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夕焼けスムージー

橙色の温かい車内は
とろとろと溶け出しそうな匂いが
混じり合う

電車は駅に止まることもなく
乗っている者たちの眠りを継続しながら、街をくぐりぬけ見慣れた景色の中を周回している

夕焼けの電車の窓に映るのは二重にぼやけた唇の紅

白鳥座から点を残して飛び立った白鳥が
月をペタンと裏返して夜が始まる

このまま眠りから醒めなければ
心地良くしんでしまえるのかも
しれない

銀河を走らないことにした
頭上を走るのは時代遅れなのだと
朝と夜の船がすれ違いざまに告げたから

太陽の軌跡を、月の軌跡を忘れて
しまうほど、この星は屈折率が
高くなり、誰も見上げない空など
いらないのだと

こんなことなら
空なんか作るんじゃなかった

ため息が乗り遅れました
5分の遅延が出ています
人の飽和による処理速度が足らない

オレンジのカラコンみたいな目の色を自撮りしている夢の中でも

ついに電車自体が溶け出した
スムージーが
ドロドロと流れ出す先に
カップを持った夜が待っていて
眠っている人間を
ぱっくりと大きな口で飲み込んだ

身長の二倍に伸びた長い影白い線までお下がり下さい

書類を再び抱きしめたわたしに
電車の記憶は消えている

口元を舐めて味見をする夢占い師の
手で言葉にされるその一部は
吐き出されることを心待ちにしている

「ひつじの箱」より
推敲前の詩だったかもしれない。短歌がちと違うような。あとで「ひつじの箱」見てみます。

詩と思想(佳作)

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