テールライト
突然の連絡だった。
地方に住んでいる母が、東京へ来ることになった。
理由を聞くと、東京観光だ〜 なんて言っているけど、本当は私の生活が気になって来るということを、私はなんとなくわかっていた。
私は今年で、東京へ出てきて丸一年となる。
仕事にもようやく慣れはじめ、いつの間にか地元特有のなまりもどこか薄れてしまっていた。
東京駅で久しぶりに見る母は、白髪もだいぶ増え、目尻のシワもハッキリ出てきていた。
ただ、笑った顔はいつもの母だ。
東京観光へ出発かと思いきや、母は私の家に向かうように言った。
やっぱりな、と内心思いつつも、変わらない母が、なんだか懐かしく感じた。
電車とバスを乗り継ぎながら私の家へと向かう。
移動中も絶えることなく、お互いの近況報告をしあっていた。
仕事のこと、実家のこと、生活のこと、料理のこと、テレビのこと。
話してるうち、薄れていた私の方言も母につられるように元に戻ってきた。
久しぶりの親子2人。
照れくさいような、嬉しいような、どこか安心するこの時間。
母が東京駅から新幹線で帰る。
出発準備中の新幹線を待っていると、母がおもむろにカバンを開ける。
「お小遣い。これでなにか食べなさい。」
と、3万円が入った封筒を手渡される。
お小遣いなんて、中学生以来貰っていないのに。
「やっぱり少し痩せたね。仕事を頑張ることはいいことだけど、しっかりご飯は食べるんだよ」
ホームにアナウンスが鳴り響く。
母が乗った新幹線がゆっくりと東京駅を出発する。
新幹線のテールランプが滲んで見えた。
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