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わたしの中の宇宙

夜闇に被布を纏いし稚児がおり紅い鼻緒がちりんと鳴った 

 地球という花台に活けた花たちは七割海の小島となりて 

 完璧な満月なんてないことを月を縁どる地球の影に 

 春雷に打ち捨てられたタンポポの茎から飛べぬ球体の庭 

 グングンと空を切り裂く飛行機のほつれた糸で纏り縫いする 

 わたくしの名を懐かしく呼んでいる黄昏時は黄泉の入り口 

 ビー玉と炭酸水の泡くぐりアンモナイトが闊歩する午後 

 見つめると錆びてくすんだ言の葉が心の奥でコトリと鳴った 

 今というアバンギャルドを超えてゆけ更新される我が身を連れて 

 軌道から外れることを畏れろと擦り込まされた教育の罠 

 鹿威し静寂を切る竹の音の幽玄の底月が出ている 

風が舞い重なり合いて隠された光の道に妖精を見た 

 嵐去り雲の絵筆で描かれた半円球の美しき空 

 葉が揺れて拓かれてゆく風の青わたしの髪に光が留まる 

 かぎろいの中たち上がる鳥達の囀り高くハウリングする 

 起きている眠っているの境界線だれが引いてる神業みたいに 

 赦されぬ想いを胸に秘めたまま墓場に続く永き道のり 

 月を見るわたしも草の端くれで風に揺られてあわいを泳ぐ 

 わたくしを掠め絡め取ってゆく名もなき風の行方を探す 

 眠り落つその始まりに意識無くきっとわたしの最期と同じ 

 おはようがエールに聞こえぬ朝でさえ満員電車に課せられた生 

 夜空から金平糖が落ちてきて眠りへの道開かれてゆく 

 わたしとはナニモノなのか問いかけの展開式が解けたらいいのに 

 意識するしないを問わず選ばれた誰にも歩けぬわたしの道よ 

 クラウドに転送された記憶たち所詮雲ならいつかは消える 

 葉が揺れて出たり消えたりする月を屈みて追いしわたくしの目よ 

 ハンドルを握った途端に降りてくる言葉の裾を掴めずにいる 

 踵から夕闇深く降りてきて空の紅きにカーテンを引く 

 色彩に雅を垣間見る国のあまりに多き色の名前を街

灯が等間隔に並んでる白い月夜の北欧みたい 

 死と生のあわいをぬいて駆け巡るコトバを取りし虫取り網で 

 今は亡き愛したものの魂を花束にして抱きしめている 

 山肌が雲の影をも抱きしめて衣替えした緑深きに 

 胸深く静かの海を持っている闇に浮かんだ月そのものの 

 美しき楕円を描く繭玉を上手く吐けずに蝶になれない 

 傘を差し小さなわたしだけの部屋咎められずに言葉紡ぎを 

 逢える日は次に逢う日のカウントが回りはじめる切ない日なの 

 強風の魔王が降りし幕が開き辺りいちめん靴音の海 

フォルテシモ、クレッシェンド、メゾピアノ、言葉はいつも五線譜の上 

 あおいのは空も緑も一緒なのチューブで出した色ではなくて 

 躊躇いの指先がタップする文字は淡く揺れたり恋のかげろひ 

 月影がわたしの素足横切ってレースの靴下履いてるみたい 

 再生の幹細胞よプラナリアふたつに割れたどちらがわたし? 

 わたくしの涙の朝を支えしは茶色の熊に擬態した缶 

 胸の奥バサバサ飛びし蝙蝠のぶつかり合いてキラリ消えゆく 

 幾重にもかさなり合った花びらの芯を探せど答えは見えない 

 窓を掻く雨筋の線横切りて消えた先には澄明なそら 

 並走し月がわたしを追いかける相対距離は変わらないまま 

 入れ子式マトリョーシカが網を張る私の中に子を宿すため

脳裏とは水晶体の奥の部屋しずかに像を結びし刻む

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