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週末ロックダウン初日、人生を2周する

 ロックダウン――と言えど、日本における「ロックダウン」には強制力がなく、あくまで「要請」だから、海外で措置が取られているロックダウンとは別物なのだけど――初日(3/28)。本来は自宅でおとなしくするべきなのは百も承知なわけだけど、わたしは親友の家に引きこもることにした。というのも、もともと地元の親友二人と会う約束をしていたから。
 これでも、一応妥協した。本当は、久しぶりにドライブをし、海鮮丼を食べに行く予定だったのを、急遽お家集合にしたのだから。

 そんなわけで、最寄り駅で親友Nと待ち合わせ、もう一人の親友Kの家へ向かうべく、路面電車へ乗り込んだ。
 二両編成の、小さな小さなローカル線。ほとんどの駅間は徒歩で行けてしまうような近さ。電車の進みだって、ものすごく遅い。急いでる朝なんかに乗ったら、イライラしちゃうかしら、と思うほど。
 それでも、その日は土曜日で、多分昼からお酒を飲みながらお家でだらだら人生ゲームをする、そんなゆったりした一日になる予定。車窓に、ゆっくりのんびり流れていく、愛おしい地元の景色を眺めながら、がったんごっとん、小さな列車に揺られるのでした。

 Kの最寄り駅に隣接しているスーパーで買い出しをし、みんなで家へ帰る。
 誰もお昼ご飯を食べていなかったから、がっつりめのお惣菜やお弁当を真っ先に食べた。それから、「出しておいたよ」とKが人生ゲームの箱を指さすので、久しぶりにやってみることにした。
「人生ゲームするのあれ以来、あの、Kが東中野に住んでいたとき」
 わたしが言うと、Nが
「飲み会抜けて東中野に行った日だ!わたしもその日ぶり」
「わたしもだな」
とKも続く。
 三人とも三年ぶりくらいの人生ゲーム。車を選び、人を乗せるだけでも「わたし左ハンドル」
「わたしは右で」
なんて、そんなことで盛り上がれる。好きな人と過ごす時間はなんだって楽しい。偉大なり。

 一時間かけて、ゲーム終了。
「ねえ、誰も家買ってなくない?」
 誰かのこの一言で、「どこで買うんだっけ?!」と、ボード上で大捜索が始まる。
 マス目を一つずつ確認していくと、ある給料日で家を購入できたということが判明。
「家買わないとだめだ。もう一回やろう」
ということで、今度は付属のボードもつけてエリアを広げ、もう一度ゲームをすることにした。
 さらに一時間をかけ、二ゲーム目が終了。たしか、最初職に就けなかったわたしがビリだった。
「久しぶりにやると面白いねえ」
「もう六時だよ、早いね」

 人生ゲームの途中で、Kの彼も帰宅していたので、夕飯はどうしようかと四人で話し合う。
「海鮮丼食べに行くつもりだったから魚かなあ」
というKの一言から、じゃあ寿司にする?と彼が言い、出前にするか、近所のお寿司屋さんへ行くか迷った結果、外へ出ることに。
 Kにはもうすぐ二歳の子どもがいて、その子が寝てしまったタイミングで外へ出た。
「昼間暖かかったけど、夜は寒いよう」
と寒がりなわたしは、Kにその日返したばかりのマフラーを再び借りた。

 雨が降っていた。
 小学校から一緒で、中学で仲良くなったわたしたちには、
「三人で会う日は雨が降る」
というジンクスがあり、それを思い出してみんなで笑った。実際、小中学校の大きなイベントや、三人揃って出かける日はほとんど雨。
「Nのせいだね、雨女だもんね」
 中でもNが雨女という説が強い。ちなみにわたしは「降られない女」を自称している。わたしが家を出るタイミングで、雨が止まずとも小雨になったりすることが多いからだ。
「いやでもわたし、海外に一人で行っていたときはちっとも降られなかったよ」
「日本限定かもね」
なんてお決まりの会話をしているうちに、お店へ着いた。

 おまかせ十種類七千円のお寿司を「とりあえず」と頼み、乾杯する。
 美味しいものをたらふく食べ、たらふく飲んだこの夜が、わたしにとっては最後の外食、最後の居酒屋となった。これを書いている時点では、それから一度も外食をしていない。
 お腹いっぱい食べ、お店を出て、あまりの寒さに途中のコンビニに寄り、ホットコーヒーを買う。あったかいねえ、幸せだねえ、なんて言いながら、家路へ。

 すると、マンションの数メートル手前に、開きっぱなしの傘が転がっていた。雨はまだ降っているのに、一体誰が傘を捨てたのかしら、どんな事情かしら……と想像を膨らませようとした。が、
「これ彼のかも」
とKが言うので、彼に何かあったのかと慌てていると、Kが目の前に何かを見つけて駆け寄った。マンションの向かいのアパートの階段に、子どもを抱えた彼が雨宿りをしていた。
「もうこの子のお尻ぱんぱんでさあ」
という彼は、なんと家の鍵をKに預けたまま先に帰ってきてしまったのだという。
「何かあったのかとびっくりしたわ」
と、前科(去年キャンプへ行ったときに、誰にも何も言わずに消えてしまって、川に流されたと本気でみんなが思い込むという事件があった)のある彼をいじった。

 無事みんなで家に帰ると、今度はワンツースイッチをやろう!ということで、二対二のチーム戦をすることに。そんなこんなでわーきゃー言っていると、時間はもう日付を超える頃だった。
 まだ終電はあるけれど…。
 その日はNもいることだし、泊まる気はなかったので何も用意していなかったが、この時間から帰るのは面倒すぎるので、Kと彼のお言葉に甘えて、泊めてもらうことにした。

 いつも泊めてもらうときは、子どもとKと三人でお風呂に入るけれど、今日はNもいるので、Nとわたしでお風呂に入った。
「一緒にお風呂入るの、京都旅行ぶりかなあ」
と、三年前のことを思い返す。
「そうだねえ」
 シャンプーをしながらNが答える。ぼんやりと、わたしは言った。
「わたしが失恋したばっかりのときさ、Kが家まで迎えに来て、泊めてくれたのね。その時、いつもは赤ちゃんと三人でお風呂入るんだけど、Kと彼が気を使ってくれて、Kと二人で入ったの。お酒持ち込んで。ぬるくなってまずーいとかって言いながら。なんか、それがすごく嬉しかったんだあ」
「優しいよね、二人とも」
「うん」
 わたしは頷き、言った。
「なんか、人とお風呂に入るっていいなって、そのときすごく思った」
 つまり、今あなたという親友とこういう時間を持てているのが嬉しいの、と伝えたかったけど、直接口にするのが憚られたので、それでその話は終わりにした。

 いずれにせよ、なんだか幸せな一日だった。
 世界で一番すきな人たちと過ごす「引きこもり」なんて、楽しくないわけがないんだ。
 Nと二人でもぐりこんだ布団の中で、わたしは幸せを感じながら眠った。いい夢みられそう、なんて思いながら。


※春頃に書いたものです。
ぽつぽつ、日記的に投稿していきます。以下参照。


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