つに、北園先輩が穂波に向かって「元気な子って好きなの」と話すものがある。この発言を受けて、穂波は赤面し狼狽するが、なんともあっさりとした「告白」シーンである。

 この告白はおそらく、過去に北園先輩が「先輩」から受けた言葉をもじったものではないだろうか。というか、穂波の足に絆創膏を貼るくだり以降は、おおよそ「先輩」と北園先輩の過去の追体験になっているだろう。このシーンはシンデレラのワンシーンのようなカットと北園先輩のイケメンっぷりが印象に残るが、靴を履かせる北園先輩の目は、穂波を通して過去の自分を見ているようにも見える。意図したものか分からないが、このシーンから1ページ後ろに捲ると、同じ目線に過去の靴づれに涙する自分がいるのも面白い
 
 そして作中では明かされなかった「北園先輩がパンプスを履かなくなった理由」が、この「元気な子って好きなの」というセリフに隠されている。このセリフを笑いながら話す北園先輩は、先述の過去の追体験という部分から考えると、「同じようなことを『先輩』から言われて、そのセリフを真似て穂波に話すこと」に対して、思わず微笑んでしまったと解釈することが出来る。

 即ち、北園先輩は「先輩」から「真面目な子って好きなんだ」とか言われたのだろう。それは「先輩」の奔放さや、「楽しんで仕事をする姿」が憧れだった北園先輩には衝撃だったのではないか。パンプスに代表されるように北園先輩は「先輩」の行動や仕草を真似ていた。それを先輩は「無理して真似てばかりじゃなくて、自分のありのままを伸ばしていこう」というメッセージという意味で、素の北園先輩が好きだと伝えたのではないか。それ以降、あるいは少し時が経ってその意味を知った時、北園先輩はパンプスを履くのをやめた、即ち「大人になった」のだ。穂波もまた、この「告白」を通じて、「大人」への第一歩を踏み出したのだ。

・終わりに

 社会人百合としては王道の設定ながら、それ故に深みのあるストーリーと高い作画能力が引き立った作品であった。これで百合姫本誌初登場らしいが、かなりのクオリティの高さで大満足である。個人的に最終ページの北園先輩の、過去を思い出してほっこりしたような笑顔と、穂波に見せるキリッとした顔の対比が好きである。

 結構自分なりの解釈で書いたのだが、まぁ正誤についてはある意味どうだっていいのだ。読み手がそれぞれの解釈で百合を楽しむことが重要なことなのだ....とは言ってみたものの、実際北園先輩と「先輩」は付き合っているのだろうか気になるところである。「仕事以外はだらしなくて世話の焼ける人」なんて言っているあたり、付き合っててもおかしくないよなぁ...。個人的には友達以上恋人未満のような程度だと思うんですけどね。そういった憧れと恋愛が混ざったような百合が脈々と続いていくわけですよ。

 というわけで、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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