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もし、1ヶ月間の休みがあれば。

車のラジオが、午前7時を伝える。

わたしは昨日、8年間勤めていた会社を退職した。

排気ガスの嫌な臭いを感じながらも、窓を開け、煙草を吸い
毎日のように渋滞をするこの道を通勤して8年。

嫌なことは酒で流し込み、煙草で息をするような日々。
季節なんて、テレビから流れる情報を、流し見するよう、流した。
仕事して、仕事して、仕事した、そんな8年。

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もう、職場には行かなくてもいいのに、
8年間の生活習慣だからだろうか、今日もまた、8年間の毎日と同じように、この道を走ってしまっている。

買い物に行きたい。
美容室に行きたい。
家で寝ていたい。
どこかへ遠出したい。
いっそ、日本から飛び出してしまいたい。

今日から、1か月、次の職に就くまでの休み期間が、
どう過ごしたらいいか、考えれば考えるほどに、わからなくなっていたのだ。

渋滞が少しづつ動きはじめた頃、
自分の携帯が鳴っていることに気が付く。

祖母からの電話だった。

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もう随分と弱々しくなってしまった声が、遠くから聞こえてくる。

「仕事辞めたんだって?」

うん。と、だけ答えると、

「たまにはご飯食べに来てね。」

そう言われて電話を切られた。

今日やるべきことを探していた自分にとって、
悩むことなく、行き先が決まった瞬間だった。

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久しぶりに食べる祖母の料理は、
お店で食べる料理や、自分が作る料理とは違い、
どこか、温かい感情を感じる料理だった。

祖母に

「よく頑張ったね」

と、言われたとき、
年甲斐もなく泣いてしまいそうだったが、笑ってごまかした。

祖母に、8年間のすべてを話した。
辛かったこと、嬉しかったこと、逃げ出したかったこと、挑戦したこと。
祖母はただ、優しく、頷き続けてくれた。

夕方、祖母の家を出るとき
不思議と、少しだけ上を向いて歩けるようになる。

次の仕事がはじまるまでの1か月
わたしは、自分の大切な人へ会いに行く、そんな時間にしようと思った。

家を出て、駐車場へと向かう角を曲がったとき、強い風が背中を押した。

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