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明日から『つかの間の道』がはじまります



明日から『つかの間の道』の上演がはじまります。観劇されて、宮崎さんどうしちゃったの?と思われる可能性もありますが、『ことばにない』を終えてから、私なりの理屈が通って今回の演出形式を選択するに至りました。当日パンフレットに5700字の『劇への抵抗ー軽さを起点として』という文章を書いています。

劇としてでなく、上演が上演として自立し得るために、という命題に向き合って、一緒に創作を行なってくださった『つかの間の道』に参加しているみなさんには本当にリスペクトしかありません。個が個としてありながら作り得る共同体の形について考える日々の中で、わたしは今回の共同体の形に、法(広義の意味での)が介入する「社会」をいかに生きていくかのひとつの道しるべを見た思いがしました。この作品を、今、このメンバーで創作し、上演する、ということが垣間見え、これは劇から上演が引き剥がされている状態のひとつ、と言えるのではないかと思いました。

劇作は好きだけれど、他に演出家に向いてる人は沢山いるな、と自身の演出家としてのあり方を『ことばにない』を終えた後に振り返る時間がありました。わたしが演出家としてやりたいことは一体なんなんだと。上演後すぐに向かった11月の喜界島、1月札幌での喜界島サンゴ礁科学研究所との演劇プロジェクトによって、わたしの持っている演出技術をサンゴのデータにすべて注ぎ込んで自身の演出技術を超える演出技術に出会いたいという欲望が芽生えるようになりました。
1月4日にキューピー主催の座談会で松田正隆さん、外島貴之さん、司会の飛田ニケさんとお話ししながら、座談会に向け資料をまとめながら、こういうことなら演出家を続けたいかもしれない、というような形式のことが頭に浮かびはじめるようになりました。松田さんも場所における主体を取り扱っている作家であることから、ある主体を戯曲の中でいかに扱うか、またそのような戯曲を上演する場合、上演としてのあり方をいかに規定していくか、ということについての現在地における私の逡巡をお話ししました。もしかしたら、半ば相談という形になっていた場面もあったのかもしれません。わたしが主体を戯曲の中で取り扱う時、その戯曲から引き剥がされた劇から自立した上演を行う必要があるということ、その上演のためには新たな演出形式が必要かもしれないということを考えるようになりました。またその演出形式の選択は、その時書きたいことを書くという劇作家としての自身の戯曲の創造性を拡張し得ることにもなる、と思うようになりました。

で、1月から『つかの間の道』の稽古がはじまりました。はじめのほうの稽古では、ホワイトボードにこれまでの作品で選択していた演出形式に対しての懐疑およびそこから逆説的に起こり得る演出形式の提示と、その形式が模索中のものであること、その新たな演出形式がわたしには必要である、という話をしました。おしゃべりの時間と上演に向けた取り組みの時間の二つの時間を稽古内でとりました。同時に1月ごろから演出論も書きはじめました。まとまった演出論を『つかの間の道』のメンバー、ムニのタイトルメンバー、山本伊等さんと神田真直さん、サンゴ研究所の先生たちにこういうのを現在書いてるのだけど、と送りました。山本さん、神田さんが演出論を読んでとても長い文章と同じくらいの長さの打ち返しの感想を送ってくれてすごくうれしかったし、一つの通過点としての文章をまとめることができたとも思っています。わたしは二人のことを同時代の作家として尊敬しています。サンゴ研の先生からは演劇プロジェクトを続けていく中でいつの間にか演劇に詳しくなっていて、詳細な打ち返しがありました。このこともすごくありがたかったことです。

そんなこんなでいろんな回り道をしながら、明日からの上演がはじまります。わたしが演出家を続ける選択肢は、演出家によって規定された世界が上演としてあるのではなく、毎回毎回異なる現象が起こりうる上演をつくる、ということでした。その上演の選択では、何度見てもその時その時の上演のトライの痕跡がある、ということです。わたしは今、今回の上演の創作に満足しています。また、そんな上演を毎度毎度の上演で行うというとてつもなく大変な選択を取ってくださった『つかの間の道』に参加する俳優のみんなのことをものすごくリスペクトしています。石渡愛さん、木崎由紀子さん、立蔵葉子さん、南風盛もえさん、藤家矢麻刀さん、吉田山羊さん、ワタナベミノリさん、本当にありがとう、毎日おつかれさま。明日からの上演、わたしも舞台面をピカピカにしたり、開演まで気持ちよく過ごせたり、場を作ることをがんばります。照明の緒方さんは素敵な地明かりをつくってくださり、舞台監督の水澤さんはわたしが言語化に詰まった時などにすごくわかりやすい言語化をしてくださったり、小屋入りしてからの場をまとめてくださいました。制作の中條くんは5700字の演出論を当日パンフレットに掲載することを承諾してくれ、素敵なZINEみたいにしてくれました。一緒に公演を行う『赤と黄色の夢』作演出の優美さんは合同通しや通しのたびにコメントを沢山くれました。あっという間なはずの距離なのに、なんとなく長い時間二人で作品のことを話しちゃう帰り道がとてつもなく楽しかったです。こういう団体のあり方もあるんだなと、優美さんの存在がとてつもなく心強かったです。

長くなってしまいましたが、よかったら明日9日からのムニの公演を観に来てください。

それでは!

宮崎玲奈

演劇作品をつくっています。ここでは思考を硬い言葉で書いたり、日記を書いたりしています。サポートをいただけますと、日頃の活動の励みになります。宮崎が楽しく生きられます。