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【精神障がい】就労への動機づけが下がってしまっていると感じる時の対応

【精神障がい】就労への動機づけが下がってしまっていると感じる時の対応
「サイコロジー・メンタルヘルス&日々のあれこれ」

 数週間前に、精神障がい当事者の就労支援について、医療の立場からコメントするシンポジウムに登壇させていただきました。そこで私(や他の登壇者)が発言した内容を、備忘録代わりに書き残しています。今回は、参加者(就労移行支援事業所)からいただいていたご質問「当事者の就労への動機づけが下がってしまっていると感じる時の対応を、どうしたらいいのか」についてです。

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1.当事者の動機づけは、しばしば変動する


 精神障がい当事者の就労支援を進めるにあたって、当事者の動機づけを尊重する必要があることは、いうまでもありません。就労をはなから諦めてしまっている人を励まし、就労をはやる人をなだめ、その人ごとに必要な準備を着実に進めた先に、就職と職場への定着がなされるのです。

 数か月または数年程度の長い期間で見てみると、その間に当事者の就労への動機づけが変動することは、決して珍しいことではありません。就労支援の現場では、一般的には、重い腰を上げてチャレンジしようとする動機づけの向上は歓迎される一方で、諦めてしまう、または優先度が下がり熱心さが減る、という変化は望ましくないと見なされがちです(なので、今回のような問い合わせが生まれるのでしょう)。

 私たちの就労支援は、「働かざる者、食うべからず」という価値観に基づくものではありません。就労は強いられるものではありません。当事者の判断が「働くことを諦める(動機づけが下がる)」方向に傾いたとしても、当事者と支援者お互いの了解の範囲内であれば、それは尊重されるべきでしょう。支援者は、当事者の動機づけが変動しうることを、よく理解しておかなければなりません。

2.動機づけの低下が「病状不安定」である場合には注意が必要


 とはいえ、当事者の就労への動機づけの低下が、全般的な発動性の障害として、病状(陰性症状や抑うつなど)不安定または悪化を反映している場合があることにも、留意が必要でしょう。生活全般が無為自閉の方向に傾いているような場合には、医療と連携した対応が必要になるかもしれません。

3.支援の質やミスマッチを考慮する必要もある


 当事者の就労への動機づけの変化の理由を、当事者のみに帰することは、妥当ではありません。就労支援の質が低かったり、当事者のニーズとミスマッチであったりするような場合、当事者の動機づけ低下は起こりやすくなります。支援者側の要因が、当事者の動機づけに影響するのです。

 職業訓練のメニューが、漫然としたものになっていませんか。職業相談が、求人情報の単なる“垂れ流し”になっていませんか。支援の質やマッチングの精度を高めていく地道な取り組みが求められます。そのために何をするべきなのかは、事業所ごとの事情に合わせて検討されるものであり、一般的なアドバイスは難しいことを申し添えます。ただ、職業訓練の場が“訓練のための訓練”になってしまわぬよう、職場見学を取り入れたり、訓練メニューに企業実習を取り入れたり、働く当事者の体験談を聴く機会を重ねたりすることは、就労への動機づけを保つために有効ではないかと思います。

(おわり)

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