ショートショート:愛すべき計画殺人【869文字】
俺はSを絶対に許さない。
絶対に殺してやる。
でも、Sを殺したことで俺が捕まるなんてことも許せない。
発作的に殺してすぐに捕まるような犯罪者は馬鹿だ。
俺はそんなことはしない。
その準備のためなら、俺は金も時間も労力も厭わない。
その覚悟はできている。
まず、退職金で田舎に山を買った。
小さな中古の一戸建てと、広い庭、裏山。その一帯をすべて自分の土地とした。
結婚もしておらず、両親も他界している。兄弟もいない。
「定年後はゆっくりと田舎でスローライフを満喫しています。」
そんな穏やかなオヤジに見えるのが理想だ。
広い庭に家庭菜園を作り、慣れないDIYなどもやり、田舎暮らしを満喫するふりを続けた。
その一方、俺は家の裏山に穴を掘った。
毎日毎日、少しずつ、穴を掘った。
ここにSを埋めるのだ。
例えばSが行方不明になって、事件性が疑われたとする。
でも、死体さえ出てこなければ、事件にすることはできない。
そう、死体さえ見つからなければ、永遠に殺人事件は闇に葬られるのだ。
俺は毎日毎日穴を掘り進めた。
警察犬の鼻で嗅ぎ分けられるような深さじゃ足りない。
大雨が降って流れ出てしまうような深さじゃ足りない。
土砂崩れにも負けないくらいの深さが必要だ。
深く掘って、自分の背丈ほどになったので、はしごをたてて、さらに掘った。
すると、掘ったそばから壁が崩れてくる。
危ない。これではSを殺す前に自分が生き埋めになってしまう。
すると横幅も必要だ。
俺は広い土地を買っておいて良かったと実感した。
やはり計画はじっくり綿密に行うべきなのだ。
俺は年月を惜しみなく使い、広く深い穴を完成させた。
時間をかけてはしごを登り、上から穴を見下ろすと底が見えないほど深い穴が完成した。
これでSを殺して埋めれば見つからない!
高揚と興奮で胸を高鳴らせてスキップしながら俺は家へ戻った。
ポストにはがきが届いている。
【喪中につき年末年始のご挨拶は控えさせていただきます。父Sが永眠いたしました。】
・・・なっ!!!!!
茜色に染まる空。
どこかでカラスが鳴いている。
20年を費やした俺の計画殺人はゆっくりと幕を下ろした。
《おわり》
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