「いらっしゃいませ」
その言葉はある日突然僕をどん底に蹴落とした。
誰もいない店内でポツンと1人、服を畳む仕事。
キラキラしたアパレルとは程遠い。
乱れもしない綺麗に陳列された洋服達。
お店にくるお客さんはおじさんばっかで、ほのかにかおる独特な匂い。それを隠すかの様に振り撒かれた香水の匂い。そして僕の嫌いなタバコの匂い。

「良かったらご試着してみて下さいね」
そんな言葉を言いながらただ時間が過ぎるのを待つばかり。他人の脱いだ靴を並べ「お似合いです!」なーんて。同じことの繰り返し。
毎日毎日毎日毎日。誰もいない店内で「いらっしゃいませ」なんて叫んでも誰も聞いてなんかいないし耳に入れようともしない。店の前を通る人達は僕の事なんて見向きもしない。
向かいのコーヒー屋さん、店員さんもお客さんもみんな笑顔で過ごしてるのに僕だけが1人違う世界にいる様で。
店内で流れる音楽だけが僕の存在を知ってくれてるみたい。

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