財布持つのをやめてみました

「やっぱり分厚い財布はかっこ悪いですよ。今、みんなミニ財布でしょう」

ファッション雑誌の編集者と打ち合わせをしていて、そんなフレーズを聞いたのは約一年前。2018年の初めだった。ファッション関連の人々のこういうイン&アウトゲーム的な話題は、どうせすぐに廃れるとわかっていても気になってしまう。もはやその類の現場から遠ざかって長いので、イン&アウトといういい方もインなのかアウトなのかもわからないけれど。

当時、私が使っていたのは、某ブランドのブルーグレーの二つ折りの財布。ずっと二年周期でいろんなブランドの長財布を買い替えてきたけれど、もう少しコンパクトにしたくて二つ折りにしたのだ。しかし、長さはコンパクトになったものの、整理整頓が苦手な上にカード類は増えていく一方、厚さはさらに増すばかり。流行り廃り関係なく、分厚い財布ってやっぱりかっよくないよなあ。そろそろヘタれてきてもいる自分の財布がみすぼらしく思えた。

その後、打ち合わせや会食の時に気にしていると、なるほどおしゃれな人はミニ財布が多かった。ジミー・チュウだとかバレンシアガだとかの手の平に収まるぐらいのサイズのものを使っている。カード類は別にカードケースを使っている場合も少なくない。 VOGUEではミニ財布特集をしていた。小さい分だけ、色や柄を派手にするのも良さそうだ。

財布って、そうそう着替えるものでもない。バッグや靴と違って、一定期間使い続けなければならない。その時々の「自分の嗜好もしくは主張」をあらわすアイテムである。そう思い込んでいた。だから、財布には、きちんとした「クラス感」、カジュアルな格好にもドレスアップにも似合う「万能感」、他の小物とぶつからない「コーデイネート力」、そしてもちろん「使い勝手」を求めてしまう。アクセサリーであってアクセサリーではない、それが財布。私は、その上コンパクト加減まで求めようとしたのだった。欲張りすぎるでしょ。

どこのブランドのどの色のミニ財布にしようかなあ。もんもんとしながらも、目先の締め切りやら家族の入院やらなんやらで買い替えに行く時間も意欲もなく、少々色も褪せてきた分厚い二つ折りのブランドものを使い続けていた。なるべく人目に触れないように気をつけながらも。もしくは、「そろそろ買い替えなきゃ。今時、こんな分厚いのっておばさんくさいよねえ」といい訳をしながら。誰も聞いてないってば。

しかし、私の頭の中を突いてくれる出来事が立て続けにあった。

同世代の女友達と待ち合わせをしたら、iPhoneをホルダーで首からぶら下げ、手ぶらでやってきた。コートにコインケースと口紅を入れて。必要最低限のカードはiPhoneをホルダーに入っているという。彼女は、気に入っていた海沿いの豪邸を処分して、雪国に引っ越すところだった。十年前には都心の贅沢なマンションにいたのにね。分厚い財布に、ハンカチ、ネイルオイル、化粧ポーチに文庫本、それから老眼鏡まで放り込んである自分の重たいバッグがダサく思えた。

私よりずっと年下の女友達とランチの時、彼女は小さな四角い金色のケースからお金を取り出していた。なんでも、韓国で買った2千円程度のものだそう。いわく「なるべく、小さなバッグで移動したいんです」。そのためにポイントカードはほとんど切り捨てているとのこと。

私も、そんなにポイント人間ではない。マイルのこともよくわからない。小さな「お得」に振り回されていると、本当の醍醐味を見逃しそうで怖い。とはいえ、よく行く店で勧められれば、とりあえず作ってしまうこともある。でも、その大半は作ったきりで、それらのカードを財布に入れて持ち歩く毎日なのだ。

二人の女友達の、財布だけではなく、財布も含んだフットワークの良さが私にはまぶしかった。自分ももっと身軽になりたいなあと痛感した。

先日、飲みに行った男友達は、会計の際にポケットから現金の入った小さなジプロックを出した。カード類はブランド物のケースにしまってあった。それを見て、ピンときた。これかも!迷いまくっている自分への荒療治。ブランドがどうとか、分厚さがどうとか、ぐだぐだそんなこといっていないで、一回財布を持つのをやめてみようと思った。

ということで、現金と必要最低限のカードを 小さなジプロックに入れて持ち歩いている。その他のカード類はアニマル柄のカードケース。女性誌の付録だった。「どこそこの財布を使っている私」をとりあえず手放してみました。(ジプロックは KINOKUNIYAのものだけれど、小さくてもマチが広いのとわりと丈夫なので、これにした)この奇妙な財布に怪訝な顔をした友達もいて、その瞬間がけっこう気持ちいいのだ。ジプロックが破れてくるまでには新しい財布を探すつもりではあるけれども。

もしかすると私はブランド物の武装解除をしている時期なのかも。

ノーブランドのTシャツを着ていてもバッグや財布がいいものなら、それはおしゃれ、むしろ上級者のスタイル、みたいな感覚の海でずっと泳いでいたけれど、それは海でなくてプールだったような気がする。多分、こんなことをちまちま悩んでいるうちに、現金もポイントカードもみんなスマホに吸収されて財布が必要なくなりそう。そして、近い将来、スマホそのものもクラウドだかなんだかになってしまうのだろうなあ。なので、財布というアイテムが存在するうちに、もうちょっとそれを楽しもうと思う今日この頃である。




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甘糟りり子

作家。小説やエッセイを書いています。テーマは、女性の生き方だったり、鎌倉の暮らしや情報だったり、興味の赴くまままに書いています。バブルの語り部です。著作は『鎌倉の家』『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『マラソン・ウーマン』などなど。
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